第3話

:dareka032: 誘拐って…速報見た???


:dareka010: 似架ちゃんヤバくね?大丈夫?


:dareka256: 似架ちゃんがあああああ!!!


:dareka064: 犯人誰だよ!警察は早く捕まえろよ!


:dareka128: 俺がやりました。捕まえてくださいwww


:dareka768: 似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似架似


:dareka516: 似架ちゃん好きだったのに……


:dareka024: え?死んだの?マ?


:dareka988: 勝手に殺すな……


「さすがに、SNS上では誘拐の話題で持ちきりだな。」


デスクの真ん中に置かれた淳のノートパソコンの画面を三人で覗き込み、徐々に加速してゆくインターネット上の反応を眺めていた。淳は一つ一つを確認しながら目を通していた。


「自分が犯人だと言ってるやつもいるな……」


「似架ちゃんの公式アカウントにも飛び火してるね。返信がいっぱいついてるよ。いろんなやつ。」


「ええーーーッ……」


似架は困惑した。自分が運用するアカウントではなかったが、更新を担当してくれているスタッフさんのことを思うと、心配になった。


「影一郎…お前の仕業じゃ……ないよな?」


その相手を正面からじっと見つめた淳は、疑っていた。不正アクセスも平気でする男なら、軽い気持ちで誘拐をでっち上げたりも出来るだろうと考えたからだ。だが、返事はあっさりとしたものだった。


「違うよ。そんな趣味ないし。」


いつものにこやかな表情とは異なり、影一郎は真顔で答えた。そこには、この僕につまらない質問をするな、という意思が垣間見えた。


「ん?…なんか似架ちゃんの行動みたいなものを書いてるやつがいるなあ……」



:NIKAMANIA_NET: 21:35 似架は友人と別れタクシーに乗る


:NIKAMANIA_NET: 23:05 似架は自宅へ帰る


:NIKAMANIA_NET: 13:15 似架が自宅を出る


:NIKAMANIA_NET: 13:50 渋谷の裏通りで車を停めて車内から出てくる



「こいつだけ、何か違う。書いている内容が具体的過ぎる。他の奴らは、なんだか雑音ノイズって感じなんだけど。」


IDのネーミングも直接的だった。


「ニカマニア……?」


遡って発言内容を見ようと画面をスクロールした。すると、異物が混じったように似架ではない女性とのコラージュ画像があった。さらに、とても直視できないような、所謂グロ画像も並んで投稿されていた。特に、女性の肢体が被写体になるものばかりだった。影一郎は思わず口にした。


「うっ。これは…よい子には見せられない!似架ちゃんは見ないほうがいい。」


「……(見ちゃった)」


これがもし漫画であれば、モザイク処理をしなければいけないところであった。


:NIKAMANIA_NET: 13:50 渋谷の裏通りで車を停めて車内から出てくる


:NIKAMANIA_NET: 13:55 似架が薄汚いビルの探偵事務所を訪れた


:NIKAMANIA_NET: 14:20 似架が誘拐されたことがニュースで発表される


:NIKAMANIA_NET: 14:30 SNSは似架の話題で染まっている



「……何かおかしくないか?」


「あ!似架ちゃんの行動が筒抜けだ……へ来たことも書いてある。」


「えっ!そんな…私、事務所にも内緒で来たのに……!」


自分の行動が、誰かに監視されている。しかも、どこの誰かも分からない人間に。


「あっ!こいつも誘拐宣言してる!!!」



:NIKAMANIA_NET: 似架を誘拐した


:NIKAMANIA_NET: 必ず誘拐した


:NIKAMANIA_NET: 殺してやる



その一連の投稿には、似架の写真が添付されていた。それはいつかどこかで撮影したドラマのワンシーンのものであったが、縄で厳重に拘束され、口元もガムテープらしきもので塞がれているような場面で、まさに今誘拐された似架の姿を象徴しているようだった。知らない人が見れば、彼女の現在の姿だと思い込んでしまうかもしれなかった。


「確かに、居場所が分かっているのなら、実行できなくもないな……」


不用意な影一郎の言葉に、似架は顔を真っ青にした。私はこれから誘拐されるんだ。いや、もしかしたら、既に誘拐されているのかもしれない。だとすれば、一刻も早くこの場から逃げなければ。


「私、帰ります……!」


影一郎はそれをやさしく止めた。そして言い聞かせるように話した。


「逆に、なんじゃないの……?」


そう言うと、部屋に掲示されていた探偵業届出証明書を指差した。そう、これがそこにあると言うことは、ここはれっきとした探偵事務所で、彼らが本物の探偵であることを示していた。


「このまま、ここに居てもらって、すぐに警察に連絡して保護して貰えばいいよ。事件は解説じゃないか!」


影一郎はにっこりしながら話したが、淳の顔は違っていた。そこに笑顔はない。


「……いや、俺に考えがある。」


その一時間後、三人は雑居ビルの前に通る商店街の路上に居た。特に変わった様子はない。


「じゃあ、気を付けて!着いたら、ちゃんと連絡をしてね!」


両手を大きく振る影一郎と静かに見守る淳のその先には、似架が後ろを振り返りながら歩いていた。小さく手を振り、笑顔で返事をすると前を向き直した。


二時間ほど前に来た方向へ戻るようにして角を曲がって程なく、車両が近づいてくる気配がした。危ないかもしれない、と思ったので振り返ったその時、とても近くでブレーキの音がした。見慣れないその自動車は目の前で停まっていた。

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