446 私たちの他にもいるの?
「こちらです」
ビリジアさんに先導され、やって来たのは事務局の一番奥。
『総務』だの『財政』だの書かれているのと同じ書体で『白の生徒』と書かれたカウンターだった。
そこでは中年のおじさんが暇そうに頬杖をついている。
なんだか嫌な予感がするんだけど。
「おい。サボるな」
「あ、ビリジアさん。お勤めご苦労様です」
注意を受けてカウンターのおじさんは背筋を伸ばして敬礼した。
「白の生徒を連れてきたぞ」
「お、滑り込みっすね。四人全員ですかい?」
「こちらのお二方だ」
私とジュストくんは背中を押されて前に出る。
「こりゃまた随分と若いね。悪いけど一応、白の生徒の証拠を見せてくれる?」
証拠……ああ、白の生徒の紋章ね。
私とジュストくんはグレイロード先生から貰った紋章を取り出した。
「間違いなく本物だね。ってか、なんでまたビリジアさんが連れて来たんです?」
「姫様を連れ戻す途中で偶然お会いしたので、ついでだから列車で送って差し上げたのだ」
「へえへえ、こりゃまた驚きだ。列車でやって来た白の生徒は初めてじゃないかい?」
「あの……」
なんだか事情が飲み込めないまま、不安ばっかりが大きくなる。
カウンターのおじさんは私たちに二枚の紙切れを差し出した。
「はい。集合は明日の正午だから、遅れないようにね」
その紙にはそれぞれ49と50の数字が書かれていた。
「これは?」
「明日、第二階層の大広間で大賢者様がお目見えになる。集まった白の生徒さんたちには、そこでテストを受けて貰うからね」
「集まった白の生徒? テスト?」
一体何のことを言っているんでしょう。
「この話をすると決まってみんな同じ顔するねえ。本当になーんも知らされてないんだから。大賢者様も意地が悪いよ」
「こら、口を慎め。冗談でも大賢者様を悪し様に言うなど許されることではないぞ」
「これは失礼」
またビリジアさんに怒られたおじさんは口元をわざとらしく手で覆う。
けど、反省した様子はなさそうで、気楽な感じの説明を続ける。
「んじゃ、軽く説明しておくよ。その紙に書かれた数字は、今日までに集まった白の生徒の数だ。あんたたちは明日のテストで選別をされて、選ばれた者だけが、大賢者様から特別任務を仰せ付かることになっている」
「え、グレイロード先生の弟子って五十人もいるんですか……?」
そりゃ、白の生徒なんていう呼び方がある時点で、私たちだけじゃないとは思っていたけどさ。
あのダイも、私たちと会う前に先生から修行をつけてもらってたし。
けど、まさかそんなにいっぱいいたなんて……
「正確な数は大賢者様しか知らないけど、たぶん全部で一〇〇人以上はいるんじゃないかな? 魔動乱が終わってからこっち、大賢者様は国籍や身分を問わず、見込みがあると思った若者を教育して廻られていたからねえ」
へ、へえ、そうなんだ……
大賢者さまに素質を見込まれた人って、そんないるんだ……
もしかして私たちって、特別すごいってわけじゃないのかも。
世界を救う旅とか思ってたのが今更ながら恥ずかしくなってくる。
「ぜんぜん知らなかった……やる気があるなら新代エインシャント神国に来いって言われただけだし。
「というか、すごいギリギリだったね」
「実は、期日が決まったのはつい先日なんだよ。大賢者様の気まぐれって言っちゃ不敬かもしれれないけど、白の生徒って元々私的な存在だしね。証を持ってるだけでいろんな特権が得られるけど、明日からは一斉に権利が停止されるそうだよ」
そう言えば私たち、ぜんぜん白の生徒の証を有効活用してなかった。
そんなふうに言われると何かもったいなかった気がしてくる。
もっと贅沢しておけばよかった……
「んじゃ、明日の正午にもう一度ここに来てくれ。あ、別に棄権するのは自由だよ。特にペナルティはないはずだから。大賢者様直々の任務なんて、どんな怖ろしいモノかわかったものじゃないしねえ」
「おい、いい加減にしろ」
カウンターのおじさんはまたまたビリジアさんに叱らる
最後の彼の言葉がやたらと耳に残った。
グレイロード先生からの任務。
とんでもないことを言われることだけは、何となく想像がつく気がした。
※
「さて、明日からどうしようか」
「えっ」
カウンターを離れてみんなに尋ねると、ジュストくんが不思議そうに私の顔を見た。
「どうするって……明日は大賢者様のテストを受けるんだよね?」
えっ。
「いや、別に受けなくてもいいかなって思ってるんだけど」
「ど、どうして?」
「どうしてって言われても……そのテストに合格しちゃったら、特殊な任務を受けさせられるんでしょ?」
「そう言ってたね」
「受けたくないんだけど、そんなの」
あの先生のことだから、どんな非人道的な命令をされるかわかったもんじゃない。
ハッキリ言って超やだよ。
是非とも関わり合いたくないです。
「そんな、せっかく新代エインシャント神国まで来たのに」
ジュストくんは本当に意外そうな表情で私を見る。
というか、そもそもここまで来たのも今思えば衝動的なものだったし。
私にしか世界を救えないみたいに言われたから、つい張り切ってがんばっちゃっただけ。
世界は確かに残存エヴィルによる脅威で満ちていた。
けど、世界の各国各町を守ってたのは、私たちみたいな冒険者もどきじゃない。
その国、その町の人たちや、輝士団が精一杯平和を守っていた。
私たちがやって来た事は、旅の途中で目にとまった人を助けたくらい。
それだって分相応だと思うし、何も無理して大賢者様に会う必要もない気がする。
っていうか、白の生徒が一〇〇人もいたんだってことがなにげにショックだよ。
本当に私たちが無理して頑張らなくてもよかったんじゃないの。
「あ、でも、僕は大賢者様にお会いしないと……」
ラインさんが小声で口を挟んできた。
「え、なんで?」
「カーディさんが会いたいと言ってるので」
ラインさんに寄生しているカーディこと黒衣の妖将カーディナル。
彼女は以前に五英雄時代の先生と会ったことがあるらしい。
前にちらっとそんなことを言っていた。
「わたしをあいつのところに連れて行ったら、この身体から出ていってやってもいいよ……とのことなので、ぜひとも」
一つの口から発する声が、女の子から高めの男の人に変わる。
勝手にラインさんの身体に住み着いて、シュタール帝国の皇帝さますら唆し、無理やり彼を新代エインシャント神国で連れてきてしまったカーディ。
ほとんど呪いみたいな存在の彼女からの開放はラインさんにとっての宿願だ。
「明日のお目見えの場には、白の生徒以外の立ち入りは禁じられています。大賢者様にお話があるのでしたら、個別にアポイントを取って頂く必要がありますが……」
先を歩きながらビリジアさんが答えた。
「それはどこで取れるんですか?」
「謁見受付に行けば取得できますが……そうですね、今日申請をしたとして、およそ三年後。大賢者様の都合次第でもっと先になる可能性もあります」
「さ、三年後? 大賢者様がご多忙なのはわかりますが、どうにかなりませんか?」
「無理ですね。たとえ個人的な知り合いだとしても、決まりは守って貰わなければいけません。これはたとえ他国の王族だとしても絶対のルールです」
いちおう自国では
しかし、王様でもなかなか会えないなんて。
グレイロード先生って本当にすごい人なんだなあ。
魔動乱を終わらせた五英雄は伊達じゃないってことかな。
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