309 飛び入り参加の剣術大会
結局、あれからほとんど誰とも話さないまま三日が過ぎた。
町を散歩したり、買い物をしたりして時間を潰したけれど、一人じゃどうにも楽しくない。
ジュストくんはゆっくり休養をとっていた。
今夜はいよいよ剣術大会。
私も応援に行くつもりだよ。
会場は町の中心にある、大きな広場に設けられた特設ステージ。
観客入り口は人でごった返していたけれど、これでも例年よりずっと少ないらしい。
例年通りなら近隣の町村や
それでも大会は行うあたり、人間の逞しさがよくわかる。
ジュストくんは先に選手控え室に向かっている。
カーディはあれっきり姿を現していない。
私は久しぶりに外に出たフレスさんと二人で観客席に向かった。
「ビッツさん、来なかったね」
「きっといろいろと忙しいんですよ」
フレスさんも、ビッツさんがまもなく別れることは知ってる。
「そういえばフレスさん、このところずっとラインさんと二人っきりでしたよね」
今日までの二日間、フレスさんはずっとラインさんと一緒の部屋に閉じこもっていた。
ほとんど私の相手をしてくれなかったから、すごく寂しかったよ。
もちろん、夜は一緒の部屋に戻ってきたけど……
「ええ、いろいろ教わってました」
「い、いろいろとは?」
「治癒輝術の応用とか、あとは簡単な輝術理論とか役に立ちそうなことをいろいろと」
ですよね。
しかし、ずっと二人っきりって……
まさか二人がそういう関係だなんて思わないけど、なんかあったんじゃないかって勘ぐっちゃう。
ちなみに、当のラインさんは現在カーディに連れ去られてる。
今のカーディが力を発揮するためには、ラインさんの体を借りなきゃいけないから。
しばらく待つと、観客席への入場が始まった。
段々になった特設椅子は後ろに行くにつれて高くなる。
前から二番目の席が二人分空いていたので、そこに座ることにした。
今回の参加者は二十六名。
うち二十二名がこの町の出身。
みんな腕に自信がありそうな屈強な戦士たちだ。
その中に紛れて、ジュストくんの姿が見えた。
周りと比べると明らかに細身で見劣りする。
けど、少しも緊張している様子はない。
「あ、あれってカーディじゃない?」
一番端っこ、もっよ小さい人物がいた。
見慣れないダボダボの法衣を着込んでいる上、顔は包帯でぐるぐる巻きだ。
かろうじて目が見えるくらいだけど、全身から放たれる威圧感は隠しようがない。
私が輝術師だから感じられることで、普通の人にそれはわからないと思うけど、間違いなく妖将モードのカーディだ。
「本気で出場するつもりなんだ……」
「一体、何を考えてるんでしょうね」
カーディの真意は読めない。
私とフレスさんは顔を見合わせて首をかしげた。
※
司会者による舞台挨拶の後、選手紹介があった。
一番人気はアロールという名前の見るからに屈強な輝士だった。
素手で岩をも砕きそうな巨漢だ。
ほとんどの選手は大会の常連らしい。
特に今年はパクレットの町以外からの選手がほとんどいないことから、優勝候補はすでに何人かに絞られているんだって。
隣に座っている三人組がそんな会話をしてた。
「なんだありゃ。あんなヒョロイやつが戦えるのか?」
「この大会のレベルを知っていて参加したのなら、まったくの素人ということはあるまい。ひょっとしたら、かなり腕の立つ人物かもしれんな」
「あの若さでか? どっちみち、あの体格じゃアロールやジュルナルと当たれば終わりだろう」
数少ない外部参加者の一人であるジュストくんの紹介になったとき、隣の三人組かそんなことを言っていた。
ふん、見てなさい。
ジュストくんの強さを知ったときの驚き顔が見ものだわ。
とはいえ、確かに少し心配になってきた。
輝攻戦士になったときのジュストくんの強さは十分に理解している。
けれど、この大会に限っては生身でしか戦えない。
いくらジュストくんが一流の剣士だって言っても、あの体格差じゃ……
「今回は皆様方の胸を借りるつもりで、精一杯全力を尽くして頑張ろうと思います」
私の心配をよそに、ジュストくんはインタビューに対して謙虚な受け答えをしていた。
お客さんからまばらな拍手がおこる。
誰も彼が優勝するなんて思ってないだろう。
カーディは『ナル』という偽名で登録したみたい。
旅の剣士という設定で、選手インタビューにも無言だった。
盛り上がりを重視するお客さんの印象は悪く、隣の人なんかは、
「立ち居振る舞いからは剣士らしさが微塵も感じられない。大方、偶然立ち寄っただけの旅人による記念参加だろう」
とか決め付けていた。
まあ、似たようなものだけどね。
全員の紹介が終わり、二人を残して選手たちは待機席に引っ込んでいった。
ステージに残った二人が一回戦で戦うらしい。
と、台車に乗って大きな板が運ばれてきた。
トーナメント表だ。
ジュストくんは四回戦目。
しかも相手は優勝候補の一角、ジュルナルとかいう長身の輝士だ。
カーディはその少し後。
順調に行けば、ジュストくんとは準決勝で当たることになる。
「最後に、ルールの説明です」
基本は一対一、大会側が用意した模造剣での攻撃のみ認められる。
それ以外の武器を持ち込んだ場合、ただちに失格。
スポーツの剣闘と違うのは、勝ち負けの決定は相手が気絶した時、もしくは剣も握れないほど負傷した時、それから敗北宣言をした時だけ。
何度攻撃を食らおうが、両者が戦えるなら状態ならば試合は終わらない。
ただし、模造剣とはいえ達人が思いっきり斬りかかれば、骨くらいは簡単に砕けるらしい。
ステージ脇には流読みが使える輝術師が控えていて、輝力を感知した瞬間に反応するようになっている。
隠れて輝術で攻撃したり、肉体強化の術を使ってもすぐにバレるみたいだ。
伝統ある大会で、ズルは許されないらしい。
説明が終わると同時に司会者がステージから降りる。
同時に、大きな鐘の音が会場中に響いた。
大会の開始を告げる合図だ。
※
大会は最初の試合から波乱続きだった。
去年のベスト4に残った選手が、今年初めて参加する十五歳の少年輝士に負けてしまった。
かなりの接戦だったけれど、最後には若い輝士の体力がものを言った。
二試合目、三試合目と、初戦とは思えない激戦が続く。
外部参加者の少なさに反比例して今年の大会はレベルが高いそうだ。
「戒厳令が敷かれたことで、どの輝士たちも鬱憤が溜まっているんだろう」
……と、隣の人たちが話してた。
いよいよジュストくんの試合が始まった。
「はじめ!」
司会者の掛け声と同時に、ジュストくんは剣を正面に構えた。
相手は去年二位だったジュルナルという長身の剣士。
挑発しているのか、剣を担いでぽこぽこと自分の肩を叩いている。
「どうした、かかってこ――」
何か言おうとしたジュルナル。
その声は、わき腹に突き刺さったジュストくんの模造剣によって遮られた。
そのまま白目を剥き、何もできなかった去年二位の猛者がステージ上に倒れる。
「う、うおおおおおっ! すげーっ!」
「馬鹿野郎、なにやってんだよ副チャンピオン!」
一瞬の静寂の後、客席が湧いた。
半分は素直に外部の実力者を称える歓声。
もう半分は油断しきってやられたジュルナルに対する罵声だった。
ふふん、ジュストくんをなめてかかった罰よ。
って言うか、別に心配する必要なかったな。
輝攻戦士化してなくても圧倒的に強いじゃん。
私は予想外の結果にあんぐりと口を開けているお喋り三人組を横目で見た。
そして、わざと彼らに聞こえるように反対側のフレスさんに話しかける。
「生身でもあんな大きな人に勝てるなんてすごいよね」
「力の扱い方が上手くなっている証拠ですね。輝攻戦士化している時よりも、いまの状態のほうが戦い易く感じているんじゃないですか」
普段から彼はじゃじゃ馬に乗っているような力を使いこなしてる。
それに比べたら自分の足で歩くことなんて何ともない。
生身の状態も、輝攻戦士化した状態も、お互いに役立ってるってことだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。