第7話

警察署にはパトカーが何台か事件現場から戻ってきていた。そのそばで淳はある人を見つけて嬉々として話しかける。


「おぉ〜〜〜〜〜〜!無事だったか!影一郎!」


気の抜けた表情の淳だが、頭の上で合掌して申し訳なさを表してみせた。謝罪の相手は服がズタズタになっている。その人物はおもむろに髪に手を伸ばし、付けていたウィッグを外した。ちょうど似架と同じような髪型、髪色のウィッグだった。


「無事じゃない!!淳ッ!普通に大怪我してもおかしくなかったよ!ナイフ持ってるやつが居るなんて聞いてなかったし!まあ、2、3発殴られたくらいで済んだけど。……で、犯人は…?」


「さっき連行されたよ、似架の現場マネージャーだった男だ。」


「似架ちゃんのマネージャー!?ずいぶん近い所にいたね。」


「そんなに近いからこそ毎日毎日行動を把握できたんだよ。恐らく、元々で事務所に入って近づいてマネージャーになったんだろうな。調べた感じ、相当昔から似架ちゃんを追っかけてたみたいだ。会員制の非公式ファンサイトの運営までしてたしな……所謂アイコラや性的な表現のものを発表し合う場だったらしいが…」


「淳さん!影一郎さん!!」


警察署から出てきた似架が、2人を見つけて駆け寄ってくる。髪は下ろしていて手には影一郎に借りたモッズコートをかけている。


「影一郎さんごめんなさい、私の身代わりになって頂いて…怪我までしてるじゃないですか!」


服はボロボロ顔は傷だらけの影一郎を見た似架は涙声で声を掛けた。


「似架!!!」


それを、チーフマネージャーの岩倉が制止する。


「何をやっているんだ、帰るぞ!!!こっちは八十嶋がやらかしたせいで事務所内も大慌てでマスコミ対応も大変なんだ!大人しくしててくれないか!」


「あっ…あの……待ってください!」


似架に背を向けモッズコートを着る影一郎と淳はそのまま警察署の敷地内を出て行こうとした。


「待って…!淳さん…影一郎さん!」


もう一度似架は大きな声で呼び止めた。すると淳は振り返って掌を向けてこう言った。


「大丈夫!気にしないで。」


そのまま正面を向き直して似架に笑顔で返した。


「……自分を信じて、前へ進むんだろ」


その言葉。似架はいつか見た夢のことを思い出した。……そうか、そうだったんだ。勝手に私は思い込んでいた。


……気がつくと涙がこぼれ落ちていた。


「うん、ありがとう……」


似架はそう呟くと、思い切り息を吸い込んだ。そして声を張り上げて、応えた。


「私も!大丈夫だから!……ありがとう!!!……あっちゃん……!!!」


淳と影一郎は振り向くことなく雑踏に紛れていった。似架は、それをただただ見つめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます