485 ▽注意勧告
カーディナルは丘の上にあるアッパータウンへと向かった。
こちらは下の集落と違い、夜でも明かりの点っている建物が見られる。
一番大きな建物が自治政府の庁舎だろう。
カーディナルは上空で旋回し、正面口の前に降り立った。
「な、何者だっ!」
警備らしい男が背後から声をかけてくる。
「
カーディナルは肩越しに指を向け、問答無用の電撃を浴びせた。
男が倒れたのを確認すると、ニヤリと笑みを浮かべ、虚空から大剣を取り出した。
「それっ」
思いきり剣を門扉に叩きつける。
斬るというよりはハンマーで打つような一撃だ。
木っ端をまき散らし、玄関ドアはあっさりと粉砕された。
「な、何者だっ!」
門番と同じセリフを吐きながらゾロゾロと人が集まってくる。
襲撃を受けるとは夢にも思っていなかったのだろう。
武装をしている人間は皆無である。
遊んでいたのだろうか、カードを手に持っているやつもいる。
こんなザマでよくも輝士団と渡り合えるなどと吹聴したものだ。
「こんばんわ。わたしはケイオスだよ」
「けっ、ケイオ――」
挨拶代わりに
指先から放たれた雷の矢は男の持っていたカードを消し炭にし、胸元を貫いて地面へと流れた。
威力は絞ったから死ぬことはないだろう。
そのまま混乱する集団を大剣の横っ腹でまとめて打ち据えていく。
「だ、だれか助け――ぐびょっ」
仲間を呼ぼうとした最後の兵を片付け、カーディナルは屋敷の奥へと進んだ。
※
廊下に立ち並ぶ彫刻や絵画。
それらはひどい成金趣味を思わせる。
庁舎というよりは、まるで旧貴族の館のようである。
自治政府とはいえ異常な羽振りの良さだ。
内政は上手くやっているようだが、無知な民を騙して裏でなにをやっているのか……
とりあえず、今のカーディナルは興味がない。
「いたぞ、賊だっ!」
武装した集団が駆けてくる。
軽鎧に身を包んだ戦士が五名。
杖を構えた輝術師が後方に二人。
なるほど、元冒険者らしい出で立ちだ。
「賊じゃなくて……ケイオスだってば!」
当然、黒衣の妖将の敵ではない。
大剣の一降りで三人まとめて吹き飛ばす。
残る二人を
一気に距離を詰めて輝術師の裏側に回る。
「
「おっ」
カーディナルの動きに合わせ、輝術師が第三階層の強力な術を放ってきた。
巻き起こる爆炎は廊下の壁を容易く吹き飛ばす。
炎と土煙で辺りが見えなくなる。
「覚悟ッ!」
そこに先ほど吹き飛ばした戦士が突っ込んで来た。
「ゆくぞ、我に続け!」
「おう!」
続けざまに残りの四人で波状攻撃を繰り出してくる。
カーディナルは大剣を軽々と振ってしのぐが、さすがに防戦一方だ。
「へぇ……」
個人の技量。
躊躇わず大技を使う判断力。
視界の聞かない状況での連携の巧さ。
どれを見てもなかなかのものだ。
さらに驚くべき事に、輝攻戦士が一人混じっている。
とは言え、苦戦するほどの相手でもない。
煙が晴れると同時に反撃に移る。
「
周囲の床に光の文様が浮かぶ。
足下から立ち上るような電撃が迸る。
「ぐああああああっ!」
近くの三人が巻き込まれ、絶叫を挙げ昏倒する。
さらに、浮き足だったもう一人を大剣でぶっ飛ばす。
輝言の詠唱を開始している輝術師を
「
「おぎょおおおっ!?」
残った輝攻戦士をこれ見よがしな大技で倒す。
両手で触れて直接体に叩き込む、強力無比の電撃である。
輝攻戦士の男はたまらず輝粒子を四散させ、白目をむいて昏倒した。
この男がリーダーだったのだろう。
最後に残った輝術師は戦意喪失し、腰を抜かしていた。
「な、なんなんだ、あんた……」
「ケイオスだよ。ずいぶん前からこの島に住み着いてるんだけど、知らなかった?」
「ば、馬鹿な。監査を目的にした本国のでまかせではなかったのか」
どうやら情報は届いていたようだが、本当にケイオスが島にいるとは思っていなかったらしい。
裏でエルデと島の権力者が手を握っているというカーディナルの予測は外れた。
本国の監視を警戒していたというなら、彼らの非協力的な態度にも頷ける。
逆を言えば、探られるとマズイ何かがこの島にはあるということ。
カーディナルはそれを逆手に取ろうと考えた。
「今日はただの宣戦布告。居着かれたくなければ、明日から頑張ってわたしを探すんだね」
自作自演による危機意識の喚起。
これで島内の住人はエルデ捜索に協力するだろう。
予定とは違ったが、ある意味で目的はほぼ達したと言っていい。
と、言うことで。
「……動き回ったら、お腹がすいたなあ」
「え」
「喋れる程度の力は残しておくから……いいよね?」
「な、なにを……うわああああっ!」
新代エインシャント神国の離島で、小さな吸血鬼事件が発生した。
※
「……カーディさん」
翌日、アンダータウンの片隅で。
ラインは頭を抱えながら、自分の内にいる少女に語りかけた。
「ん、なに? あなた昨晩一体どこでなにをしてきたんですか」
昨日までの平穏な町の風景は完全に消し飛んでいた。
鎧に身を包んだ兵士たちが険しい顔で至る所を駆け回っている。
民衆は家に引きこもり、繁華街からは人が絶え、通りは寂しい姿を晒していた。
一夜にして厳戒態勢のできあがりだ。
「別に。ケイオスがこの島に潜んでるって、町の偉いヒトたちに教えてあげただけだよ。絶対に言葉で説明したわけじゃないですよね。僕が眠っている間に僕の体を使って何をしたんですか。くわしく説明してもらえませんか。うるさいなあ。結果的に協力体制を築けたんだからいいじゃないか」
実際、昨晩行った襲撃の成果はあった。
島の人間たちは島護保安隊に絶大な信頼を持っている。
庁舎に乗り込まれて半壊状態にされたと知られたら体面にも関わるだろう。
ケイオスの口封じのため、彼らは躍起になって捜索を始めてくれた。
市民たちに対して強権を発動した辺りも本気ぶりを表している
ケイオスを放っておけば本国からより多くの援軍が来るだろう。
そしたら、彼らが隠したがっている島の秘密がバレる可能性も高くなる。
今なら見つけ出して報告さえすれば本国からやって来た輝士たちが始末してくれる。
彼らにとっても本気にならざるを得ないわけだ。
「ま、わたしたちは気楽に待ってよう。島のことは島の人間に任せるのが一番だよ。なんだかなぁ……」
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