525 悪夢の世界を統べる者
億千の絶望と、悪夢の世界を統べる者、エビルロード。
こいつがエヴィルの王さま……!
「ヴォルとカーディナルは前へ! ジュストは俺の後ろに! ルーチェは下がれ!」
先生が指示を出す。
私を以外の三人は即座に指定されたポジションへと移動した。
「え、えっと……」
「モタモタするな!」
は、はいぃ!
とりあえず先生の後ろに移動する。
「作戦変更だ。この場でこいつを倒す!」
「イェイ! そうこなくっちゃね!」
「並の相手と思うな、俺の指示には必ず従えよ!」
「わかってるって!」
なぜか嬉しそうな声を上げるヴォルさん。
強敵と正面から戦えるのがすごく嬉しいみたい。
「性急なことだ。ここまでやって来た苦労話くらい、聞いてやるつもりはあるぞ?」
表情の変化はないけど、笑っているような雰囲気を出しながら、そんなことを言うエヴィルの王さま。
なんだか思ったより気さくな感じだな。
でも、
「今すぐあのゲートを閉じてミドワルトへの進攻を中止する気は?」
「ない」
先生の問いかけを、彼は短い言葉で否定する。
「ならば対話は無駄だ。人類のため、ここで死ね」
全身から放たれるあまりにも邪悪な輝力。
それはハッキリと人類の敵だってことを示している。
先生はあっさりと会話を打ち切って、戦闘モードに入った。
もしも、予定を変えてエヴィルの王さまと正面から戦うことになったら。
その場合の対応もさっき歩きながら先生は説明していた。
もちろんちゃんと聞いてたよ。
まずは……
えーっと、えーと。
「おらおら行くぞぉ!」
「出過ぎるなよ、赤いの」
ヴォルさんとカーディが前に出てる。
そうだ、まずはスピードに優れた二人が前衛に出る。
敵の攻撃方法や性質を見極め、確実な反撃を行うための様子見として。
先生は液体の入った小瓶を周囲に投げ、圧縮言語で輝術を唱える。
「
周囲の空間に淡い光が拡がっていく。
その光が私の足下に達すると、なんか気分が高揚してきた。
身体が軽い。
輝力が満ちる。
力がわいてくる。
すごい強化の術だ!
ヴォルさんがエビルロードに殴りかかる。
炎のような輝力が彼女の右拳から噴き上がる。
「うおおおおおっ!」
その一撃は私が知っている以上の威力でエビルロードの上半身を包んだ。
ヴォルさんも先生の術で相当にパワーが増幅されているみたい。
「おらおらおらおらおらららぁ!」
さらに繰り出す激しい連打。
まるで大砲を連射しているみたいな猛攻だ。
一度のジャンプで十回以上の打撃を打ち込む炎の嵐。
それが過ぎ去った後、煙の中からエビルロードが顔を出した。
「うむ、ヒトにしては良い攻撃だ」
「――ちっ!」
あれだけの攻撃が、ほとんど効いてない!
エビルロードは六本ある腕の一つを振り上げた。
ヴォルさんが地面に着地する瞬間を狙って反撃しようとする。
雷光が閃いた。
エビルロードの横っ面に突き刺さる光。
その正体は巨大な剣を持ったカーディだった。
「どこを見ている。おまえの相手はわたしだ」
ヴォルさんへ向かって振り下ろそうとしていた拳が止まる。
そのまま繰り出される、目にも映らぬ連続攻撃。
さすがのエビルロードも
……よしっ。
戦う二人の様子を見ながら、私は
先生の強化のおかげで三匹までが同時に出せるみたい。
大きく迂回させ敵の周囲に配置。
カーディが纏う雷が消失する。
一瞬の隙に、エビルロードが腕を振り上げる。
そのタイミングで黒蝶をぶつける!
巻き起こる爆発、振り上げた腕が大きく弾かれる!
「やった!」
「一撃当てたくらいで浮かれるな、ちゃんと状況を見ろ!」
「はい!」
私の攻撃はほとんどダメージを与えていなかった。
バランスを崩したエビルロードに、今度はヴォルさんが攻めかかる。
その間に消費した黒蝶の補充。
直接狙ったりはせず、エビルロードの近くに配置する。
現状での私の役目はこれ。
前衛二人の連携の合間に、敵の反撃を阻止すること。
ひたすら遠距離から高威力かつ誘導性能の高い
仲間との連携。
強敵相手に私が一人でいろいろやる必要はない。
自分にできることをやって、今はひたすらサポートに徹する時だ。
……って、先生に言われてる。
「うぎゃっ!」
ヴォルさんの攻撃が止まる。
攻撃の合間にエビルロードの反撃を食らってしまったようだ。
薙ぎ払った腕に吹き飛ばされ、十メートル以上離れた向こう側の壁に叩きつけられて――
え、嘘……
ヴォルさんのお腹が大きく裂けている。
身体が半分、ちぎれかかっていた。
あまりに衝撃的な光景に、思わす息を呑む私。
その視線の先で、ヴォルさんの身体が煙のように消失する。
「うっひゃ、危なかったぁ!」
「えっ」
ヴォルさんは少し離れた場所で冷や汗を拭っていた。
すでに敵への攻撃は雷化状態のカーディが引き継いでいる。
「気をつけろ! 油断するなと言ったはずだ!」
「ゴメンゴメン。っていうか、すっげー馬鹿力。食らったのが分身じゃなかったら確実に死んでたわ」
え、分身?
そんな能力持ってたの、この人?
ヴォルさんの身体から再び炎のような輝力が立ち上がる。
それはやがて明確にひとつの形になり、彼女の周囲に四つの塊を作った。
それぞれが人間に近い形で、どれもがヴォルさんとまったく同じ姿になっている。
『さあ、行くわよ』
カーディが引く。
同時に五人のヴォルさんが一斉に躍り掛かる。
その攻撃の激しさはさっきの比じゃない。
エビルロードは反撃どころか息をつく暇もない。
噴き上がる炎のような輝力と拳の暴風が敵の巨体を襲う。
以前、ヴォルさんがあり得ない動きをしていたように見えたのは、これが原因なんだ。
っていうか、元からあんなに強いのにさらに五人もいるって。
ほとんど反則だよね。
「……
先生はほとんど休むことなく輝言を唱え続け、前衛二人の援護をしてた。
敵を攻撃するんじゃなく、敵の行動を先読みして妨害。
消耗した輝力の回復、味方の強化、相手の移動阻害なんかをやっているみたい。
ヴォルさんたちが反撃を受けることなく活き活きと戦えているのは、先生が超強力なサポートをしているおかげだった。
そして、ジュストくん。
彼はまだ戦闘に直接参加していない。
一部も隙も見逃さないよう、エビルロードの動きを注視している。
ヴォルさんやカーディの攻撃は確実にエビルロードに当たっている。
それは、普通のケイオスならもう何百回も倒されているはずの激しい攻撃。
けれどエヴィルロードには、ほとんどダメージが通っているように見えなかった。
さすがエヴィルの大ボス。
尋常じゃない輝力と体力と防御力だ。
これを打ち破るにはジュストくんのスペル・ノーヴァしかない。
肝心なのは最初の一撃目。
そのチャンスを逃さないように。
彼はひたすら黙ってチャンスを待っていた。
「ふむ、これではキリがないな……」
カーディの猛攻を受けながら、エビルロードが低い声で唸るように喋った。
そして自ら後ろに跳んで距離を離すと、下半身を屈め、一気に前方へと跳躍した。
「えっ」
その半端じゃない耐久力に比べて、エビルロードの動きは鈍い。
だからヴォルさんたちなら反撃をさせることはない。
そう思って油断していた。
エビルロードの巨体が天井スレスレを掠める。
ふわりとした軌道で前衛二人の頭を軽々と飛び越えた。
動きは遅く、前衛二人は下から攻撃を加える余裕さえある。
けど、巨体の軌道を逸らすには至らない。
エビルロードは先生やジュストくんの頭上も飛び越えた。
狙われているのは……私!?
ど、どうしよう!?
あんなのに攻撃されたら死んじゃう!
――ううん違う、弱気になっちゃダメだ。
「
「
三つの白蝶がエビルロードの進路を塞いだ。
それらは閃熱の光に変わって、敵の顔面を撃つ。
同時に先生が背後から極太の砲撃で援護してくれる。
よしっ。
二つの
その隙に私は
「ジュストっ!」
「はい!」
すでに白い闇を纏っている聖剣メテオラ。
必殺の剣を握り締め、ジュストくんがエビルロードの着地予測点に向かって駆けた。
その背中に先生が
「でやあああっ!」
「むっ」
地響きを立てて着地。
敵はジュストくんを迎え撃とうと腕を振る。
当たればあのヴォルさんですらやられてしまう攻撃。
しかし、ジュストくんは恐れることなく真っ正面から突っ込んだ。
「うおおおおおおっ!」
白い闇を纏った聖剣メテオラと、エビルロードの腕先が触れる。
その瞬間、爆光が音になったような響きと共に、エビルロードの身体が仰け反った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。