異能力 三
スーツ姿の女性の指示に従い、着替えやら何やらを持って自宅を後にする。
ピーちゃんのケージを持ち出すことも忘れない。
なんでも泊まり込みで話をしたいとのことであった。明日にも仕事があると伝えたところ、そっちは上手いこと話をつけておくとかなんとか、さらっと恐ろしいことを言われてしまった。まさか抗うことなど考えられなくて、素直に従うことにした。
再び自動車に乗り込むと、どこへとも連れて行かれる。
最終的に辿り着いたのは都心に所在する立派なビルのワンフロア。
そこに設けられた応接室を思わせる一室で、我々はスーツのお姉さんから事情の説明を受ける運びとなった。部屋には自分と彼女の他には、ケージに入れられたピーちゃんの姿だけがある。
「……なるほど、それが能力者ですか」
問題のキーワード、能力者については早々に説明があった。
なんでも自然発生的に生まれる魔法使いのようなものだとのこと。扱える能力も人によって千差万別で、一夜にして町を焼け野原にできるような代物から、あってもなくても変わらないようなものまで色々とあるらしい。
また、能力は一度発現して確定すると、以降は変化したりはしないようである。追加で二つ目を覚えることもないそうだ。ただし、繰り返し利用していると、威力が増加したりはするとのこと。
ちなみにお姉さんの能力は、水を操る能力だそうな。夜の通りで氷柱を飛ばして見せたのも、そうして飛ばした氷柱を液体に変化させてみせたのも、同じ一つの水を操る能力によって行われた現象だと語っていた。
「当然、能力には危険なものも多いから、これを管理する必要があるの」
「それがお姉さんの職場ですか?」
「ええ、そうよ。そして同時に、本日から貴方の職場にもなるわ」
「え?」
「もう少し詳しい説明をするわね。まずは……」
つらつらと説明が続けられる。
彼女の言葉に従うと、各国はこの能力者というものを秘密裏に管理しているそうだ。能力によっては社会に混乱を与えかねないとのことで、その扱いはかなり厳密なものであるとのことである。
なので原則として、能力が発現した段階で、国が運営する能力者を管理する為の組織に就職が決定付けられるのだとか。これを拒否した場合、まあ、色々と大変なことになると脅されてしまった。
なんでも過去に能力者を巡って大きな事件があったらしい。
そうなると気になるのは能力者の人口だが、能力が発現する割合は十万人に一人ほどだという。つまり日本には約千数百人ほどの能力者が存在していることになる。そうしたミニマムな規模も相まって、全頭管理を始めたのだろう。
「ここまでで何か質問はあるかしら?」
「いえ、続けて下さい」
「わかったわ」
以降は組織の詳細な説明となった。
扱いとしては国の機関になるらしい。つまり、そこで働く能力者は国家公務員、ということだ。お給料もちゃんと出るとのこと。能力や活躍に応じては、会社勤めでは到底不可能な額を頂くことも可能だという。
下手にけちって反感を買うよりは、お金で囲い込んでおいたほうがいい、ということなのだろう。また、過去には能力者の活躍によって解決された問題も多いとのことで、期待している面もあるらしい。
ただ、そうなると当然、反感を持つ人たちも出てくる。
自分が本日遭遇したのは、そうした人たちと組織の対立の現場とのこと。お姉さんを押さえ付けていた金髪の男性は、彼女の組織に対して異を唱えるグループの人間だという。そうしたグループが世の中には幾つか存在しているのだとか。
これを抑えるのもまた、組織に所属する能力者の仕事だという。
思ったよりも危険と隣合わせの職場事情にビックリだ。出動に際しては危険手当が出るらしいけれど、そうだとしても遠慮したい。拳銃を持った相手を圧倒するような人たちと喧嘩なんて、とてもではないができそうにない。
「だいたいこんな感じかしら」
「ありがとうございます」
「さて、それでは早速なのだけれど、確認をさせてもらうわね」
「…………」
こうなってくると問題なのは、自身の能力の扱いである。
ピーちゃんが教えてくれた魔法とは完全に別物だ。
なるべく危ないことはしたくないので、能力は過小に見積もって提案するべきだろう。できるだけ応用が利かない、なおかつ争いの現場で戦力にならないような能力がよいと考えている。つまり、現場で見せた能力が全て。
「貴方はどういったことができるのかしら?」
「先程お見せした通り氷柱を撃てます。ただ、それだけです」
氷柱を撃つだけだったら、そう大した能力ではない筈だ。国公認で拳銃を携帯できる身分にあれば、わざわざ能力を利用してまで、取り回しの面倒くさい氷の塊を運用する必要はない。
個人的に国家公務員という肩書には魅力を感じるので、後方で事務仕事など任せて頂けたら、率先して転職したいと思う。少なくとも現職から更に給料が下がる、ということはあるまい。
「見せてもらってもいいかしら?」
「ええまあ……」
促されるがまま、無詠唱で小さめの氷柱を生み出す。
大きさは三十センチほど。
ふよふよとソファー正面のローテーブルの上に浮かんでいる。
「やっぱり貴方の場合、ゼロから生み出すことができるのね」
「…………」
ニィとお姉さんの口元に笑みが浮かんだ。
ちょっと危うい感じがする。
「あの、どうかしましたか?」
「貴方の能力、私ととても相性が良いわ」
「え……」
「私は水を操ることができるけれど、ゼロから水を生み出すことができない。つまり仕事に際しては、あらかじめ水を持ち込むか、現地で調達する必要があるわ。そこに貴方が居合わせたら、私は水源という制限なく能力を使うことができる」
「…………」
そうか、水を操る能力って、生み出すことはできないのか。
しかもこの語り方、ワーホリ的な危うさを感じさせる。既にこちらの存在を勘定に入れて、次の仕事を算段し始めているのではなかろうか。まるで自ら率先して、危険な現場に足を踏み入れようとしているような。
「普段はペットボトルに入れて持ち込んだり、現地の自動販売機で購入したりしていたのだけれど、貴方がいればそうした問題も解決することができるわ。それにこれまで以上の水量を扱うことができる」
「あの、もしかしてお姉さんは、その……バリキャリ的な?」
「言ったでしょう? 能力者の給与は働きによって青天井なの」
「いや、でも……」
「そうでもなければ、こうした場を上から任されることはないわね」
「…………」
ヤバい人の目に止まってしまった気がする。
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