704 ◆またも行き違い
「で、どういうことなんだ?」
あたしは街壁の外でベラお姉様に詰問されている。
「えっとですね、それは離せば長くなるから」
「時間はいくらでもある。一から順に全部話せ」
煙を上げるヴォレ=シャルディネのウイングパーツを外して、念のため少し離れた場所に置いておく。
周りにいた他の輝士さんたちは怪我が酷かったので救助に来た人たちに担架で担がれていった。
だからこの場にはベラお姉さましか残ってないのは幸いだけど……
「あ、そうだ。お姉様も街の中でちゃんと治療してもらった方が良いんじゃないっすか?」
「この程度の怪我なら自分で癒やせる。というか、もう完治した」
さすがファーゼブル王国最高の輝士さま。
まったく厄介な人を助けちゃったわ。
「一体どこであんなものを手に入れた? やはり、英雄王が関わっているのか?」
「え、英雄王?」
それって五英雄だっけ。
ファーゼブルの王様の兄弟だとか聞いたことある。
「違うのか」
「いや。そんなえらい人、会ったこともないし」
なんでそういう発想に至ったのか聞きたいわ。
……まあ、現実はそれよりもっと突拍子もないんだけど。
「お前は英雄王に会ってるはずだが……いや、この際それはいいだろう。だとすると、その
「それは……」
どうしよう、言っちゃって大丈夫かしら。
時々見せるミサイアの本性を思い出すと、口を滑らせたら殺されそうな気もするわ。
かと言って、黙ってやり過ごそうとしてもお姉様に殺されそうだし。
あれ? あたし、もしかして超絶ピンチ?
「あ、いたいた。おーい! ナータさーん!」
あ、ミサイアが来てくれたわ。
輝動二輪がしゅわしゅわ音を立てて近づいてくる。
あたしの側で停止すると、大げさに足を振って機体から降りた。
「よっと、大丈夫でしたか?」
「大丈夫じゃないわよ。また落下して死ぬかと思ったし」
「どれどれ……って、なんであんなところに置いてるんですか!? 盗まれたらどうするんですか!」
「誰もあんな重いもの盗まねーわよ。ってか、爆発でもして巻き込まれたら困るし」
「確かにその危険はあり得ますね」
あり得るのかよ。
「それで、この方は?」
ミサイアはベラお姉様の方を見た。
お姉様は鋭い目つきでミサイアを睨み付けている。
もちろん、ミサイアはちっとも動じるようなそぶりはない。
「あたしの先輩よ」
「ベレッツァだ。ファーゼブル王国の輝士をやっている」
「おお、本物の女
お姉様の威圧をさらりと受け流し、なぜか尊敬のまなざしを返すミサイア。
そんな彼女の動じない態度に気を削がれたのか、お姉様は怒気を引っ込めた。
「ただ者ではないな。相当な修羅場を潜っていると見る」
「いえいえ。私なんてただの一般人ですよ」
絶対うそだからお姉様騙されないで。
「名前を聞かせてもらえるか」
「ミサイアと呼んでください、女騎士さん」
「ではミサイア。あなたは一体何者だ?」
「何者だと思います?」
「質問を質問で返すような態度は感心しないな」
「はぐらかすのが目的ですから」
うっわ、それは露骨にケンカ売りすぎでしょ。
ミサイアが常人離れしてるのは知ってるけど、相手が悪いわよ。
「言えないような素性の人間と言う認識で宜しいか?」
「まあ、そんなところです」
「しかし、街の防衛に協力してくれた。東の街門に現れた大剣使いの女性とは、あなたのことだろう? ならば少なくとも我々の敵ではないと思いたいのだが」
「それはもちろん。そちらに争う気が無い限り、この世界の人と敵対するつもりはありませんから」
「この世界?」
「あっ、馬鹿……」
こいつはどうしていつも簡単に口を滑らすの。
「なるほど、東国の出身者か」
あ、上手い具合に勘違いしてくれた。
あの王子さまが異常に勘が良すぎただけだったみたい。
普通に考えたら、異世界から来たなんて想像すらできないもんね。
「それで、あなたはこれからどうするつもりなのだ」
「ナータが魔物に襲われてる街を放っておけないって言うから協力しただけなので、このまま立ち去りますよ。それとも詮索しなきゃ気が済みませんか?」
「気になるのは確かだが……やぶ蛇になりそうな気がしてならんな」
「でしたら何も見なかったことにしてください。神話の奇跡が起こったということで納得するようお願いします」
聞きようによっては馬鹿にしてるとも取れる。
ミサイアの態度にあたしはさっきからハラハラしっぱなしよ。
お姉様、怒ってない?
大丈夫?
「では、それで納得しよう。正体を知られたくないのなら早く去った方がいいぞ。街の中にはしつこい人間も多いからな」
「ありがとうございます。さあナータ、行きましょう」
「ちょっと待って。勝手に話を進めないでよ」
別にあたしは単なる善意で乱入したわけじゃないんだからね。
「っていうかベラお姉様さ、あたしが得体の知れないやつと一緒にいるってのに、少しは心配するとかないの?」
「なんだ、心配して欲しかったのか?」
「質問を質問で返すなってさっき自分で言ったわよ」
「まあ正直なところ、得体の知れない力を持った者は輝士として見過ごせないんだがな。お前と一緒にいる人物なら心配なさそうだと判断した所はある」
「えっ? あ、ああ。そういうこと……」
べっ、別に信頼されててちょっと嬉しいとか、そんなこと思ってないんだからね!
「もちろん、お前が脅されるなどして、不当に言うことを聞かされているなら話は別だ。もしそうなら助けてやるが……どうだ?」
「うーん……」
「ちょっとナータ、悩まないでくださいよ!?」
「冗談よ」
偶然巻き込まれた形とはいえ、ドラゴンに焼き殺されそうなところを助けられたのは事実。
こんな遠くの国まであっという間に来れたのも、ミサイアのおかげだし。
口には出さないけど、そこそこ感謝してるのよ。
けど、あたしのいちばんの目的は絶対に譲らないからね。
「ねえお姉様。それよりルーちゃんがどこにいるか知らない?」
あたしが街を襲ってるエヴィルをやっつけるのを手伝った理由はひとつ。
ここにルーちゃんがいるかも知れないって思ったからよ。
あの子、今じゃ立派な輝術師になってるみたいだけどさ。
だからこそ無茶な戦いに参加させられてないかって心配なのよ。
直したばかりのヴォレ=シャルディネのテスト中に、一万を超えるのエヴィルの反応を感じた時は、また故障してるのかと思ったわ。
「つい数日前まで一緒にいたぞ」
「マジで!?」
ベラお姉様がいるってことは、もしかしたらと思ったけど……
やっぱりあたしの勘は正しかったわ!
って、数日前まで?
「いまは一緒じゃないの?」
「ああ。どこかに行ってしまって、探しに行こうとした矢先にエヴィルの襲撃があったのだ」
それはなんてタイミングの悪いこと!
「どこに行ったか見当はついてるの?」
「まったくわからん。そう遠くには行ってないと思うのだが……」
「とりあえず、この街にはいないのね?」
「それは間違いない。戻ってこれない理由があるからな」
よっしゃ。
そうとわかれば、もうこんなところに用はないわ。
下手に留まって新世界のイブだって名乗ったことを突っ込まれても面倒だしね。
「いくわよミサイア」
「あ、はい」
あたしはミサイアが乗ってきた輝動二輪に跨がった。
背中にヴォレ=シャルディネを担いだミサイアもリアシートに乗る。
「ルーちゃんはあたしが必ず見つけ出してみせるから、ベラお姉様は安心して待っててちょうだい」
「頼もしいことだ。もし出会えたら、私は別に怒ってないからいつでも戻ってきていいぞって言ってたと伝えておいてくれ」
「ケンカしたの?」
「まあ……そんなところだ」
そりゃ珍しいわね、お姉様はいつもルーちゃんにはだだ甘なのに。
「おっけ、伝えとくわ。んじゃまたね」
「ああ。元気でな」
さあて、改めてルーちゃん探しにレッツゴー!
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