654 かわってしまったともだち

 ダイに破れた星帝十三輝士シュテルンリッターと言えば。

 ……ええと。


 いや、いやいや、違う。

 目の前のかわいい系男子と『あれ』がイコールで結べない。


「えっと、違ったらごめんなさい」

「はい?」

「……………もしかして、ユピタ、さん?」


 正直、絶対違うと思いたい。

 というか、殴られても文句は言えない。

 あんな不吉なおまんじゅうさんと間違えるなんて。


「はい、そうですよ」


 ええ、ええええ……っ?

 なんで、なんであれがこうなっちゃうわけ!?

 あっ、そういえばお母さんはすごい美人だったような気がする!


「ちなみに、今は繰り上がりで五番星を勤めています」

「そんな、声まで変わって……」

「お二方のご恩に報いるためにも、ぼくは命を惜しまず戦いに身を投じ、全身全霊を込めて平和と民の安寧を護っていこうと思っています」

「すごく立派なことを言ってる。あの気持ち悪い醜悪おデブの面影なんてどこにも残ってないじゃない。こんなの絶対おかしいよ」

「お、おいルーチェ、なんだか失礼なことを言っていないか?」


 お姉ちゃんだって、この劇的ビフォアアフターを見たら絶対同じこと思うよ!


「まあ、ぼくたちの事は置いておいて」


 私の失言も笑顔でさらりと流すユピタさん。

 どうやら性格まで良くなってるみたい。


「ルーチェさまに会って頂きたい人がいるんです」

「一緒に来てくれるだろうか?」


 超絶イケメンコンビに手を差し伸べられて誘われる。

 これを断るのはちょっと難しそうです。


「嫌なら断っても良いんだぞ」


 なぜか不機嫌そうな顔で私の肩を小突くベラお姉ちゃん。

 うーん、人と会うくらいなら別に嫌じゃないけど……

 ヴォルさんも待ってるし、面倒ごとは嫌だよ?


「ちなみに、その会って欲しい人っていうのは、どこの誰ですか?」


 怪しそうなら断ろうと思って尋ねてみる。

 マルスさんはさわやか笑顔で答えた。


「僕たちのリーダーさ。さっきのライブ、見てくれていたよね?」




   ※


 イケメンコンビに先導されて街路を歩く。

 道中、私は針のむしろだった。


「マルス様にユピタ様! ……と、あの女は何者よ」

「まさか、愛人!? あんな小娘が、どうして」

「許せない……殺してやるわ……」


 超絶美形星輝士の上、音楽活動においてもスーパーアイドル。

 そのファンたちの視線はもう殺気がこもりまくり。

 こわいよう。


「あ? なんだ貴様ら。私のルーチェに手を出してみろ、そっ首を刎ね飛ばして河原に晒してやるぞ」

「ちょっとお姉ちゃん!?」


 なんでそんな不良さんみたいなけんか腰なの!?

 相手はよその国の一般市民の方々だから!

 ころしたら国際問題になるから!


「お前たちもお前達だ。自分たちの軽率な行動が他人からどう見られるかくらいちゃんと考えろ。せめて自らを慕う者たちへのフォローくらいはちゃんとやっておけ」

「いや、まったく面目ない」

「好意を持ってくれているのはわかるんだけど、どうも女性の扱いは苦手でね。」


 申し訳なさそうに私に謝るイケメンコンビ。

 見た目に寄らず女性の尻に敷かれるタイプなのかもしれない。


「で、リーダーさんはどこにいるんでしょうか」

「もう着いたよ。ここの最上階だ」


 そこはまるでお城みたいな高級ホテルだった。


「すごい建物ですね……」

「姫のお気に入りのホテルでね。帝都アイゼンでも一、二を争う一流ホテルさ」


 姫と来ましたか。


「あの人って、この国のお姫さまなんですか?」

「いえ。ただの渾名です。ぼくたちと同じ星帝十三輝士シュテルンリッターですよ。彼女は半年前に星輝士に名を連ねたばかりなのに、あっという間にぼくたちを追い抜いて三番星に収まりました。これは歴代でもヴォルモーント様に次ぐ出世記録です」


 どっちにしてもすごい人らしい。

 歌ってる姿はただのアイドルにしか見えなかったけど。


「ルーチェさまをお連れした。姫に伝えてください」


 マルスさんはフロントの人にそう言って、ホテルの奥へと歩いて行く。

 ここには高層棟トゥルムでもないのにエレベーターがあった。


 七階で降りる。

 ドアが開くと、数名の男性とすれ違った。 

 彼らはマルスさんたちの姿を見るなり一斉に敬礼をする。


「お疲れ様です!」

「姫のお世話、ご苦労さま」


 ふたりの星輝士さんが答礼し、私たちはエレベーターを出た。

 入れ違いになるように彼らは中へ入っていく。

 よく見ると全員かなりの美形さんだ。


 エレベーターのドアが閉まった後で私はユピタさんに尋ねた。


「彼らはどなたですか?」

「姫のお世話役ですよ。輝士ではなく民衆から集められた者たちですが」


 うーん。

 なんだろう、何となくのイメージなんだけど……

 姫とか呼ばれてたり、美少年集団を侍らせてたり、その三番星さんには悪女のイメージしかないよ。


 アイドルの顔は演技?

 そんな人が、一体私になんの用なんだろう。




   ※


「姫! ルーチェさまをお連れしました!」


 ドアを開け、すっごい嬉しそうな声色で報告するマルスさん。

 私は彼の影から部屋の奥を覗き込んだ。


 中には例の派手な格好のアイドルさんがいた。


「うわあ☆ ルーチェさん、お久しぶりです!」


 彼女は女王様が座るみたいなソファから身を起こし、足早にこちらへ駆けてくる。

 その動きを察したマルスさんは素早く横に退いた。

 アイドルさんが飛びついてくる。


 私はそれを素早く避けた!


「なんで避けるんですか!?」

「いや、だって……」


 知らない人に抱きつかれるとか怖いんだよ。

 あと、飛びかかってきた瞬間、お姉ちゃんが後ろで剣を抜こうとしてたし。


「誰だっけ?」

「私ですよ、私!」

「そんな派手な格好の人は記憶にございません」


 いや、でもユピタさんみたいな例もあるからなあ。

 前に会っていたとしても、知ってる姿と違うっていう可能性もある。


 この人は明らかに私のことを知ってるっぽいし……

 あ、わかった!


「メルクさんだっけ。マルスさんの妹の。なんでそんな変な格好してるの?」

「違います! え、っていうかこの服、変ですか?」

「妹のメルクは国内の地方で戦っているよ。どうも僕たちの活動に理解をしてもらえないみたいでね。帝都にいるくらいならエヴィルと戦ってくると言って出て行ってしまった」


 それめっちゃ嫌われてるね。

 まあ、あの人マジメそうだったから。


 さてメルクさんじゃないとすると……


 この派手な髪はどう見ても染めてるよね。

 髪を染めてた人で、変な性格で、さらには姫となると。


「新代エインシャント神国のシルクさん! 無事だったんですね!」

「違います! なんでシルフィード王女がこんな所にいるんですか!」


 だって他に思いつかないもん。

 一体誰なのよ、あなたは。


「うーん。フレスじゃないことは確かだし……」

「なんで真っ先に否定するんですか!? 私ですよ、フレスです! ルーチェさんのともだちの!」

「嘘つかないでください」

「嘘じゃないですよ!?」


 私の知ってるフレスはちょっとブラックなところもあるけど、素朴な感じの清純な女の子だよ。

 ユピタさんの変化には確かに驚いたけど、この人がフレスなんて、どう考えても嘘と断言できる。


「あなたはなんの理由があって私の友達を騙るんですか?」

「騙ってません! 正真正銘の私です! どうすれば信じてもらえるんですか!?」


 うーん、そうだなあ……

 個人情報とかは調べればわかるだろうし……


「じゃあ、フレスの得意技だったあの氷の嵐を起こす術とか使ってもらえば」

氷弾暴風雨グラ・ストームですね、わかりました!」


 派手アイドルさんは早口で輝言を唱え始めた。

 室内だっていうのに黒い雲を呼び、氷の暴風を巻き起こす。


氷弾暴風雨グラ・ストーム!」

「うわわっ!」

「危ない!」


 即座にお姉ちゃんが魔剣を抜いて術を吸収。

 発動時間は一秒足らずだったけど、おかげで部屋の中はメチャクチャだ。


「ど、どうですか? 信じてもらえましたか?」

「部屋の中であんな大輝術を使うなんて非常識な……やっぱりフレスじゃない!」

「一体どうすればいいんですかっ!?」

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