日常・青春

アイスコーヒーを一杯

 テーブルの上にカップがひとつ。

 銅色のマグカップ。喫茶店で供されるようなものよりやや大きめのものだ。厚みのある取っ手が特徴的で、金属製の表面は室内の光を反射して鮮やかに輝いている。

 その中は大きさがそれぞれ異なった四角い氷で埋め尽くされており、軽く触ると冷たい感触が夏の暑さにやられた手のひらを冷ましてくれる。こういった調度品はコーヒーブレイクには欠かせない。

 視線を横に向けると、そこにあるのは薄い黄色のペーパーフィルターが置かれたドリッパー。フィルターの中にはコーヒーミルで中細挽きにされ、グラニュー糖ほどの大きさになった粉状のコーヒー豆が収められている。銘柄はマンデリンだ。インドネシアで栽培されるアラビカ種のもので非常に香りがよく、苦味があり、コクが深い豆である。

 漆黒の層を水で閉じ込めるように、「の」の字を描きながらお湯を注いでいくと白い蒸気がふつふつと浮かび上がってきた。茶色い粉の中心部分が凹み、細い水の筋が水面に流れ込み小さな波を立てるたびに、透明だったサーバーが渋く重みのある焦茶色に染まっていく。それを何度か繰り返すと、ちょうど一杯分のコーヒーが出来上がる。

 再び銅製のマグカップに目を向けると僅かばかり氷が溶け出していた。サーバーの中身を熱いうちに、その中へと一気に注ぎ込む。液体と固体の割合が良い具合に混ざり合うたびに溶けた氷がからんと小さな音色を響かせ、徐々に小さくなっていく。

 やがて一杯のアイスコーヒーが出来上がった。チョコレート色の泉に浮かぶ流氷を眺め思わず笑みが零れる。まさに完成された至高の一杯。その美しさに得も言われぬ達成感を覚える。

 ゆっくりとした動作で氷と茶褐色の液体で満たされた銅色のカップを掴んで持ち上げると軽く、だが重い感覚が手に伝わってきた。芳醇な香りが鼻腔を満たす。ああ、この瞬間がたまらない。顔を綻ばせ、口元にそれを運ぶ。

 唇をコップのフチにつけるとひんやりとした感触。

 ごくり、と音をたてて最初の一口を飲み干した。

「・・・・・・苦い」

 そのアイスコーヒーは、異常なほどに不味かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます