264 決着、そして反省会

「人間風情が……調子に乗るな!」


 ベルバウスは突きを食らっても倒れなかった。

 足を踏ん張って攻撃に堪え、衝撃波の発生する拳を繰り出す。

 ジュストくんは素早く横に飛んでそれを避け、一瞬のうちに敵の背後に廻った。


「はあああああっ!」


 その勢いのまま、ベルバウスの背中を何度も斬りつける。


「バカ……な」


 背中に強烈な斬撃を何度も受け、ベルバウスは今度こそ倒れる。

 二重輝攻戦士デュアルストライクナイトになったジュストくんは完全にケイオスを圧倒していた。

 トドメを刺すため、彼が剣を振り上げた。

 その時。


「――っ」


 ジュストくんを覆っていた液状の輝粒子が急に消失した。

 それと同時に、彼は足場を失ったかのように膝から崩れ落ちる。


「ジュストくん!」


 二重輝攻戦士デュアルストライクナイトは通常では考えられないくらい体力を消耗する。

 ただでさえ疲労が蓄積していたこともあって、いつもより限界が早く来たんだ!


「バカめ!」


 輝攻戦士状態すら解除され、生身に戻ってしまったジュストくん。

 仰向けのまま首だけを回転させたベルバウスが火炎を吐く。

 輝粒子に守られていない体であんな攻撃を喰らったら……!


 私はとっさに手を振り上げ――

 次の行動をためらった。


 ところが、私が何かをするまでもなく、火炎は音を立てて消滅した。

 これは正反対の術、水系統の術で相殺した時に起こる現象だ。


「三十五点、ってとこかな」


 ふわり、と金髪の少女が、二人の間に降り立った。

 彼女は全身を黒い衣装に包み、まるい帽子を頭に被っている。


「なんだ、貴様は。どこから――」


 ベルバウスが焦った声で尋ねる。

 その時にはすでに、彼女は羽のような身軽さで宙に浮いていた。

 どこからともなく取り出した大剣を振り上げ、妖しくも恐ろしい悪魔の笑みを浮かべる。


「何者だ! なぜ我らの同胞が、ヒトの味方を――」

「おまえ、もういいよ」


 さっきまでベルバウスの正面にいたはずなのに、いつの間にか相手の頭上を取っている。

 振り下ろした大剣が、ベルバウスの肩口を大きく切り裂いた。

 その一撃は確実に致命傷になったはずだ。


 超高速移動術、音速亡霊ソニックゴーストからの一撃。

 喰らった相手は何が起こったのかもわからない。


「この我を、こうもあっさりと……まさか、貴様は――」

「おやすみ」


 追い討ちのように放たれた雷撃衝破トルティ・インパクト

 電撃の術を受けたベルバウスは断末魔の叫びすらなく霧消した。

 青いエヴィルストーンが金髪の少女――『黒衣の妖将』カーディナルの足元に転がった。




   ※


「ジュスティツァは基礎体力が足りない。大五郎はペース配分を考えなさすぎ。アンビッツはちゃんと敵との距離を考えて動け」


 いきなり現れてケイオスを横から倒したカーディ。

 彼女は戦いが終わると、いつものようにダメ出しが始まる。


「一番ダメなのはピンク」

「はうっ」


 また名前で呼んでくれない!


「わたしが手を出すのが遅れてたら、ジュスティツァは黒こげだったよね」

「そ、そうかもだけどっ。あんなに動き回ってるのに、万が一ジュストくんに当たっちゃったら」

「言い訳しない。少し考えれば援護の手段はあったはずだ。流読みだって使えるだろ」

「ううっ。けど、万が一ってことが……」

「おまえはあのケイオスを倒すのを躊躇った。そうだろう?」


 その通り。

 私は確かに攻撃を躊躇った。

 あの時の光景が頭の中に過ぎったせいで。


「何度も言うけど『無窮なる人形師』は例外中の例外だった。あのすぐ後『幻惑の踊子』に酷い目に遭わされたのを忘れたの?」

「……おぼえてる」

「じゃあ、いい加減に学習しなよ。おまえの判断ミスでジュスティッツァは死ぬ所だったんだからね」


 悔しいけど反論の言葉もない。

 カーディの言うとおり、もう少しでジュストくんが殺されてたかもしれないのは事実だから。


「覚悟がなければ、どんなに強力な術を覚えても無駄。実戦では一瞬の迷いが死に繋がるって、いい加減に学んだら?」


 厳しくお説教をして、そっぽを向くとカーディ。

 彼女はケイオスが落としたエヴィルストーンを拾い上げて服の中にしまった。


 カーディの体がぐにゃりと歪む。

 髪の色が緑色に染まり、体型も変化する。

 一秒後、そこに立っていたのは、カーディとは似ても似つかないメガネをかけた中性的な男性だった。


「あの、毎度のことながらカーディさんが失礼なこと言って済みません」

「ううん、私がダメだったのは事実だから」


 このメガネの人の名前はラインさん。

 そして、さっきの少女はカーディこと黒衣の妖将カーディナル。


 カーディは一応、人間が言うところのケイオスだ。

 といっても、さっきのベルバウスみたく異世界からやって来たわけじゃない。

 むしろ彼女は他のケイオスと敵対しつつ、魔動乱の再来を防ぐために新代エインシャント神国へ向かっている。


 彼女がケイオスを倒すのは上質なエヴィルストーンを集めるため。

 今のカーディは自分の体を失っていて、ラインさんの体に寄生している状態だ。

 夜の間だけは本来の姿に戻ることができるけど、その力は全盛期には遠く及ばないらしい。


 と言っても、かつては最強のケイオスと呼ばれただけあって、現状でもその強さは折り紙つき。

 普段は私たちに同行していないけど、こうやってピンチになるとどこからか現れて助けてくれる。

 まあ、いろんな意味で邪魔されることも多いんだけどね……




   ※


 結局、今回もカーディに助けられちゃった。

 けど洞窟に陣取るケイオスを倒すっていう目的は果たすことができた。


 これで近隣の平和は守られたはず。

 ボロボロ状態の私たちは、互いに肩を貸し合って帰路についた。


 ケイオスという頭脳を失ったエヴィルたちは、その凶暴性を失ったわけではない。

 けれど、以前と比べるとずっと大人しくなっていて、襲われることはほとんどなかった。

 

 たまに襲って来ても、ラインさんが追っ払ってくれる。

 彼も『バールト』という鞭のような武器を操る輝攻戦士ストライクナイトだ。

 ひ弱そうな見た目に反して、大国シュタール帝国最強の星帝十三輝士シュテルンリッターの一員だから、すごく強かったりする。


 ようやく輝動馬車に戻ってきた。

 私とラインさん以外の全員がその場で倒れ込む。

 本当は町まで行きたいけど、今日はもうここで休むしかないかもしれない。


 寒くないようウォームルで馬車の中を暖め、人数分の毛布を用意する。

 そして表に出ると、ラインさんが再びカーディの姿に変わっていた。


「さて、姿を消す前にちょっと訓練しよう遊ぼうか。それが終わったら輝力を吸わせてもらうよ」


 ニヤニヤしながらカーディが言う。

 マジですか。


 あううっ。疲れてるのに、もうボロボロなのにっ。

 こんな状態でカーディと対決なんかしたら、本当に倒れちゃうよっ。


 カーディは途中から来てトドメを刺しただけだから楽だろうけどさ!

 すやすやと眠りにつくみんなが羨ましい。

 私が休めるのは、まだまだ先になりそう……

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