22.メテオ


さて、そんなこんなで賢者様からの、実戦形式の戦闘訓練レクチャーを受けた私、ミューズです。

問題ありだ!大有りだ!と、何度も何度も、それこそ震えちゃいそうなくらい、賢者様に伝えたけど、全くもって、これっぽっちも、私の話は理解いただけませんでした!残念!


こんな貴族エリアの建物で、魔法を使って、もしも何かを壊しちゃったりしたら、私の存在が消される危険が怖いと言ったら、ここは古代の遺跡で、魔道具が作動してて、中でいくら戦闘をしても、エリア外に魔法が行こうとすると、その場で魔道具に魔力が吸収されるそうです。しかもその吸収したエネルギーを使って維持されているらしい。凄い!エネループ!

しかも古代の遺跡、何それ楽しそう!


そもそも軽く座学で聞いた話によると、現在よりも古代の方が魔法が盛んだったらしい。

それで、色々と魔道具も開発されてて、それが現代でも使われていたりする。

ギルドの受け付けが、まさにその最たる例で、古代の遺物を解明して、複製して使用してる優れもの!


でも、時の流れの中で、いつの間にか貴族しか魔法が使えなくなっていて、魔法自体が使える人が少なくなり、研究も滞っているらしい。

昔の方が凄いって、今現在までの間に一体何があったのか、そんな研究もしている人がいて、それがこの話をしてくれた先生なわけでした。

でも、研究成果は無いらしいです。先生頑張って!応援してます!だから、私を今すぐ助けてください!切実に!


だって、そもそも私、詠唱をそんなに覚えてないわけです。

授業だって真面目に受けているけれど、いかんせん受けてからの日数が少ないんです。

そこのところ、ちゃんと考えて、せめて使える魔法が増えてからにしていただきたかった。いや、むしろその話をしたら、「え?そんなの僕が詠唱してるのを見て、覚えればいいじゃん」なんて、楽しそうに言ってくれた賢者様を、病院に!否、病院がここに来て!


などと、私が混乱している間に、もはや逃げる事しらかなわない現状です。

以上、現場のミューズでしたー……。


だれか たすけて せつじつに


私がそうやって脳内大騒動していると、目の前の賢者様のルンルンと楽しそうにしていた笑みは消え、ブーっと唇を尖らせていた。


「ねぇ、君から攻撃してこないんだったら、僕からするよ?」

「やらないって選択肢は無いんですね……」

「何当たり前の事言ってるの?」


キョトンとした顔の賢者様に、私はもうため息すら出なくなっていた。

ふぅーっと体の中の空気を外にゆっくりと吐き捨て、私は自分に気合を入れた。

いや、入れ過ぎたら怖いから、魔力を込めないように気をつけなくちゃ。


「じゃあ、いきます……」

「うん!」


気乗りしない私の前では、キラキラと楽しそうに目を輝かせる賢者様。

彼に向けて、最初に習った旋風を起こす。


『ウィンド』


想定では優しい風が吹くはずが、今や賢者様の周辺では軽い竜巻が起こっている。

でも、これ位なら大丈夫だろう。


「へぇ、その詠唱でこんなに威力が出るなんて凄いね!じゃあ……『ウィンド』」


賢者様が同じ魔法を使うと、私の竜巻を吸収して、少し大きくなった竜巻が、こちらへと向かってきた。

あ、いいこと思いついた!ひたすらこれ上書きしていけばいいんじゃない?


『ウィンド』


そう唱えれば、こっちに向かってきていた竜巻は、さらに巨大化して賢者様の方へ向きが変わる。

私の前にいる賢者様は、ニィッと口角を吊り上げた。


「すごーい!本当に面白いことするねー!じゃあ、僕もそのまま……『ウィンド』」


更に賢者様が上書きした竜巻が巨大化して、こっちに向かって……いや、待って、向かってきてるのかすらもうわかんないくらい吹き荒れてる!

足元がすくわれて少し浮いたりするんですけど!何これ怖い!


どうぢよう、どうしよう。

足を踏ん張りたいのに、風の勢いが強すぎて、地面に足がついたり浮いたりするから、踏ん張るどころじゃない。

えっと、えっと、はっ!そうだ、賢者様が言ってた!


『ウィンド!』


私は馬鹿の一つ覚えみたいに、再度同じ魔法を放って、その竜巻を賢者様に向けるのではなく、建物に向けて放った。

ついでに竜巻が大きくなって風が強まる前に、土魔法で足と床を固定した。


私の目論見通り、巨大化した竜巻は、建物めがけて飛んでいき、そのままスッと建物に吸い込まれて消えていった。


はぁ、助かった。

流石に重ねがけは危なすぎる。


竜巻が消えていくのを見ていて、視線を逸らしている賢者様を確認して、こっそりと床に固定した足元の土魔法を消しておく。


「もう少し大きくしたかったのにぃ〜」

「流石にあれ以上大きくは、ちょっと……」

「まぁいいや、もっと色々と見たいしね!」


ですよねー。流石に今のだけじゃ許してもらえないですよねー。


「じゃあ、今度は僕からいっくよー!『メテオ』」

「えっ!?なにその不穏な3文字!!まっ……?!」


まってまってまってまってまってまってまってまってなにその不穏すぎる3文字は!

私の言葉は途中で口から出るのを諦めたようで、賢者様の頭上からボコボコと赤と白と黄色が混じったような、光り輝く大っきな球が出現していく。


ねぇ、私のこと……殺す気ですか?


「いやぁーーーー!!これ初心者相手に最初にぶっ放す魔法じゃないですからぁーーーー!!水!水!みずうううううう『ウォーター』」


頭上めがけて水を放ち続けるが、出現してくる球に近寄るたびに、形は消えて四散していく。

むりむりむり!

火に弱いのは水だけど、あんまり大量にやっても、爆発しちゃうし……他に火に弱いもの……よわ……!!


「土のなんかー!」


適当に叫んで無詠唱を誤魔化そうと口を開いたら、結局そのまんまなどう足掻いても詠唱っぽくない言葉が出てきてしまったが、気にしている余裕なんて、今の私には無い。

慌てて一個一個の球を土で覆っていく。

ついでに風魔法で酸素よ消えろと願いを込める。込めてるだけで出来ているかなんていうのは分からない。


気づけばあっという間に、私と賢者様の頭上には、こんもりと土が溢れていて、あのかがやかしすぎる大きな光の玉たちは見えない。

それどころか光も土に遮られていてみえない。暗い。

でも、なんとか収まっている気がする。

静かになった空間に、賢者様の笑い声が響いてきて、安心よりもなによりも、よくわからない現象に私の心は大ダメージです。


「あはは!ほんっとうに面白い!あはは、まさか、土のなんかーって!ねぇなにそれ!あはは」

「いきなり魔法初心者相手に、あんなもの出さないでください!」

「え?だって君、魔法初心者じゃないでしょ?」

「へ?」


全くなにを言っているんですか賢者様。

いや、まって、魔法初心者相手じゃなくても、出しちゃダメだよね??

素っ頓狂な私の声に、賢者様は更に笑い続けた。

ねぇ、私の話をきいてくださいよ。 ……いや、これが話を聞いてくれた結果なのかな?いや、それは無いと言って欲しい。お願いいたします。


「久しぶりにこんなに笑ったよ!」

「その割には最初からずっと笑われている気がするんですが……」

「だって、君が面白いから」


うん、なにが面白いのか全く、全然、これっぽっちも分かりません。

むしろ、賢者様の笑いのラインが低い気がしてなりません。


「君、ここに来る前にだって、魔法で魔物を狩っていたんでしょ?」

「え?」


予想外の言葉に、なにを言ったらいいのか悩んでしまう。

と、いうか、なんで魔法で狩ってたって知ってるの?


「なんで……」

「君がギルドに行った時、騎士を連れて行ったでしょ?」

「そう、ですね?」

「君がブラックイークシの角を、持っていたって聞いたんだよ」

「ブラックイークシ……?」


何それ?初耳です。


「えっ?もしかして、知らないで狩ったの!?」

「全く分からないんですが」

「ふーん、まぁいいや、今日はこれくらいにして、この上のどうにかしないとね」


なぜか、この土は建物に吸収してもらえなくて、後でやってきた学園長先生に唖然とされた。

けど、いきなりメテオなんて打った賢者様にも責任があると思います。私の責任だけど。


何人かの人を作業に呼んで、風魔法で小さく砕いた土を外に運ぶ作業を繰り返した。

誰もいなければ、空間魔法に閉まって一瞬なんだけどなぁ……なんて思ってしまった私は、もう少し物事を考えたほうがいいのかもしれない。


他の人たちは、賢者様がやらかしたと思っているけれど、まぁ、ちょっとは賢者様にも原因があるからいいかなーなんて罪をなすりつけてしまった様で申し訳なかったけど、私がやりました。って言ったほうが後々困ると言われては、何も言えなかった。


面倒ごとは、ごめんだからね!

……すでに、面倒ごとに巻き込まれている気がしないでも無いけれど。


日がとっぷりと暮れても、作業はなかなか終わらず、とりあえず今日は寮に戻ることになった。

賢者様と別れるさい、「じゃぁ、またね!」と明るく笑われた私は、不安でいっぱいだった。


クタクタになって寮に戻れば、不安な顔をしたメリルちゃんが、私の事を待ってくれていた。

あぁ、私の天使は癒しでとっても可愛いです。

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