306 妖将先生の猛特訓

 戦闘後、いつもの反省会です。

 輝動馬車の横で火を焚いて半円になって座る。


「上出来だね。特にジュスティツァは飛躍的に戦闘能力が上昇している」


 真ん中に座るのは小さい女の子の姿(通称、幼少モード)のカーディ。

 私たちと同行するようになってから、ケイオス攻略の時もラインさんの中に入って待機してるけど、今回は彼女の出番は全くなかった。


 めったに褒めることのないカーディが手放しで絶賛する。

 それくらい最近のジュストくんは凄い。


「これまで、ぬるま湯に浸かり過ぎていたからね」


 ジュストくんが気持ちいい笑顔をカーディに返す。


「あなたの指導のおかげで、以前よりもずっとうまく戦えるようになった。感謝していますよ」

「輝攻戦士になってからグレイロード以外に戦い方を教わってないんだろ。元々素質はあったんだよ」


 この間のとある一件で、私たちは英雄気取りになっていた自分たちの未熟さを思い知った。

 その反省から一緒に旅をすることになったカーディに、いろいろな戦い方を教えてもらっている。


 特にジュストくんは、見ていて心配になるくらい厳しい特訓をしている。


 これまで二重輝攻戦士デュアルストライクナイトはケイオスとの決戦時の時のとっておきだった。

 相当な輝力と体力を消耗するため、その疲労と苦痛は想像を絶する。

 だけど、最近の彼は修行中もよくこの状態になっている。


 無茶な訓練のおかげもあって、ビックリするほど基礎戦闘力が向上していた。

 二重輝攻戦士デュアルストライクナイトの戦い方にもずっと慣れてきて、なっていられる時間も以前よりずっと伸びた。


「それは良いことだが、もう少し我らを頼っても良いのだぞ」


 あまり活躍の場がなかったビッツさんが肩をすくめながら言った。

 ダイがいなくなった分、道中のエヴィルはジュストくんが常に前衛で引き受けている。

 今回もほとんどのエヴィルを彼がひとりでが倒したし、ケイオスまでやっつけてしまった。


「早いところ、どこかの輝工都市アジールで正式な輝攻戦士になってきなよ。欲を言えば輝攻化武具ストライクアームズの一つでも欲しいところだけど」

「いえ、そう言ってもまだ正式な輝士じゃないですし……」

「謙遜するはことない。もうおまえはミドワルトでもトップクラスの輝攻戦士だよ」


 わ、そこまで。

 けど確かに、二重輝攻戦士デュアルストライクナイトのジュストくんより強い輝士なんて、あまり想像つかないかも。

 接近戦限定なら大剣を持ったカーディよりも強いし。

 

 ついこの前まで見習い輝士だったって言われても信じられないよね。


「ピンクもよかったよ」

「わ、ご、ごめんなさいっ」


 カーディの矛先が私に向いた。

 そ、そんなこと言われても私はジュストくんほど努力してないしっ。

 だからって、すぐそんな風に怒らないでも……

 って、え?


「わ、私がよかった?」

「うん。周りの状況をよく見て行動できるようになってる」


 うそだぁ……


「だって、今回はほとんど敵をやっつけてないし」

「敵を倒すだけが輝術師の仕事じゃないよ。ジュスティツァがこれだけ動けるのも、おまえのサポートがあってこそだからね」


 なんか、どうしちゃったんだろ今日のカーディ。

 新しいことを試したりはしてるけど、自分ではそれほど凄いことをやってるつもりはないのに。


 それとも……

 自分でも気づかないくらい、私って本当にすごい輝術師になってきてるのかな?


「だからって調子に乗っちゃダメだよ。反応に対して体の動きは鈍いし、単体での高速戦闘術もまだまだ鍛える余地は残ってる。少し休憩したらまた訓練を再開するからね」


 はうっ。

 や、やっぱり手は抜いてくれないのね……


「このところの二人の成長は目覚しいものがあるな」

「私たち、完全においてかれちゃってますものね」


 ビッツさんが腕を組んで感心したように、フレスさんは優しげな笑顔で言った。


 そんなこともないと思うけどね。

 ビッツさんの火槍による長射程射撃はすごく有効。

 それに何よりその判断力とリーダーシップにはいつも助けられてる。


 フレスさんもサポートに限って言えば私よりずーっと優秀だ。

 強力な攻撃術も使えるけど、彼女は自分が目立つことよりも周りを助けることを考えて動いてる。

 それに、ジュストくんが二重輝攻戦士デュアルストライクナイト化するにはフレスさんのサポートが必須だ。


 二人とも、私たちのパーティに絶対に欠かせない仲間だからね。


「お二人も十分すごいですよ。ほら、縁の下の力持ちって言葉もあるでしょう」


 私の代わりに二人をフォローするラインさん。

 薄緑色の髪を後ろで束ね眼鏡をかけた中性的な容貌の男性だ。

 鋼の大国シュタール帝国の星帝十三輝士シュテルンリッター(通称、星輝士)の十三番星という超エリートさん。

 ……だった人。


 ラインさんはカーディに取り憑かれてたことが自分より上の人にバレてしまい、星輝士の称号を剥奪されてしまった。

 元々、彼が旅をしているのもカーディのワガママに巻き込まれたようなものだし。

 何て言うか……本当に気の毒な人。


 これまでカーディとラインさんは私たちと別に二人(ひとり?)で新代エインシャント神国を目指していたけれど、ダイが欠けたのをきっかけに私たちのパーティに加わった。


 そういえば、ダイは元気にしてるかな……

 私は星空を見上げながら、離ればなれになった黒髪の少年のことを考えた。


「まあ、褒め言葉と受け取っておこう」


 微妙な褒められ方をされたビッツさんはフッと小さく笑って、馬車の中に入っていってしまった。


「あ、わ、私も先に失礼しますね」


 フレスさんが気まずそうに後を追う。


「僕はもう少し制御訓練をしてくるよ」


 ジュストくんが立ち上がる。

 足取りはフラフラだけど、まだ頑張るつもりみたい。


「実戦の後だし、今日はもうやめた方がいいんじゃ……」

「大丈夫だよ。激しい動きをするわけでもないしね」

「いい覚悟だね。おい、メガネ」


 カーディがサディスティックにニヤリと笑った。

 ラインさんは「ハァ」とため息を吐く、


「いいですけど、ボクはもう寝ますからね。ちゃんと終わったら布団に入ってくださいね。この前みたいに起きたら枯れ草まみれとか嫌ですよ」


 彼のぼやきをカーディは無視。

 その姿が光に包まれ、ボールのように変化する。

 光はラインさんの口から彼の体の中に入って行った。


 ラインさんの表情が一転、凶悪そうな顔つきになる。


 直後、彼の体が変化を始めた。

 どこからともなく取り出した黒いマントが翻る。

 次に現れたのは、さっきよりも成長した姿のカーディだった。


 外見年齢はぱっと見で私と同じくらい。

 これが、カーディの本当の姿だ。


 現在、カーディは自分の肉体を失っていて、ラインさんの体を使わないと本来の力は発揮できない。

 その時のラインさんは完全に体を乗っ取られて意識も失っている状態なので、寝ている間に自分が何をされているのもわからない。

 ほんと、気の毒な人……


 カーディがジュストくんに触れて呟く。


「ニテンス」


 ジュストくんの顔が苦痛に歪む。

 あれは極度に濃縮した輝力を無理やり相手に送り込む術だ。

 私も経験あるけど、ものすごく気持ち悪くなって、立っているだけでも辛いくらいになる。


「じゃあ、行ってくる」


 ジュストくんはそれに耐え、剣を手に向こうの森へと歩いて行く。

 彼はさらに輝力の扱いに慣れるため、あの状態で訓練を行うつもりだ。


 それくらい過酷な訓練を続けてるからこそ、今の強さがあるんだろうけど……


「わたしたちも行くよ」

「は、はいっ。おねがいしますっ」


 私も負けてられないよね。

 せっかく黒衣の妖将っていう最悪もとい最強の先生がいるんだから。

 ジュストくんに後れを取らないくらい、努力しないと。

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