第2話

:a818: 大丈夫、自分を信じて (3ヶ月前)


:a818: 前へ進むの (3ヶ月前)


後部座席の右側、SNSの画面を開いたスマートフォンを手に、更新のないメッセージ欄を見つめたまま、ため息をつく似架。このままずっと新しいメッセージが届くことはないのだろうか。彼女はどうして自分との交流をやめてしまったのか。もうずっとそればかりが気がかりだったのだ。


「……似架さん!着きましたよ?」


考え込んでいたので、自分が呼びかけられていることに気づかなかった。着いた。何処に。そうだ、決意して訪れることにしたのだ。あの場所へ。


「ここで降りますので、八十嶋やそじまさんは適当にその辺で待っていてください。……お願いします。」


「はい、分かりました。お気を付けて、似架さん。」


八十嶋さんというのは、似架を担当している現場マネージャーの男性だった。歳は似架よりも十歳ほど上の男性だが、いつもなんとなく空気を読んで配慮してくれる気遣いの出来る人なので、こちらもなんとなく信頼している。今回も、特に理由を尋ねることもせず、ここまで車を出して送ってくれたのだ。しかもこのことはチーフマネージャーには内緒にしてくれた。


都内でも有数の繁華街外れ、日中は人通りの少ない商店街の一角に佇む雑居ビル。その二階に入る部屋が、今回の目的地である。


その部屋のドアには「SNS探偵事務所」と書かれた紙が貼られて剥がされた跡がある。だ、大丈夫かな…と、不安しかない。



SNS、"ソーシャルネットワーキングサービス" とは、本来は関係のある他人とインターネット上で交流ができる、簡単に言うと社会的な繋がりを持った人間同士の交流サイトのことである。


個人個人がアカウントというものを持ち、気軽に情報発信、交流ができるようになった一方で……当然ながら、様々なトラブルも増加している。



冬だというのにエアコンもつけず、彼らはアウターを羽織ったまま室内で過ごしていた。男が二人。


じゅん、またSNSやってるの?いつ探偵業再開するのさぁ。」


カーキ色のモッズコートを着た小柄な青年は、寒さに耐えかねて温かい珈琲を淹れたマグカップを手にして震えていた。一方、淳と呼ばれた、赤縁メガネに左目の下にある三連のほくろが印象的な赤とシルバーのスカジャンを羽織った青年はそっけなく答える。


「しないよ。」


「えーっ!……ねえ、エアコンつけて?僕、寒いよ。」


「金ねーよ!向かいの珈琲屋にでも行けや!……って、また勝手に珈琲淹れた?」


「うん♡飲む?」


青年たちの問答の中、その来客は訪れた。


「あの…14時からの約束で来ました。akimaと申します。」


キョトンとする淳。すぐに現在は探偵業を休んでいる旨を伝えようとするが、カーキ色のモッズコートを着た小柄な青年が言葉を被せる。


「あぁっ!似架ちゃん!?マルチアイドルの似架ちゃんだよね!すご〜〜〜い!本物だ!!可愛いい〜〜〜〜!!!」


「あの、akimaは私のプライベートアカウントで…」


「そうなんだっ、珈琲飲む?」


「いえ、あの…」


「僕ね、似架ちゃんに似てるって言われたことあるんだぁー。一回だけだけど。」


何かがおかしいと思った淳は、デスクにあったノートパソコンを開き、いじり始めた。


「どういうことだ……影一郎えいいちろう……」


カチャカチャとキーボードを叩く音が響く。何かを調べている。


「ぁあぁッ!」



:SNSDetective: お困りみたいですね、僕が相談に乗りますよ♡ メッセージ下さいね♡


:akima: 相談、のってください!!会って話がしたいです!


:SNSDetective: 分かりました。明日の14時でどうですか?


:akima: わかりました!ありがとうございます!絶対行きます!!!



「ま…またか!!!身に覚えのないメッセージ履歴!」


顔だけを影一郎と呼んだ相手へ向け、困惑と怒りを隠せない表情で捲し立てる。


「お前ーッ!またで操作したろ!!!…違法行為だって何度言えば……」


「ねぇ、淳。今はお客様が来ているでしょ♡」


そう遮ると似架の方を向いて話を続ける。


「似架ちゃん、何か依頼があって来たんでしょ?」


「はいっ!ある人を探して欲しいんです!私の、あっちゃんを……」


「あっちゃん……?」


淳が気になった様子で訊き返す。似架は、自分のショルダーバッグからスマートフォンを取り出して、誰かのSNSアカウントの画面を見せながら説明をはじめた。


「あの、この子です。アイドルとして今の私がいるのは、この子のお陰なんです。ずっと、精神的に支えてくれていて。だけど、ある時から更新が途絶えてしまって……なにか……あったんじゃないかって、心配で……。心配すぎて、最近は夢にも出てくるようになったんです。」


「分かりました!では早速調査料の方を……」


影一郎はコートを脱ぎながら契約金を乞おうとする。それをすかさず止める淳。頭に手を当てながら、淳は困ったように話した。


「……残念だけど、って簡単には分からないって、理解しているよね?」


「え……」


似架はとてもしゅんとした顔をした。それを見逃さない影一郎が、淳を挑発するように話しかける。


「イヂワルだなあ、協力してあげようよ。探偵さん♡」


「……影一郎ッ!」


「やったぁー!協力してくれるんですか!!!」


「うん♡もちろん!」


「おいっ…!」


すっかりホッとして、心から喜んで笑う似架を見て淳は、断ることを諦めた。


「……まったく、もう…知らないからなぁっ。」


ため息をつきつつ、冷めた珈琲をすする淳だったが、次の瞬間に付けっ放しの液晶テレビから聴こえてきたフレーズに、珈琲は逆流し口から吹き出る。


『速報です。ただ今入ってきた情報によりますと、今日正午ごろ、タレントの似架さんが誘拐されました。』


思わず三人は声を揃えて叫んだ。


「ゆ、誘拐ーーーーーッ!!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます