第四章 熾天使の試練
第60話 天使が帰するハロウィン
あれからすぐに二日経ち10月31日が訪れた。
周囲には何も変化は無く、キリスト教団の儀式も今回は免除だったらしい。
とりあえず俺達はユタさんの部屋で復活を見届ける予定だったが、イルムが別の空間を創っているとの事なので現実とは変わらない異世界へと渡る事になった。
こちらの世界には誰もいない。ヘスティアが持つ魔道具と効果が似ているのだが、イルム曰く範囲は段違いであり強度も上らしい。
今隣にいるのだが、俺よりも20cmも小さい仮面の女の子がそこまでの力があるのは悔しいな。
今ここの部屋にいるのは俺とアディル、エリス、ヘスティア、征十郎、そしてユタさんとイルムだ。
エリスはいつも通り黒のドレス、ヘスティアは白いローブに白の魔女帽子。征十郎、ユタさんは私服だ。
そして俺とアディルはアメリカ軍服をモチーフにした魔道正装と呼ばれる服だ。
アイクレルト王国魔法師軍の軍服を俺とアディル風にアレンジし、込められた魔法は通常の魔道正装以上に洗練されたものだ。
にしても女子の割合が多いな。化け物しかいないが。
と、そんな事を考えているとイルムの
「さて。ユタ・カルライト殿。少し背中を貸して頂けますか?」
バーロンはベッドに横たわるユタさんへと問いかける。それに対しユタさんは小さく頷いた。
仰向けになりはだけさせた背中へとバーロンは手を付き、魔法を唱える。
「
俺の知らない魔法。・・・たくさんあるが、ここはエリスに尋ねるべきだろう。
「
俺の表情で聞きたいことを読み取ったエリスが魔法を解説し、勝手に納得する。
「ありがとうエリス」
「いえいえ。これくらい当然ですよ」
笑顔を浮かべてから自分の世界へと戻ったエリスだが、俺も少し聞きたいことがある。
「あの店の会計で使ったカード、手元にあるんだが今返そうか?」
忘れていたので、この場で返そうかと思って持ってきたのだ。
返却を求められると思ったが、エリスは予想外に困った顔で横に首を振る。
「大丈夫です。それはまだ持っていて下さい。後でレクトさんの役に立ちますから」
・・・うん? 含みのある言い方だが、特に深い意味は無いだろう。
俺はポケットからポイントカードのような金のカードを眺めてみる。
中央に映る龍の刺繍が美しく、これだけでも美術品として価値がありそうだ。
「こんな希少そうな物を本当に?」
「ええ。もちろんですよ。お財布は夫に預けて置きましょう」
可愛げのある笑顔で言ってくれたのだが、そこは普通逆なんじゃないか?
「・・・。はぁ・・・」
そんなやり取りをしていると、呆れた顔で後ろでヘスティアがため息をついている。
「なんだヘスティア、羨ましいのか?」
「別にそうじゃない。ただ・・・。ね」
その呆れ顔は俺ではなくエリスの方を向いていた。
「疑問ですか? 行動の意図が分からないと言いたげですね」
「まあね。最近のエリスさん感情面で動く事多いから余計に」
・・・そうなのか? 実感が湧かないがヘスティアが言うにはそうなんだろう。
「今はもうメリットだけを追う必要なんてないですから」
エリスが小さく笑った所で、イルムの
ベルと有紗は同じようなポンチョ。ネイビスさんは軍服だった。
「遅れてすまんな!」
「あー。ベルの支度が遅いからぁ!」
元気そうで何よりだ。
有紗は以前虐待を受けていたそうだが、もう思わせる面影は見当たらない。ベルとも仲がいいし、このまま行けば魔女にふさわしい力を手に入れるだろう。
全員が揃うと、バーロンがパンパンと手を鳴らして自信に注目を集める。
「さて。既に鍵は取り出せますが、ここで一度確認を行わなければいけません。・・・これ程までのメンバーが揃っているとしても、戦いは勝率ゼロに近いものでしょう。それを踏まえた上で、
