459 反抗作戦
ヴォルさんと初めて出会ったのは、二週間ほど前。
セアンス共和国のとある
「無事にたどり着いたみたいで良かったわ。城外のホテルに泊まってるなんて、ずいぶん探しちゃったわよ」
都市を襲った何百体ものエヴィル。
それをたったひとりで蹴散らした最強の輝攻戦士。
あの時の衝撃的な彼女の姿は、今も目に焼き付いている。
彼女を都市に留めていた原因の事件を解決したため、私たちより一足先に対エヴィルの最前線である、ここ新代エインシャント神国にやって来ていたらしい。
「わああ。わざわざ会いに来てくれてありがとうございますう。何のお構いもできませんが、ゆっくりしていってね!」
「なんでそんなに離れてるのよ」
部屋の隅で机と椅子で組み立てた即席バリケードに身を隠しながらおもてなしする私を、ヴォルさんが人の良さそうな笑顔で手招きしている。
「ほらルーちゃん。かわいがってあげるから、もっとこっちに来なさい」
い、いやだ!
近づきたくない!
「どうぞ」
「あら、ありがとう」
フレスが紅茶のカップをテーブルに置く。
ヴォルさんはお礼を言って彼女に視線を向けた。
「あなたも可愛いわね」
「えっ」
捕食者の目で見つめられてフレスは完全に固まってしまう。
蛇に睨まれたカエル状態で、何かを言おうと必死に口をパクパクさせ、
「わ、私にはルーチェさんがいますから、ごめんなさいっ」
「あら奇遇ね。私もルーちゃんを食べたいとおもっていたのよ」
動転しているのかとんでもないことを言った。
フレスとヴォルさんが同じタイミングで私の方を見る。
えっ、なにこれひょっとして私ってば大ピンチ?
「
身を守るため周囲に火蝶を展開。
そのうち一つが備え付けのランプを焦がした。
「それで、ヴォルモーント様。今日はどんなご用件で来られたのですか?」
ジュストくんが背中に隠すように私の前に立ってくれる。
やっぱり守ってくれるのはジュストくんだけなんだよ。
でも申し訳ないけど、ヴォルさんが相手じゃ協力しても勝てる気がしない。
ジュストくんの
五英雄の一人『血まみれ』ノイモーントを母に持ち、その力を完璧に受け継いでいるヴォルさん。
ミドワルト最強の輝攻戦士と呼ばれ、その恐ろしさはグレイロード先生にも引けを取らないくらいだ。
よし。
平和的にいこうよ、ねっ。
「そう警戒しなくても、嫌がる相手を無理やりいただいちゃったりしないから」
ヴォルさんは肩をすくめてカップに口をつけた。
そんなこと言ってこの前はいきなりキスしたくせに!
ちなみに、言うまでもないけどヴォルさんは女の人。
少し怖いけど、黙っていればかなりの美人なのに……
「用件を簡潔に伝えるわ。グレイロードの馬鹿からアンタらに届け物と、伝達」
「届け物?」
「先生の、ばか……!?」
私とジュストくんはそれぞれ違う部分に反応した。
いや、届け物ってのも気になるけどさ。
先生をばか扱いとか並の神経じゃできないよ。
いくら本人が目の前にいないとは言え、私には絶対むり。
でも、ヴォルさんなら言えるかなあ。
この人と先生が本気で争ったら、冗談抜きで街が壊滅しそうな気がする。
「届け物ってのは、コレよ」
そう言ってヴォルさんは一枚の紙切れをテーブルの上に置いた。
彼女の間合いに入って大丈夫なのかためらっていると、ジュストくんが紙を手に取った。
「これは……!」
「な、なに?」
彼は片方の紙切れを私に手渡した。
「特別長期留学履修証明書?」
右上の端には南フィリア学園の校長先生の名前と校章印。
それと、白の生徒の証に描かれていたのと同じ紋章が捺してある。
中身を要約すると、
『この半年間の冒険は留学扱いってことにするからね。これを持って帰れば無事に三年生に進級できるよ、やったね!』
と、書いてある
「えっ、本当に……?」
半信半疑でジュストくんの手元の紙をのぞき込む。
彼の持っている紙には『卒業課題修了証明書』と書いてあった。
どちらもさっきの帰り道、私たちが抱えていた不安を解決してくれる書類だ。
「わあ!」
先生も粋なことしてくれるじゃない。
予定とは違ったけれど、旅が無駄じゃなかったと証明されて安心した。
元の生活に戻れるなら、貴重な経験を積めたってことで、命がけの日々も悪くなかったかな。
「それで、伝達とは?」
浮かれた気分の私と裏腹に、ジュストくんはヴォルさんに話の続きを促した。
「アンタたち、まもなく大規模な侵攻作戦が予定されているってのは知っている?」
「……え?」
「いえ、存じません」
大規模な侵攻作戦?
