探偵、電子版。〜アイドル似架編〜

吉川奈緒 / nao69net

第1話

似架ニカ、あなたは大丈夫。」


そう囁いて女性は、まだあどけなさの残る似架の身体に手を伸ばし、そっと抱きしめた。そうして不安そうな似架の顔を覗き込むと、頬を流れ落ちていった涙を拭いながら言葉を続けた。


「また、泣いてるの?」


似架は何も言わなかった。


「あなたがあなたを信じるの。」


彼女はさらに微笑みながら似架に語りかける。


「大丈夫、自分を信じて。前へ進むの。」


そして似架は一言だけ呟く。


「あっちゃん……」


似架へとまっすぐも穏やかな眼差しを向ける彼女の左頬には、英数字と記号があった。


「:a818:」


それは彼女のIDだった。


IDというのは、個々のユーザーアカウントに紐付く一意なコードのようなものだ。似架の場合は「:akima:」。似架の本名は「アキノミカ」だったので、「A.Mika」というアルファベットの綴りを逆から並べただけだった。


ユーザーアカウントというのは、そう、彼女たちが使っていたソーシャルネットワーキングサービス、SNS上での話である。


つまりその場面は、似架の想像上の記憶に過ぎない。……そしてその夢にも似た記憶は、もう三ヶ月も前のものだった。


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