エンドレス記憶喪失-3

 春休みに入って、一週間が経った。

 宿題を取りに行ったあの日から、どうもおかしなことが続いている気がする。気がする、というより確実に続いている。というのも、知らないうちに見覚えのない場所に立っていたり、直前の記憶が何故か抜けていたりすることが多いのだ。最初の一日二日は良かったのだが、一週間も続くと流石に呑気にはしていられない。


 春休み三日目。友人の家に行こうと思ったら、待たせていた友人には断りの電話を入れなくてはならなかった。


 春休み四日目。母親からのおつかいを頼まれたため、近くのスーパーへ行こうと思ったら、おつかいは無事済ませたけれど、帰りが遅くなって怒られてしまった。


 春休み五日目。その日発売の漫画を買いに本屋へ向かっていたら、なんだか興が醒めて、その日は漫画を買うのを止めてしまった。


 春休み六日目。友人との約束があった為、最寄りの駅へ向かっていたら、もちろん、その日、友人との約束は見事に破ることになってしまったが。


 母親にこっそり相談すれば、気のせいだと笑われた。こっちは少しばかり笑い事ではないのだが。でも、そう言われてしまえばそうなのかもしれない、とそれ以上相談しなかった。いや、出来なかった。おかしな子と思われたくなかったからだ。

 それに、病院に行くなど大事おおごとにはしたくなく。俺はもうしばらく様子を見て、続くようであればもう一度、今度は両親に相談することに決めた。こんなことが続けば、さすがに気のせいではすまされない。おかしいと思われても、どうにかしなければ日常生活に支障が出てしまう。

 加えてもう一つ気になることがあった。それは毎日夢に、黒髪の乙女を見ているような気がすることだ。気がする、というのは俺がはっきりと覚えていないからなのだが、この現象が起き始めてから、毎日夢に出てきているような気がする。もしかして、乙女が何か、この不可解な現象を解決するカギになっているのだろうか……いや、そんなことはないか。そんな乙女がどうして解決のカギになるんだ。

 そんなことを悶々と考えて、春休み六日目は就寝した。

 

 そして、春休み七日目。


「俺、どうして……」

 散歩がてらに外に出てみたら、

 どうして、知らない場所に立っているんだ?こんな路地裏、俺は知らない。そもそも、こんな如何にも裏取引とか不良の喧嘩で使われそうな道に入るなんて滅多にない。

 一体、俺に何が起きているんだ。本当に、俺は可笑しくなってしまったのか?

 自然と体が震える。寒いんじゃない。恐怖と不安で、体が拒否反応を起こしているんだ。俺は両腕を抱きしめ、不安を払拭するようにさする。

「……帰る、か」

 何とかそう呟いて、俺は路地裏に背を向ける。震えはまだ止まらなかった。

 今日もいつの間にか知らない場所に立っているとは……帰り道に困らないから良いんだけど、それが逆に怖い。記憶がないのに、自分としては来た道を覚えていないのに、やっぱりおかしい。どうしたんだよ、俺。

 そんなことを内心ブツブツと思いながら、俺は帰宅した。そして、いつも通り家族と夕食を食べ、風呂に入って、寝た。


 その日の夜から、黒髪の乙女を夢に見ることはなくなった。

 同時に、翌日から記憶がなくなる現象も一切なくなった。

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黒髪の女神 みどりこま @cm119

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