6.特殊な魔法


 あれから暫く歩き、陽が傾き始めた頃。

 私たちは野営の準備をする事にした。


「野営をする事になってすまないが、王都までは距離があるから、これからも野営をする事になってしまうけれど大丈夫かい?」

「はい、野営には慣れているので大丈夫です」


 私がそう答えると、出会った場所が場所なだけに、アルは納得してくれた様だ。


「大丈夫なら良いんだが、何か問題があれば教えて欲しい」

「ありがとうございます!」

「何処か見晴らしが良いところが、あれば良いんだが…」


 それを聞くと私はマップを確認して、近場の見晴らしの良い場所を探す。

 目当ての場所は割と近場にあったので、そのまま進む事にした。


 辿り着くと、マップで見た様に、少し開けた場所に出る。

 地面もなだらかで、野営には丁度良い。

 陽が傾き始めると、直ぐに暗くなってしまう為、私は準備する旨を伝える。


「ここなら丁度良さそうなんで、準備しちゃいますね!」

「あ、あぁ……」


 私はそう言うと、アルの返事もそこそこに、土魔法で簡単な小屋を作る。

 小屋の横にはテーブルと椅子、その側に竃とお風呂。

 これで、ご飯も寝床もお風呂も完璧だろう。

 今までは一人という事もあり、わりと質素な感じに作っていたが、今はアルがいるから少し張り切って作ってしまった。

 けれど、これならアルも喜んでくれるかもしれないと思い、私は期待を込めてアルを見ると、アルは本日何度目かの硬直をしていた。


 この反応は……?

 土魔法は一般的な魔法だろうから平気だと思うし、一晩だけだからって、ちょっと丈夫な土で作ったからいけなかったのかな?

 やっぱり石か鉄とか金属で補強しないと、魔物の夜襲とか、もしものときに大変なのかもしれない。

 私はそう思うと、魔物が出る様な場所だと分かっていたのに、それに対応出来ていなかった自分に喝を入れると、謝まるべく口を開いた。


「すみません。私ちゃんと考えて無くて……今から補強しますね!」


 私がそう言って、小屋の方に向かって歩き出すと、少し遅れて声がした。


「いや、十分だよ。むしろ十分すぎるんだが……」

「……え?一晩用だし、土で作ったから、呆れてしまったのかと……」

「土でも十分すぎるよ。それより一晩じゃなかったら、もっと凄いものが出来ていたのか……」


 私はたぶん素っ頓狂な声が出ていたと思う。

 まさか呆れて固まっていたのだと思っていたら、驚かれていたなんて、想像もしなかった。


「それにしても、土魔法でこんなことが出来るなんて。どうやって知ったのかな?」

「元から土魔法は物を作ったりくらいにしか使ってないです。えっと、土魔法って一般的じゃないんですか……?」

「確かに一般的ではあるんだけど……」


 私の返答を聞いたアルは、片手で頭を押さえて、悩みだしてしまった。


 魔物との戦闘は、基本風の刃で切り落として、火の魔法を少し纏わせることによって、表面の止血をするくらいしかしていなかったし、やっぱり土魔法は攻撃というよりは物作りに向いていると思う。

 土魔法で魔物を攻撃すると、如何しても素材や肉がボロボロになってしまうし。


 だから、土魔法は戦闘というより、こういった建物や道具を作る事にしか使っていなかった。

 皆もそうだろうと思っていたのだけれど、アルのこの反応を見るに、もしかしたら違うのかもしれない。


「うーん。ミューズには何処から説明したら良いのかな……」


 唸るアルに、私も何処から聞けばいいのか分からず、ある意味同意してしまう。


「でも、ミューズに同行させてもらったのは正解だったかもしれないね。」


 そう言って、微笑むアルと視線が合ってしまった。

 不意打ちは止めてもらいたい。

 だって、これから先も一緒に旅をするのに、このままじゃ私の心臓がもたなくなってしまう。


 気づくと、辺りはうっすら暗くなってきていた。

 もう直ぐで完全に暗くなってしまうから、話は後にして焚火用の木の枝を集める事になった。

 森の中なので、手ごろな枝はそこら辺に沢山落ちていて、あっという間に集まった。

 開けた場所に焚火を作り、横にくべる用の枝を置いて、余りを竈に入れて、火をつける。


「食べれないものとかってありますか?」

「……肉類が、ちょっとね」

「じゃあ、野菜のスープでいいですか?」

「あぁ、頼む。何か手伝える事はあるかな?」

「いつも作ってるから、大丈夫ですよ」


 エルフはこちらの世界でも、肉類が駄目な様だ。

 最初に目を覚ました場所のおかげで、野菜類は沢山あるし、丁度良かったのかもしれない。


 私は最初に居た農場に感謝をすると、空間魔法に収納していた野菜を適当に取り出し、水魔法で洗ってから、風魔法を駆使して其々を切り刻んでいく。

 風魔法で種類毎に分けて横に浮かせておきながら、竃の上に土魔法で石の鍋を作る。

 油が無いので、鍋に少しだけ水を入れて、炒めたい野菜を中に入れて、石で作ったヘラでかき混ぜる。

 そして、程よく火が入ったところで、水魔法と火魔法でお湯を作って中に入れ、残りの野菜も一緒にして煮込む。

 もう、ずっとしてきたことだから、慣れたものである。


 ひと段落ついて辺りを見れば、頭を抱えているアルが見えた。


「何か苦手な野菜でもありましたか……?」

「苦手な野菜は無いから、大丈夫だよ」


 てっきり、苦手な野菜があって、それを私が使っていたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 何だろう?とアルを見ていると、アルは困った様な微笑みを向けてきた。


