第6話

渋谷の大きなスクランブル交差点では、人々があらゆる方向へ行き交い、信号が変わるたびに波のように引いていく。夕焼けの色はいくつものビルをも染めてしまっていて、その光景は終末感さえ漂っている。それはインターネット、特にSNS上での話題もそうであった。


:dareka058: 流石に運営に配信止められたな

:dareka632: 似架は大丈夫なの?

:dareka178: 死んじゃったんじゃ……

:dareka641: ニカマニアとかいうやつ頭おかしいんちゃう

:dareka978: 誰か助けないの?

:dareka426: どうなったのか気になる…

:dareka602: 誰か教えてくれ

:dareka753: NIKAMANIA_NETってやつがヤバいってのは分かった…


スクランブル交差点近くにある電光掲示板には似架の話題はなく、ただ淡々と金融ニュースを伝えていた。人々はスマートフォンを手に、どこがソースかも分からない情報に一喜一憂していた。


そんな人々を眺めながら、一人、口許に笑みを浮かべる男がいた。肩を震わせながら笑いを押し殺していたが、堪えきれずに声を上げようとした、その時、遮るように淳は話しかけた。


「盗聴器や発信器が一つだけなんてこと、あるわけないでしょうよ。」


男が厳しい表情で声がした方を振り返る。が、誰もいない。


「こっちだよー☆」


右手でピースをしながら、男を挑発するように淳は続ける。


「あなた、似架のマネージャーの八十嶋さんですよね。うちの事務所まで似架を車で送ってきたのもあなただ。あなたはチーフマネージャーに黙って、似架と2人きりで移動することができるチャンスを、今までずっとうかがっていたんじゃないのか。」


「何を言っているか分からないですね。」


「学校では教えてくれなかったかもしれないけれど、誘拐や拉致は犯罪だよー?……あとさあ、あなた好きな女の子に酷いことして嫌がってる顔を見て快感を得るタイプでしょ。ほら、性癖に刺さるってやつ。」


男は無言のまま、淳の胸ぐらを勢いよく掴み上げた。


「おっと」


淳は、弾みでずれてしまった眼鏡を直しつつ話した。


「いきなり胸ぐらを掴むなんて酷いなあ。ねえ、マスコミに誘拐前に自分から情報リークしたのはなんで?警察が介入したらすぐあなた逮捕されるの分かってるでしょ。そもそも誘拐をでっち上げようとしたのはなんで?要りもしない身代金要求して、ゴメンナサイでは済まないよね。」


「誰だお前……」


「俺?」


掴んだ手をやさしく解きながらこう言った。


「ただの探偵ですけど、何か?」


その言葉を聞くや、男は堪え切れずに笑い始めた。


「探偵…?はははははははは…!笑わせるな、探偵なら似架を1人にせず、悪い人間から守ってやれたんじゃないのか。……だが、お前には守れなかったな。」


淳は眉ひとつ動かさない。


「似架は手や足を縛られ口を塞がれた状態で、男達の前に放り出されたよ。刃物を持ったやつもいた。だから、似架は今頃、服から何からズタズタにされ、泣きながら身体を弄ばれている哀れな姿を日本中に晒しているところさ。」


男は興奮気味に話した。


「あぁ〜〜、想像するとゾクゾクしてくるな!だって、あの清純派アイドルの似架ちゃんが、名前も知らない無数の男達の手によって汚されていくなんて!似架ちゃんどんな顔してるのかな、ずっと嫌そうにしてるのかな、それとも絶望の表情かな、それともやっぱりメスとして感じちゃったりするのかなぁ。どれもいいな、これはあの部屋へ録画機材を持ち込んでおくべきだったなぁ!部屋を出るときの似架ちゃんの声、たまらなかったなあ。『お願い、やめて…やめて』ってかすれた声で…あ〜〜〜たまらないぃ!今すぐにでも射精してしまいそうだよ!」


「………た」


「あ?何言ってんだ?」


聴き取れないほどの声量で呟く淳に、恍惚とした表情のまま男が訊き返した。


「だから」


最後まで言い切る前に、淳の右拳が男の顔面に急速にめり込んでいた。


「やりすぎだって言ってんだよ!てめーは!!!」


男は殴られた反動で吹っ飛ばされ、そのまま地面に倒れこんだ。


「全部てめーで考えて、てめーで起こした事件だろうが。まるで他人が起こしたことみたいに、客観的に語ってんじゃねえ。」


殴り慣れないのか、淳は苦い顔で右拳を何度もさすった。


「それと、残念だったな。似架マニアを名乗っている割にはなんてな……」



そのとき、都内の何処かにある薄暗い部屋では、男達が何人も転がっていた。その中心にあったのは、衣服をボロボロにされた似架の仁王立ち姿だった。男の一人が意識朦朧としながら呻き声を上げた。


「お願い、やめて…もうやめて……」

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