601 多数決
結局、レジスタンスとの合流はナシになってしまった。
そうするとかなり時間をかけて西海岸まで行かなきゃいけない。
スーちゃんの見立てによると、短めに考えても三ヶ月近くも掛かるらしい。
しかも……
「それじゃ、明日のルートを決めましょうか」
いつも通りに三人で明日の予定を話し合おうとしていたんだけど……
「野外で夜を越すというのに、屋根どころか風よけすらありませんの? こんな無防備なキャンプは見たことありませんわ!」
「まったく、なんたる杜撰な一行か!」
なぜか青鎧のリバールさんとクレアール姫さまもいる。
彼らが話し合いに参加させろって言ってきたからだ。
「わたくしとて立場はわきまえております。ベッドを用意せよなどと無体なことは言いません。しかし、十分な休息を取るのなら、せめて寝袋くらいは必要ではなくて?」
「まったく、姫の仰る通りでございます!」
そのくせ、なんだかさっきから文句ばっかり言っている。
そりゃ、ここにはお姫様が気に入るような設備はありませんよ。
「申し訳ありません、姫。なにぶん急場の強行軍なもので……明日までには姫様専用の天蓋をお作りしておきますので、どうか平にご容赦を……」
しかも、アグィラさんまでお姫様を甘やかそうとするし。
彼女の要望に応えられないことを本気で悔しがっているみたい。
「アグィラ、それは違いますわ。わたくしは何も自分だけを特別扱いせよと言っているのではありません。皆に等しく十全な休息環境を与えて欲しいと言っているのですわ」
「なんとお優しいお言葉。このリバール、姫様の清らかな御心に触れて望陀の涙が止りませぬ」
このお姫様も基本的には良い人っぽいんだけどね。
ちょっと空気が読めないっていうか何ていうか。
「あの、そろそろ話し合いを始めたいんですが……」
「控えよ小娘! 姫が高説を賜っておろう!」
「良いのですリバール。輝術師殿、どうぞ協議を始めてくださいな」
「だ、そうだ! さっさと話し合いを始めろ! 馬鹿者!」
この人は……
いいやもう、イライラしてても仕方ない。
私はリーダーなんだから、ちゃんと明日の予定を決めないと。
※
例によって、アグィラさんが書いた地形図を見ながら、通るルートを決めて行く。
崖や深い川を避けるのはもちろん、可能な限り身を隠せる場所を通りたい。
今はまだ森の中だからあまり問題はない。
けど、これから先は草原や岩山も通らなきゃいけない。
森を抜けてからどうするかは、今後の大きな課題になるでしょう。
「ちょっと良いでしょうか?」
アグィラさんがペンでルートを辿っていると、お姫様が手を上げて発言を下。
「ここに町があるようですが、立ち寄らないのでしょうか?」
「姫様。ここはエヴィルに占領された町でございます。休息を取るのは無理かと」
「そうではありません。我々の手で占領者を打倒し、町を開放しないのかと聞いているのです」
は?
いやいや、何言ってるのこのお姫様。
「聞けばこの一団は、輝術師様がエヴィルの支配から開放した町より出でた避難民とのこと」
お姫様は私の目をジッと見つめながら言う。
「ならばその力を持って、別の町でも悲惨な目に遭っている者を救うべきではないでしょうか? 貴女にはその力がお有りなのでしょう?」
うっ……
そ、それを言われると、ちょっと辛い。
私だって、できれば辛い目に遭ってる人たちを助けたいと思うし。
でも、見境なく町を開放して廻ることはできないんだよ。
「あのですね、お姫様……」
「貴様! 崇高なる志を語る姫に対して意見をするか!」
いらっ。
「あなたはちょっと黙っててくれませんか」
「何だと? 貴様ァ!」
「良いのです、リバール」
「はっ! 姫がそう仰るのでしたら!」
あー、この人ほんとうっとおしい。
「輝術師殿。もし貴女が苦しむ民を無視すべきだと仰るのでしたら、どうぞ理由をお聞かせくださいな。わたくしと共により良い解決策を考えましょう」
ちょっとズレてるけど、お姫様はまだ話が通じそうだ。
私は彼女に町の人たちを助けられない理由を話した。
私の輝力容量には限界があること。
あまり大人数になると移動するのが難しくなること。
大勢のエヴィルに狙われたら、皆を守り切れないかもしれないこと。
私が話している間、お姫様は黙って静かに聞いてくれていた。
けど……
「なるほど、お話はよくわかりました」
「納得してもらえましたか」
「ええ、貴女には町を救う力がある。つまり、後の問題は我々の覚悟次第……と言うことですね?」
は?
「ならば何も迷う必要はありません! すぐに民を救いに参りましょう。もちろん、わたくしたちも全力で貴女をサポート致しますわ! オーッホッホッホ!」
いやいやいや!
なんでそうなるの!
って言うか、何がおかしいの!?
「あのですね、確かに町の人たちを助けることはできると思いますけど、その後が大変になっちゃうんですよ。エヴィルを全滅させても、助けた人たちを放って置くわけにはいかないですよね?」
「助けた民には我々に同行させましょう。共に西海岸を目指せば良いのです。人手は多ければ多いほど良いに決まっていますわ」
「だーかーらー!」
あんまり人数が多すぎたら、守り切れないんだってば!
私そう言ったよね!?
「それとも貴女も、あのレジスタンスのふぬけ共と同じなのですか?」
「えっ?」
「口では未来のため、平和のためなどと言っておきながら、我が身可愛さに目の前の小さな命すら守れない……守ろうとしない! そんな臆病者と同じなのですか!?」
ちょっと何言ってるんだかわからないよ……
私は助けを求めるため、他の二人に視線を向けた。
アグィラさんは目を瞑ったまま黙ってる。
レトラさんはさっきから気まずそうに下を向いたまま。
どっちも相手がお姫様じゃ、自分の意見なんか言えないみたい。
「スーちゃぁん……」
「話の通じないやつはいるもんだ。嫌ならハッキリと断れ」
そうなんだけど、臆病者扱いはさすがに悔しいよ。
私だって、本当なら辛い目に遭ってる人たちを助けたいのに。
「では、こうしましょう。輝術師さま、貴女が――」
「姫の御心のままに!」
「リバール、ちょっと黙っていてください」
「はっ!」
お姫様はこほん、と咳払いをする。
「失礼……輝術師さま。貴女がどうしても決断できないと仰るのでしたら、多数決で決めるというのはいかがでしょうか?」
「多数決、ですか……?」
「そうです。我々五人で決を採り、賛成の数が多い方の意見に従うのです」
「姫! それでは姫の心意が否定されてしまう恐れがあります!」
「それならそれで仕方ありません。憐れな民を見捨てるのは胸が張り裂けるほど悲しいことです。しかし我々はあくまでお互いを尊重し合う仲間なのですから、決定には潔く従いますわ」
「なんと、おいたわしや……」
いや、でも。
それって結局……
「では、決を採りましょう。町を支配するエヴィルを倒し、民を解放しに向かうべきと思う者は挙手なさい!」
即座に手を上げるのはお姫様自身と、リバールさん。
それから、少しだけ迷ったそぶりを見せた後、アグィラさんも遠慮がちに手を上げた。
「民を見殺しにすべきと思う者、挙手なさい!」
私は手を上げられなかった。
その質問のしかたは、ちょっとズルい。
「賛成三、棄権二……決定ですわね! それでは今すぐ町へと向かいましょう!」
「お待ちください、クレアール姫。それはさすがに性急かと存じます。今はまだ皆も十分な休息を取れておりません」
「アグィラ! 貴公ともあろう者が姫様に意見するなど!」
「良いのですリバール。アグィラ殿の言う通り、わたくしも些か無体を言いました。民の救出を確実なものとするため十分な準備を整える必要はあるでしょう」
「姫……なんと理知的な判断……」
「ということで、民の救出は
結局、強引に押しきられてしまった。
リーダーは私のハズなんだけどなあ……
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