327 戦わない者たち
炎の翅を拡げ、南へと向かって飛ぶ。
議会の上を通ったとき、下で揉めている人たちを見かけた。
その中にジュストくんの姿を発見する。
やった!
手伝ってもらおう!
私は前方向に輝力を放出し、急ブレーキをかけると一気に降下した。
「ジュストくん!」
私の声に反応してジュストくんが上を向く。
「ちょうどよかった、放送は聞いて――」
視線が合い、思わず言葉に詰まった。
彼が見たこともないほど怒った表情を浮かべていたから。
ジュストくんは正面に向き直り、大声で怒鳴りつける。
「あなたたちの中には輝攻戦士もいるんでしょう! どうしてこんな状況になっても戦おうとしないんですか!?」
彼は誰かと言い合いをしている最中みたいだった。
「何度も言うように、街中での暴力行為は罪に問われる。警察団と言えども犯罪者以外の相手に武器を振るうことは許されない」
その相手が反論する。
青い鎧を纏った男の人だ。
昨日私たちを案内してくれた警察団の人。
後ろには同じく青い鎧を着た人が十人ほど並んでいた。
手を後ろで組み、目の前の空間を真っ直ぐに見つめている。
その中でも、ジュストくんが話している人は周りより偉い人みたい。
「あの、一体何があったの……?」
私が尋ねると、ジュストくんは吐き捨てるように言った。
「議会の警備があるからエヴィルとは戦えないんだってさ」
えっ。
だって今、エヴィルが街中に入り込んでて……
「我々は犯罪者に対してのみ武器を使用する権限が与えられている。ゆえに法律が適用されないエヴィルを相手に武器を振るうことは重大な違反――」
「そんなことを言ってるんじゃない!」
ジュストくんがその人に掴みかかろうとする。
「おい、止めろ! いい加減にしないと逮捕するぞ!」
後ろの警察団員たちが慌てて止めに入る。
しかし、掴みかかられた本人は冷静に彼らを腕で制した。
「あなたは輝攻戦士だろう! 街が危険に晒されているのに、なぜその力を正しく使おうとしない!? 守るべき友や家族が傷つくかもしれないのに、そんな悪法に縛られて自分たちの街すら守らないのか!」
「悪法とて我々にとっては秩序を維持するための立派な法律なのだ。市民の守り手たる警察団だからこそ率先してそれを破るわけにはいかない!」
「だからって……!」
実際の所、無理なことを言っているのはジュストくんの方だ。
どんな理由であれ警察団の人たちは言われたとおり命令を遂行しているだけなんだから。
けれど、ジュストくんは納得がいかないみたい。
彼はかつて力がなくて大切な人を守ることができなかった。
戦う力を持っているのに戦おうとしない、彼らの振る舞いが許せないみたい。
私も
たくさんの人が住む大きな街。
そこは、みんなが決められたルールを守らなければ成り立たない。
この人たちだって家族がいる。
ルールを破って犯罪者になるわけにはいかないんだ。
私が天然輝術師であるってだけで、罪に問われそうになったみたいに。
「ジュストくん、行こう」
「ルー……」
「私たちが戦えばいいじゃない。やる気のない人たちと無駄な言い合いをしてたって、時間がもったいないよ」
私の皮肉に、警察団の人はピクリと反応した。
けど、それだけ。
反論はない。
いっそのことエヴィル襲撃が議員たちによって仕組まれたものだってバラしてしまいたかったけれど、どうせ言っても信じてはもらえないと思う。
今は無駄な言い合いをしている時間はない。
議会の陰謀を暴いたり、街の制度を改善したりするのは、目の前の問題を解決してからだ。
「なんだ、何を騒いでいる!?」
すると議会の中からぞろぞろと議員たちが出てきた。
みんな無駄に煌びやかな服装をしている。
産業奨励派の議員たちだ。
「この非常時に、何を仲間内で争っているか!」
「そうだ、英雄を気取るならエヴィルと戦って来い!」
「我ら力のない市民を守るのがおまえ達の役目だろう!」
……よくもまあ、ぬけぬけと。
事実を知っている私には、彼らの怒鳴り声がどこか芝居がかって見えた。
後から出てきた地味な格好の議員さんたちの不安そうな様子に比べ、怒鳴っている議員たちはどことなく余裕があるように見える。
「非常時だからこそ、警察団を戦力としてゲートに向かわせるべきじゃないんですか」
ところが彼らの態度にジュストくんはさらに怒りのボルテージを高めてしまう。
「何だお前は」
「ファーゼブル王国の輝士…………見習い、ジュスティツァだ」
忘れてたけど、ジュストくんは一応まだ正式な輝士じゃない。
見栄を張るか正直に言うか少し迷ったみたい。
「ほう。ファーゼブルの輝士とな。ならばなおのこと、貴様は弱者を守る義務があるのではないのか? それとも他国の民などどうなっても構わないと言うのか?」
わあ、とんだ屁理屈だ。
警察団には戦わせないくせに。
ジュストくんには輝士の道を説くなんて。
ずうずうしいにも程があるぞ!
この人たちは他力本願が身に染み付いている。
「輝士は民を守るために戦うべき。それはあなたの仰る通りです。ならば何故、彼らに戦う機会を与えないのですか」
「彼らは警察団だ。法律で定められた罪人以外に剣を振るう許可は与えられていない」
「僕たちはいいんですか?」
「君たちフェイントライツやヴォルモーントは特別だ。市民を守るためにエヴィルと戦う時に限り、都市内で必要な武力を行使する許可が与えられるよう、先ほどの会議で決定した。ついでに非常時に我々の命令を無視すれば職務規定違反で罪になるともな」
その議員はニヤリといやらしく笑った。
本人の居ぬ間になんとやら。
よくもまあ勝手なことばっかり。
上から目線で勝手に『エヴィルと戦うことを許可』した上に、言うとおりにしなきゃ犯罪者扱い?
もちろん、彼らに捕まるような私たちじゃない。
だから、いざとなれば振り切って逃げることもできるけれど――
「提出された重要法案は議会によって可決された後、選挙によって市民にその是非を問うものとする」
朗読するような調子で、聴き慣れた声が私たちの後ろから聞こえた。
「アンデュス議会法第一条です。これは全ての法律に優先する基本法ですね」
「フレスさん、どうしてこんな所に?」
この街にやって来るなり、ずっとどこかへ出かけていたフレスさん。
右手には分厚い本を抱えていて、もう片方の手には手提げ鞄を持っている。
「面白いものが手に入りましたので、持ってきてみました」
そう言って、鞄の中から何かの小型
あれは……映水機と、映水球?
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