「やっぱり、体調が良くないんですか?」

「それは少しばかりあるかもしれないが、ミューズの魔法が特殊すぎてね」

「……特殊、ですか?」

「うん。まず、無詠唱魔法が珍しい事は知っていたよね?」

「はい」

「基本的な魔法っていうのは、詠唱をする事によって、決められた現象が起こるんだよ」


 それはゲームでそうだった様に、良く知っている。

 ファイヤーボールを唱えれば、敵に火の玉が飛んでいくとか、ヒールを唱えればHPが回復したり。


「例えば、ミューズがこの設備を作る為に、土魔法を使てくれたよね?」

「はい。作るのも壊すのも簡単な、土ですが……」

「問題は材質とかではないんだ。例えば、他の魔法使いの人が、土を出そうとすると、詠唱と魔力の込めた量で、出現する土の材質や量が決まるんだ」


 込めた魔力で材質や量が変わるのは、同じだなと、私はアルに同意する様に頷く。

 うん、そうだね。という様に表情を和らげてから、アルは真剣な表情で言葉を続けた。


「だが、ミューズの場合は無詠唱だからなのか、自由に形を変えたり出来るだろう?」

「はい」

「他の魔法使いだと、詠唱に合わせた形でしか出現させる事が出来ないんだ」


 なるほど。

 ようやく分かってきた。

 無詠唱で何気なく使っていた魔法だけど、詠唱する事によって形とかに制限が加わるって事みたい。

 言われてみると、確かにゲームだと決まった現象しか起こらなかったし。

 ゲームの場合は、エフェクトが決まっていたっていうのもあるけれど、それの事なんだろう。


「どうやら、理解してくれたみたいだね」

「い、一応は……」


 思わず乾いた笑みが漏れていた。

 そうと分かれば、一連のアルの反応にも納得が出来るし、これをそのまま人が多い中とかで披露していたらと思うとなんとも言えない気持ちになってしまう。

 下手に俺ツエー状況をして、厄介ごとを招きたくもないし、これからは気をつけるに越した事はなさそうだ。

 許容される強さであれば問題はないが、過ぎる力は災いを招きかねない。


 考え事をしていると、時間が経っていた様で、目の前の鍋からいい匂いがしてきた。

 そろそろ良い感じかな。

 ヘラを持ち上げて、軽く冷ましてから指の上に少し垂らして味を確認する。

 うん、美味しい。


 私は空間魔法で香草と胡椒を少し取り出すと、味を確認しながら調節する。

 塩があれば、色々できるのにな。

 例えば色んな種類の豆があるから、醤油や味噌を作れそうだし。

 もしかしたら日本にいた時よりも、もっと美味しいものが作れるかもしれない。

 そう思うと、異世界には日本にいた時の食材に加えて、こちらの特有な食材が多くて、組み合わせを探すのも楽しそうだ。

 いやいや、そんなことよりも、今はこのスープ!折角、独りぼっちのご飯ともおさらばなんだから。


 私は頭を振って邪念を吹き飛ばしながら、少し煮込んで味をなじませて、香草の良い香りがしてきたところで鍋を机まで運ぶ。


「野菜のスープ、出来ましたよ!」

「ありがとうミューズ。とっても良い香りだね」


 人に料理をふるまえると思うと、なんだか張り切ってしまう。

 ここにきて一番上手に作れたと思うスープを、石で作ったおたまを使って、同じく石で出来た底の深いお皿に注いでいく。

 石でスプーンを作って添えると、一つをアルの前に置いて、椅子に座る。


「お口にあうと良いんですが……どうぞ召し上がってください」

「……」


 笑顔を向けながらそう伝えるが、アルはスープを見つめたまま食べようとはしない。

 不安に思ってスープをよく見たところで理解した。

 そう、張り切って作ったがゆえに、ここに来て一番上手に出来たと思う料理。

 使った材料も、そこら辺で採取したものではなく、最初に私がいた畑で頂いた野菜たち。

 最高の食材に料理スキルの影響で、スープはとても光り輝いていた。


 そう、スープは光り輝いているのである。


 さっきの理解と決意は一体何だったのか……。

 今までチートに喜んでいたし、とても助かっているのだが……悲しきかな、チートの影響で、この先苦労しそうである。

 今現在、1番苦労をかけてしまっているのは、間違いなくアルだと思うけれど。

 ……ごめんなさい。


 その後、スープに口をつけたアルの表情が、見る間に輝いていくのを見て、ちょっとはチートに感謝した。

 やっぱり、誰かの笑顔を見ることの出来る料理は、素敵だと思う。


 とびきり素敵な笑顔で、スープを平らげたアルが、とても嬉しそうに感謝の言葉を述べた。

 そして、どんな果物よりも甘い笑顔で、「また、作ってもらっても良いかな?」と言われてしまえば、私はコクンと頷いて、顔を真っ赤にさせる事しか出来なかった。


 色々とあったけれど、久しぶりに人と話したり食事も出来て、とても満足することの出来た1日。

 きっと私はこの先、今日という日の事を忘れないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます