ラグビーについて語るときにわたくしの語ること
十一月五日に行われたラグビーのテストマッチ、日本対アルゼンチン戦を前についに決断し、通常類を見ない迅速な動きでスカパーに電話して(このわたしが!)放送当日にスポーツチャンネルの視聴パックを契約し、中継を見た。これから先、月々三千円弱が銀行口座から引き落とされるかわりに、ラグビーがじゃんじゃん見られることになった。間違いなく本を読む時間が減り、この駄文を書くのも間遠くなるはずである。なかなか配信がない、ということになったら、ああ、あいつラグビーで忙しいねんな、と思って頂いてよい。さらに、よし、もうそのまま送って来るな! 死ぬまで黙っとけ! と思われるかもしれないが、その辺については、そうは問屋が卸さない、とだけ申し上げておく。
さてこれで少しはラグビーに詳しくなるであろうか。そう、今まで何度かラグビー関連のことを書き、角川書店の投稿サイトに公開の際は「ラグビー」のタグまでつけていたが、わたしはラグビーに詳しいというわけでは全くないのである。ルールはわかっているし中継があれば必ず見るが、トップリーグにしろ大学ラグビーにしろ確固たる贔屓があるわけではないので、各チームの事情を収集したり、選手個人のことを深く知ってどうこう、というところまで気持が行かないのだ。ただ見る。一試合一試合、頑張れ頑張れうわあすげえ赤勝て白勝て、みたいな至って雑な心の動きしか、そこにはない。試合内容についても、個々のチームのプレースタイルなどについても、そこまで理解が及ばないために所感を抱くことすらなく、キックオフからじいっと見ていて、ノーサイドの笛が鳴ったらやれやれ終わった終わった、でテレビの電源を切る。ただそれだけなのだった。では貴様、何が面白くてラグビーを見ているのか、と言われたら、わたしが見ているのは主にあの屈強な男たちの腕・肩・腰、なかんづく臀、と答えざるを得ない。おっさんがグラビアアイドルのDVDを見ているのと同じ感覚なのではないかと思う。いや、そらあれよ、ゲーム自体も面白いよ、だいたい後ろにしかパスしたらあかん球を前に運ばなあかんなんて無茶にもほどがある、でもそれをやるわけやん? すごいよ、ほんま。がんがんぶつかるしね。人が。痛いやろ?! やのにまだ走るの?! っていう、驚きもあるし。うん。いいですかこんなもんで。弁解の方は。
でまあ、VSアルゼンチン戦を見た。アルゼンチン代表はジョージア(グルジア)代表とともに世界で一、二を争う顔面の濃いチームである。フィジーやサモアのアイランダーたちも濃いと言えば濃いのだが、彫りの深さの種類が違う。日本代表も、国外出身選手とSO田村優のおかげで存外濃いのであるが、それは畢竟「存外」なだけであって、ア代表に比べればその濃さなど足元にも及ばない。そして去年のW杯のときから思っていたのだが、ア代表チームの主将クレーヴィはたむらけんじに似ている。ぜひ一度獅子舞担いで、ちゃ~、と言ってほしい。とりあえず、でっかいコップにソルティードックまがいのウオトカ・グレープフルーツジュース割りを作ってキックオフ。アルゼンチンはサッカーの代表ユニホームも同じ柄行きよなあ、なんでやろ、などと小学生みたいな質問を夫にし、世界ではそれが普通や、日本だけがおかしい、と教えられる。前半二十七分、放送局のなにかの手違いで誰もいないロッカールームの映像が二三秒流れる。ALSOKでモニター監視の仕事をしている社員さんのような気分を味わい、今のなに!? 今の! と興奮して騒いで(阿呆はとかくイレギュラーな事態に弱い)夫に嫌な顔をされる。さらに三十分、アルゼンチンのニコラス・サンチェスのPKの際、サンチェスは男前なんだけれども、近い将来ずるむけに禿げてしまいそうな気配がないかという懸念をわたしが口にしたところ、そのせいで解説を聞き洩らした夫から決定的にその口を閉じろと言われる。前半終了、ハーフタイムに酒のお代りを作ろうと思っていたのに、ちょうど来た込み入った内容のメールに返信したりしてぐずぐずしている間にハーフタイム終わる。ノンアルコールでの後半スタート直前、田村が画面に映った瞬間、北村一輝似、と思う。そんなことを思っているうちに開始一分でトライを奪われ呻く。GKは当然またサンチェスで、やっぱり禿げるんじゃないかと気になって仕方がない。田村のキックオフ。弟の田村煕のほうが北村一輝に似てるなあ、と思う。後半七分またトライされる。サンチェスのGK。頭髪が気になる。続く田村のキックオフ。テルマエ・ロマエに出ればいい。後半十三分クレーヴィが交代。ちゃ~。どんどんトライを決められ、その度にサンチェスのGK。男前。二十八歳。髪は大丈夫か。ゲーム落とす。試合終了後のインタビューに、ア代表の方はキャプテンではなくSHのランダーホが呼ばれたのは、クレーヴィが「ちゃ~」としか言わないから、ではなく、スペイン語しか話せないからだろうか(通訳さんがどうやら日本語英語話者らしかった)。前半三十分以降、わたしは発言を控えたので、後半の思考の流れはわたしの脳内に踏みとどまったものである。
わたしのテストマッチ観戦記は以上である。ほんとうに、毎月三千円払って見続ける価値があるのか。
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