681 わりとどうでもいい重大な事実
えっと、つまり……
「私のお父さんが、正体を隠してた英雄王さまだったってこと?」
ヴォルさんはこくりと頷いた。
英雄王さまは気まずそうに視線を逸らす。
「コイツはジュストを利用してアナタをフィリア市から旅立たせ、グレイロードと引き合わせて輝術師として鍛えてから、新代エインシャント神国までの過酷な旅を強いたのよ。アナタが自主的にそうしたと思わせるように上手く仕向けながらね」
へー、そうなんだ。
「どうする? 恨みを晴らすなら手伝うわよ」
「うーん……」
恨みって言われてもなあ。
「いや、別にいいかな」
「えっ」
だって、別に私としては仕向けられたって実感はないんだよ。
フィリア市を出たのも、修行や旅をするって決めたのも、最後は自分の意思だし。
「あれ? もしかしてルーちゃん、こいつの正体知ってた?」
「ううん。初めて知ったよ」
「だったら普通もっと驚くもんじゃないの。自分の父親が英雄王だったのよ」
「わりとどうでもいいかなって思ってるよ」
だってうちのお父さんってあんまり家にいなかったし。
小さい頃から放置され気味だったから、面倒を見てくれたのはほとんどベラお姉ちゃんだし、むしろベラお姉ちゃんのおじいさんのブランドさんの方がお世話になったくらい。
そういうのを差し引いても、お父さんの事なんて関心ないから、別に何者だってどうでもいいし。
むしろ旅の途中で一回だけ会った人が実は英雄王さまだったって言われた方が驚いたかも。
「おいこら。アンタまさか、ルーちゃんの怒りの矛先が自分に向かないように精神操作とかしてるんじゃないでしょうね?」
「痛い痛い! そんなことしてないぞ!?」
ぐいっと膝を英雄王さま……もとい、うちのお父さんに押しつけるヴォルさん。
っていうか私、本当はプリマヴェーラさまと魔王の娘なんだよね?
ということはこの人は本当のお父さんじゃないんだ。
いま気が付いたよ。
「英雄王さま」
「ぐおお……ル、ルーチェよ、これには深いわけが……」
「説明とか別にしないでもいいです。それより、実の子どもじゃないのに今まで養ってくれて、ありがとうございました」
しゃがみ込んでぺこりとお辞儀をする。
他人なんだから丁寧にしないとね。
「……アンタ、全然娘からの信頼を得られてないじゃない」
「くっ」
いっそ哀れみを込めた目で英雄王さまを見下すヴォルさん。
私はそれを別に可哀想だとも思わなかった。
だってどうでもいいし。
「あ、でもひとつだけいいですか?」
「なんだ!?」
何故か期待を込めた目で私を見上げる英雄王さま。
私はそんな彼をゴミを見るように見下しながら言った。
「うちの中に閉じ込められた恨みは忘れてないからね?」
「す、すまなかった……」
よし、謝罪の言葉を引き出せたよ。
あまりスッキリしてないけど許してあげましょう。
「ヴォルさん、もう離してあげて。こんな人でも伝説の英雄さまだし、連合輝士団に必要な人ですから、勢い余ってころしちゃったら大変です」
「むう……」
ヴォルさんはしぶしぶ英雄王さまの背中から退いた。
「げほっ、げほっ……」
英雄王さまは情けなく地面に蹲りながら咳き込んだ。
ちらりと門番の兵士さんに視線を向けるけど、目も合わしてもらえない。
「私は何も見ておりませぬ」
ぷぷっ。
部下の人からも見放されてやんの。
ざまあ!
「さて、どうでもいい事件がひとつ解決したことだし、さっさとジュストくんに会いに行こう!」
「仮にも父親だったのに、どうでもいいって……」
なんか英雄王さまがぶつぶつ言ってるけど無視。
こんな人のことよりジュストくんに会う方が大事だよ。
「そうだ。連合輝士団のえらい人ならジュストくんのいる場所も知ってるよね。案内してくれない?」
「ジュストなら今はこの街にいないぞ。俺の命令で外に出てる」
なんですって!
「どういうことなの!? 一体何が目的でそんなことをしたの!? ふざけないで! 黙ってないでちゃんと説明してよっ! あなたのせいで、ううっ、何もかもメチャクチャだよっ! 私の青春を返して!」
「そのセリフはさっきの時に聞きたかったぞ……」
あなたの感想とかどうでもいいし。
「ルーちゃん、本当はすごく怒ってるでしょ……?」
「いいえ別に」
別に怒りすぎて逆に冷静になって、本能的に一番的確に精神的ダメージを与えられることを言おうとしてるとか、そういうことではないんだよ。
「それでアル何とかさん、ジュストくんはどこに行ったの?」
「だから街の外だとさっき……」
「だから街の外のどこかって聞いてんだよはやくこたえろころすぞ」
「れ、連合輝士団の半数を引き連れて北へ向かった。かつて無い規模の魔王軍の大軍勢が街の北方に布陣しているとの情報が入ったからだ」
なんだ、そういうことか。
つまり今も輝士としてのお仕事を頑張ってるってことだね!
さすがジュストくん、真面目! カッコイイ!
北の方って言ったね。
どれどれ、新式流読みで確認してみましょう。
輝力の糸を伸ばして……調査開始。
「……北北西四十キロ地点に人間が二〇六人。これが連合輝士団の人たちかな。その向こうにはいろんなタイプのエヴィルが総勢二五〇八体いる。こっちが魔王軍だね」
敵の方が十二倍以上も多いじゃない。
こんなのジュストくんがいても勝てるわけない。
基本的にはビシャスワルト人の方が圧倒的に強いんだから。
「まさか、ジュストくんたちを捨て駒にしようと……?」
「違う! 俺はルティアに残って戦うよう命じたのだが、被害拡大を恐れたあいつが勝手に出撃したんだ!」
そっか、さすがジュストくん!
街の人達を第一に考える立派な輝士だね!
っていうかこいつ命令出したのに無視されてるとか、ぷぷっ。
「ルーちゃん、敵の中に将はいるの?」
「うーん……いないみたい」
「じゃあ、たぶん後詰めがあるわね。主力を引きつけた上で別方向から攻めようとしてるのかもしれないわ」
「なるほど」
「その通りだ。だから俺は――」
「おまえはだまってろ」
「はい」
とりあえず、私たちも力を貸さなきゃダメだね。
でも、万が一を考えたらこの街の守りを固める必要もある。
ヴォルさんに任せるか、お姉ちゃんたちを呼びに行っていいけど……
「よし。それじゃヴォルさん、ちょっと一緒に来てもらえる?」
「エヴィルの所に乗り込むの?」
「違うよ」
※
そして私たちがやって来たのは、ルティア北側の街壁の上。
数メートルほどの厚みがある街壁の上はちょっとした見張り棟になっている。
「どうする気?」
「あだっ」
襟首を引っ掴んだまま運んできたアルなんとかさんを壁際に投げ捨てるヴォルさん。
別にわざわざ連れてこなくても良かったんだけど、まあいいや。
せっかくだし見せつけてあげましょう
「ここから援護をするよ」
お姉ちゃんやナコさんのおかげで輝力は結構溜まっている。
さすがに夜将と戦った時みたいな使い方をしたらすぐに尽きちゃうけど、
「
まずは
私を中心に五つくらいでいいでしょう。
「
「
最後に弾を一二九発ほど用意して、それぞれ風の通り道の横に並ばせておく。
新式流読みでエヴィルの大軍の位置を正確に捕捉。
だいたい三十六キロ地点に固まってるから射程はギリギリかな。
前線に出てる輝士団の人達に間違って当たらないよう、後ろの方を狙おう。
あ、奥に強い力を持ったやつがいる。
軍団を率いてるボスかな?
そいつを集中的に狙って……
よおし、準備オッケー。
じゃあいくよ!
「砲撃開始!」
風の通り道で射程を伸ばし、激発装置で加速する。
触れたら爆発する
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