458 もう帰る!
ううううううう。
「むかつく、ほんっとうにむかつくーっ!」
なんなの?
なんなのなんなのなんなの!?
学校にも通わないで、毎日命がけで旅をして。
半年間もかけて、ようやく新代エインシャント神国までやって来て。
その結果がコレですかー?
ちょっと酷すぎないですかー?
ひどい!
ひどすぎる!
そもそもこんな遠くまで来たのも、先生に言われたからだし!
こんなことなら試験なんて無視してさっさとフィリア市に帰っちゃえばよかったよ!
「まあまあ、少し落ち着こうよ」
白の聖城を出て、フレスさんの待つホテルまでの道すがら。
溜まっていた鬱憤を爆発させる私をジュストくんが宥めようとする。
「でも、いくらなんでも酷いよ!」
いくら魔動乱の英雄だからってさ。
世界一の大賢者様だからって、あんな言い様はない!
平静を装ってるけど、絶対にジュストくんも頭にきてるはずだよね!?
しかもなに?
怒られて意気消沈した私たちが、サーチさんに案内されて控え室を出ようとした時の、あのセリフ!
『指摘されたことを改善した上で、やる気があるなら十日後にもう一度ここに来い』
誰が行くか!
もう言われたとおりに帰ってやるんだからね!
暢気に新代エインシャント神国観光するような気分は吹っ飛んじゃったし!
はっ。
「まさかジュストくん、もう一度行こうとか思ってる……?」
「いやあ。さすがに十日以内に輝攻戦士になるのは無理だしなあ」
「だよね、だよね! ほらもう帰るよ、何があろうと絶対に帰るんだから!」
「落ち着こう。とりあえず落ち着こう」
ジュストくんは子どもをあやすように私の頭を撫でる。
い、いくら私でも、それくらいで機嫌を直したりしないんだからっ。
好きな人の大きくて温かい手で、優しく頭を撫でてもらったくらいじゃ……
……
ごろにゃん。
「お、落ち着いた?」
「はい。取り乱してごめんなさいでした」
ううっ、ずるいよ。
そんなふうに優しくされたら、怒りが続かないじゃないっ。
「でも、帰るのは本気だからねっ。ジュストくんだって先生の態度は頭にきてるでしょ?」
「うーん。頭にきてるというか、なんだか予想外すぎてどうしたらいいのか……このまま帰っても、課題を達成したことになるのか不安だし」
そういえば、ジュストくんはこの旅が輝士学校の卒業課題も兼ねてるんだっけ。
彼は本来の課題の最中に、私が余計な事をしたせいで、フィリア市を追い出されてしまった。
クイント国でファーゼブル輝士に扮した先生から任務を受けて、その後は成り行きで修行を受けて白の生徒になって、結局そのままこんな所までやってきちゃったんだよね。
大賢者さまの命令に従ってやったこと。
それは当然、彼の通っていた輝士学校にも伝わっているはず。
卒業シーズンも近いから、うまく行けばそのままファーゼブル王国で輝士として働けることになっていたはず。
もちろん、先生が課題の修了を認めてくれたらの話だけど。
ジュストくんはその辺を不安に思ってるみたい。
というか、私も学園を半年も欠席してしまったわけで。
このまま何の対応もしてくれなかったら、留年もあり得る!
「それじゃ、先生の所に戻って詳しく聞こう」
「え、今から?」
「ほったらかしにしておいていい問題じゃないし!」
フィリア市に帰るなら帰るで、学生に戻る私たちには今後の保証が必要だ。
っていうか、すぐに帰ろうと思って帰れる距離じゃないし。
来るのに半年弱かかったから……
どんなに寄り道せずに急いでも四、五ヶ月はかかると思う。
うわあ、知らないうちに三年生になっちゃうよ。
進級できればだけど。
「でも僕ら、もう白の生徒じゃないし。大賢者様に会わせてくれって言っても、簡単には通してもえらないんじゃないかな」
言われてみればそうかもしれない。
先生は白の生徒の特権を廃止するって言ってた。
あの人のことだから、一度言ったことはきっちりやる。
無関係な冒険者を気軽にお城の中に入れてくれることはないと思う。
「それじゃ、やっぱり……」
「なにを言うにしても、十日後を待つしかないんじゃないかな」
うわあー!
なんかもう本当に腹立つ!
なにもかも先生の掌の上ってこと?
もういい、こうなったら十日間思いっきり遊びまくってやるんだから!
とりあえずホテルに戻ったら、エヴィルストーンを換金しに行こう。
ラインさんがどっか行っちゃったから、痛み止めのクスリも探しておかなきゃ。
市場に売ってるかなあ。
「あれ、フレス……?」
これからのことを愚痴混じりに話し合いながら、ホテルの前にまでやってきた。
すると、なぜかフレスがきょろきょろ周囲を見回している。
何やってるんだろ。
「あ」
彼女は私たちに気づいて、小走りに駆け寄ってきた。
「ルーチェさん!」
さん付けはやめてって言ったのに。
残念ながらまだ直っていないみたいね。
ちょっとイジワルして無視しちゃおうかな。
……と思ったけど、どうもかなり慌てている様子だ。
ただ事じゃなさそう。
「どうしたの?」
「あのっ、今ちょっと前に、ホテルに怖い人がっ」
こ、怖い人?
フレスはこう見えても超一流の輝術師だ。
聖職者としての気構えや、冒険者らしい度胸も持っている。
エヴィルならともかく、街のゴロツキくらいなら笑顔で追い払えるはず。
私とジュストくんは顔を見合わせた。
考えられる可能性としては、さっきの試験に失格した白の生徒。
私たちに逆恨みをした誰かが、泊まっているホテルを調べて襲撃してきたとか……
どっちにしろ、危険が迫っていることは間違いなさそう。
私たちは戦闘態勢を整えた上でホテルの中に入った。
ロビー前。
ホテル内に混乱が起こっている様子はない。
私たちは階段を上りつつ、後を歩くフレスに具体的な話を求めた。
「その怖い人って言うのは、私たちの部屋に?」
「は、はい。ルーチェさん達が帰ってくるまで待たせてもらうって」
やっぱり私たちのことを知っている。
この国に私たちの知り合いはほとんどいない。
シルクさんやビリジアさんなら怖い人っていう言い方はしないはず。
だとすると、やっぱり白の生徒の人たちって可能性しか考えられない。
さすがにホテル内でいきなり暴れることはないと思うけど、万が一って可能性もある。
宿泊している部屋の前までやって来た。
ジュストくんは警戒しつつ、腰の剣に手をかける。
私は少し離れた位置で、中からの攻撃を迎撃する準備を整えた。
「いい?」
「うん」
小声で確認し合ってから、ジュストくんがドアを蹴り開ける。
左右の壁に身を隠す。
中からの攻撃はない。
まだ気を抜くのは危険だ。
私たちは一気に部屋の中に飛び込んだ。
そこで待っていたのは――
「あら、遅かったじゃないの。待ちくたびれたわよ」
手にしたジュースのカップをテーブルに置きながら、その人は言った。
燃えるように真っ赤な髪。
優しい表情の奥に見え隠れする鋭い視線。
冬だっていうのに露出の多いノースリーブシャツ。
腰掛けた椅子に納まりきらない、すらりと伸びたセクシーな足。
「ヴォルさん……?」
「はぁい、おひさ」
彼女はシュタール帝国、
確かにフレスの言うとおり、間違いなく『怖い人』だった。
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