なにそれ、まさか戦争?
「詳しく話すと長くなるから概略だけ説明するわよ。今から二週間後、エヴィルの世界に乗り込んで敵の親玉を叩く作戦が予定されているわ」
「なっ……」
初めて聞く話に思わず息をのむ。
お茶菓子を用意していたフレスも固まる。
エヴィルの世界に攻め込んで、エヴィルの親玉を倒す。
それって、十五年前に五英雄が魔動乱を終わらせたときと同じ……
「魔動乱の頃みたく騒乱を長引かせるつもりはないのよ。こちらから乗り込んで一気にケリをつけて、今度こそ完全に異界との繋がりを断つ……これが五大国首脳の総意なの」
ヴォルさんは淡々と説明を続ける。
あっさり言ってるけど、五大国の首脳とか。
あまりにも雲の上の話すぎていきなりついていけない。
「異界に行くには特殊な方法を使う必要があって、同行できるのは全部で五人まで。そのうちすでに決定しているメンバーはアタシとグレイロードの二人」
「まさか、白の生徒とは……」
ジュストくんは何かに気づいたみたいで、ヴォルさんは彼の態度を見てこくりと頷いた。
「今日アンタたちが受けたテストは、そのメンバーを選別するためのものよ」
「はぁ!?」
いやいやいや、ちょっと待ってよ。
いきなりそんなこと言われても……えっ?
だって、五大国の偉い人たちが決めた超国家プロジェクトでしょ?
いくら先生が凄いからって、個人的な弟子からメンバーを選ぶとか――
……まさか。
「白の生徒の大半はかつて大国に所属していた輝士よ。あらかじめ選ばれた人間に、グレイロードが最終的な調整をしただけのね。中にはアイツの個人的な拾い者も混じってるらしいけど」
道理で、あれだけ輝攻戦士がたくさんいたわけだ。
単なる冒険者っぽくない人ばっかりだってもんね。
「もっとも、テスト自体は単なるフェイク。グレイロードは最初からまじめに選別する気なんてなかったみたいだけど」
「どういうことですか?」
ジュストくんが尋ねる。
「今回の侵攻作戦に同行した人間は歴史に名を残す。それはわかるわよね?」
「作戦が本当に成功したなら、新たな五英雄と呼ばれるでしょうね」
ああ、そっか。
五英雄の二代目みたいなことになるのね。
「だからどの国も自国から推薦しようと必死なのよ。グレイロードがやってるのは、現場の事情を考えない政治屋どもを納得させるための方便ね。規定の選出枠から漏れているマール王国とセアンス共和国あたりが色々と言ってきてるんでしょ。残り人数枠を考えればどっちか一国しか参加できないからね」
「ファーゼブル王国からはすでに代表者が?」
五大国のうち、新代エインシャント神国からは当然ながら先生が。
シュタール帝国からはヴォルさんがすでに選ばれている。
でも、ヴォルさんの言い方からするとすでにあと二人も決まっているみたい。
ジュストくんの質問に彼女はとんでもない答えを返した。
「なに言ってんの、ファーゼブル王国の代表はアンタたち二人よ」
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