600 嫌味な輝士と変なお姫さま
スーちゃんを伴って、反応があった地点へ駆けつける。
ただし閃熱の翼は消耗が激しすぎるので、炎の翅を使い、できるだけ急いで。
「いた!」
木々が途切れる開けた場所でエヴィルと戦っている人がいた。
剣を構えて妖魔型のエヴィルを牽制しているのは、青い鎧の輝士。
その腰辺りに、長い金髪の女の人がしがみついている。
怖いのかわからないけど、あれじゃ輝士の人も戦えないよ!
「
私は前方一〇〇メートルの地点
さすがに攻撃の気配に気付いたようで妖魔型エヴィルは紙一重で閃熱の光を避けた。
「おい、無駄撃ちするな」
「わかってるよ!」
ともかく、輝士さんと妖魔型エヴィルの距離を離すことには成功した。
私は
「なんだ、貴様!?」
青い肌をした妖魔型だけど、中位エヴィルのラルウァじゃない。
何族かは知らないけど知性を持ったビシャスワルト人だ。
どっちにしろ、エヴィル《人類の敵》だけど!
「覚悟しなさい!」
私は自分の目の前に白蝶を浮かべた。
攻撃を警戒した妖魔型エヴィルは大きく後ろに下がる。
「ぐげっ」
その背後に別の白蝶を浮かべ、後ろから頭を貫く。
さらに目の前に待機させておいた白蝶を胴体めがけて放った。
二発の
※
「大丈夫ですか?」
エヴィルをやっつけた私は、助けた輝士さんたちを振り返った。
突然の乱入に驚いているみたい。
二人はまだ呆然としている。
あれ?
この輝士の人、どっかで見たことあるような……
とか思ってたら、なぜかいきなり剣を向けられた。
「貴様は何者だ、名を名乗れ!」
何者って……
「ルーチェですけど」
「誰が貴様の名など聞いているか! 何者か答えろと言ってるんだ!」
名乗れって言ったじゃん。
いや、別に恩に着せるつもりはないけどね?
助けてあげたのにこうも敵意むき出しじゃ、ちょっとイラっとしちゃう。
あ、それか、もしかしたら……
この人達、私が助けてあげたってわかってないのかも。
あまりに素早くやっつけたちゃったから、何が起こったのかわからなくて。
「ちょっと、リバール」
「はっ。クレアール姫」
輝士さんにしがみついていた金髪の女の人が彼の鎧をトントンと叩く。
姫?
「この方は、わたくしたちを助けてくれたのではなくて?」
「はっ。どうやらそのようでございます」
わかってたのか!
「ならば、わたくしたちは彼女に感謝するべきではないのかしら」
「なるほど……流石は姫。聡明な判断にこのリベール、心底感服するばかりです」
「ふふ、よくってよ。ということでそこの貴女」
「はい」
「わたくしたちを助けたこと、感謝してあげてもよろしくてよ! ホーッホッホ!」
「おい貴様、姫が直々に感謝のお言葉を賜ったのだぞ! 得がたい栄誉に心より感謝しろ!」
なんなのこの人たち。
助けなきゃよかったかな。
「あれ。ところで、もうひとりいませんでした?」
「何?」
「ここには人が三人いたと思うんですけど」
飛んでくる前、流読みで感じた人間の気配は三つ。
輝士さんと金髪の女の人、それからもう一人いなきゃ計算が合わない。
「何を言っている。ここにいるのは私と姫の二人だけだ。後は貴様が屠ったあの醜い妖魔しかいない」
あれー、おかしいな。
ま、単なる勘違いかもしれないね。
それよりこの人たち、これからどうしようか。
※
とりあえず放置するわけにも行かないので、皆のところに連れて行くことにした。
すると。
「リベール殿!?」
「アグィラ殿! アグィラ殿ではないですか!」
青鎧の輝士さんを見た瞬間、アグィラさんが彼の名前を呼んだ。
いつもの冷静なアグィラさんからは考えられないような大声だ。
「知りあいなんですか?」
「おお、おお……」
私の問いかけはアグィラさんの耳に入らなかったらしい。
彼の視線は青鎧さんの後ろに隠れた金髪の女の子に向いている。
「姫……クレアール姫……よくぞ、ご無事で……!」
うわごとのように呟く彼の瞳には、うっすらと涙すら浮かんでいた。
「リベール。このおじさまはどなたかしら?」
「王宮輝士団二番隊副隊長、アグィラ殿でございます。それがしの同期で、国王陛下の信頼も厚く、海洋王国無双の輝士と讃えられておりました。聡明な姫ならば無論ご存じのことと思いますが……」
「ええ、もちろん存じていてよ! オーッホッホ!」
「やはりご存じでしたか……さすがは姫、古今無双の知識量にございます」
王宮輝士団二番隊副隊長って。
アグィラさん、そんなにすごい人だったんだ。
「聖女殿」
「あっ、はい!」
アグィラさんは服が汚れるのもかまわず、その場でひれ伏して私に頭を下げた。
「クレアール姫をお救い頂いたこと、千の言葉を尽くしても感謝の念に足りません。御身のおかげで希望が見えて参りました。これで散り散りになった民も姫の元に集い、必ずや王国再興を果たすでしょう!」
「あっ、はい」
この人こんなキャラだっけ。
でも、姫って……本物のお姫様なんだ。
私はリベールさんの横で胸を張ってるお姫様を見た。
彼女はなぜか得意げに微笑みながら私に話しかけてくる。
「改めて、わたくしからも感謝いたしますわ。輝術師殿!」
「えっと……はい。これおからよろしくお願いします、お姫様」
「ええ、よろしくしてあげてさしあげてもよろしくてよ! オーッホッホッホ!」
変な人だけど。
まあ、偉そうだけど、悪い人じゃなさそうだよね。
「貴様、姫に対してあまりに気安いぞ! 分限をわきまえろ!」
「良いのですリベール。彼女はわたくしたちの命の恩人なのですから」
「はっ。さすがは姫、海洋王国の版図よりも広い御心、感服致しました……」
この青鎧の輝士さんはちょっと嫌い。
いくらお姫様だからって過保護すぎない?
なんか、彼女を守ってる自分に酔ってるって感じ。
「さて、予期せぬこととは言え、こうして姫やリベール殿と出会えたのは僥倖であった。後はレジスタンスを探し出し、彼らと協力してエヴィルを駆逐するのみだ」
アグィラさんは立ち上がって彼らしくない弾んだ声で言った。
けれど、それを聞いたリベールさんとお姫様は露骨に顔をしかめてしまう。
「いかんぞ、アグィラ殿! レジスタンスなど頼っては!」
「名を耳にするのも汚らわしい恥知らずども! あいつらは王国の敵ですわ!」
えっ?
「それはどういうことだ、リベール殿。貴公らはレジスタンスと接触したのか」
「やつらは、やつらは……王国の反逆者だ! 未曾有の大混乱のどさくさに紛れ、王位を廃して新たな帝国を築こうととしている、エヴィルにも劣る畜生どもだ! やつらの元に降ったが最後、貴公らも命はないだろう!」
「なんと……」
いや、それアグィラさんの質問に答えてないですよね。
どうやらこの人たちはレジスタンスを敵視しているみたい。
具体的に、何がどう悪魔みたいなのかは何一つわからないけど。
「ねえ、どう思う?」
私は三人に聞こえないよう、スーちゃんと相談した。
「自分たちの目で見てみない限り、何とも言えないな」
「だよねえ」
「それより問題はこいつらだ。もし同行させるなら、かなり面倒になるぞ」
私もぶっちゃけ一緒に行きたくない。
特に青鎧の輝士さん、まったく人の話聞かないし。
「いや、それより大きな問題は――」
「聖女殿」
アグィラさんがこちらにやって来る。
彼は私の前に立つと、おもむろにまた頭を下げた。
「申し訳ない、やはり西海岸まで護衛を頼みたい。レジスタンスが頼れない以上、姫の安全を確保するにはそれしか手段がないのだ」
「えっと……」
問題は、頼れるはずのアグィラさんまで、なんだかおかしくなっちゃってるってこと。
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