それは戦力的な面で有紗と俺、アディルに向けられているのだろう。
まだ未熟な有紗に戦闘が本職じゃないアディル。そしてこのメンバーの中では最弱の俺。
俺が足でまといなのは分かっている。俺自身、何故ここに居れるのが分からない程に。
それでも。
「それでも俺はエリスに認められなきゃいけないからな。行かなきゃいけないだろ」
死ぬ気でやって、死んで行くなら本望だ。
確かに死ぬのは怖いし、死にたくない。
でも最低限婚約者と同じ場所で戦わなきゃ顔が立たないだろ。
そんな俺と同じような考えらしい有紗は決意を込めた表情で声を発する。
「有紗も・・・。ベルに追いつかなきゃいけないから」
「ほーう? チビ助も言うじゃねえか」
煽るようなベルへ元気に笑みを浮かべて返す有紗。
最後はアディルだが。
「親友が行くんだろ? なら問題ねぇ。つか、ここまで来てそんな事確認させんなよ」
「そうでしたね。他は・・・。確認するまでも無さそうですので復活を行いましょう」
バーロンは何かを持つ様に手を掲げ、その上に魔法陣を現す。
そこから赤く燃え上がる禍々しい小さな鍵が現れた。
「
と、魔法名を呟いたが俺達の前に変化は無い。
「さて。外をご覧下さい」
バーロンがそう言った時、イルムが外壁を食い尽くす。
「なっ!?」
そこに現れたていたのは一体の龍。赤と黒を基調としたこれまた禍々しいものだった。
「
竜王・・・。エリスやヘスティアの
「下位とはいえレクトさんが相手をするのは無理ですけどね」
「勝手に考えを読むなよ・・・。あれエリスならワンパンなんだろ?」
「そうなりますね〜」
呑気に答えているが、これがエリスと俺の強さの差だ。
追いつきたいとは思ってもその差が絶望的。だが、この世界には色々な可能性がある。無理では無いはずだ。
「これを考えるとユタさんはあの鍵との相性がとても良かったのでしょうね」
この辺りの事は分からないな。恐らく適性があるのだろう。ユタさんはそれが高かった。・・・だと思う。
そんな事を考えている間にも話は進んでいる。
「そしてこれが"熾天使の鍵"です」
そしてバーロンは手に持っていた燃え上がる鍵を竜王の腹に投げ、差し込む。
「・・・ついに
豪快にニヤリと笑いながらこちらを向く。
それに対し、エリスは同じような笑みを返した。
「勝負にすらなりませんよ。こちらには"切り札"がありますからね」
・・・エリスの切り札?
そう会話している間にも鍵は竜王の中に取り込まれていき・・・。
「
そのバーロンの一言で龍王の体は全身が燃え上がり、巨大な火柱を上げる。
プラズマを纏い、プロミネンスを巻き上げやがて球体を形作り宙へ浮く。その姿はまるで太陽のよう・・・。
いや太陽そのものだ。少しづつ収束をしている球体からは太陽フレアのように爆発を起こし、電磁波を発生させている。
耐熱魔法が掛かっており、4000度の超高熱すら耐えるこの軍服でさえ火の粉程度で裾が焦げ、チリチリと音を立てていた。
つまりは恒星級。太陽と同じくらい、約一万度の炎を纏っていると推測出来る。
その太陽は収束を続け、俺の目から見ても人型、180cmにまでなった。
そこから六枚の炎の羽が生え、一枚一枚が2m程まで巨大化する。
「あぁ・・・。久々の・・・。現界だ・・・」
若い男の声を発した
「ほいっ」
もちろん炎は俺達へ向かってくるが、それはヘスティアが全て消し飛ばす。
「人が少ないなぁ。まあいい。俺を解放したという事は・・・。お前らが今回の挑戦者だな!」
紅の長髪に赤眼。鋭い目付きや高い鼻が特徴の人間のような見た目だが、六枚の白い天使の翼が人ではないという事を思い知らせてくる。
服装は白いYシャツの上に赤のジャケットを羽織っており、下も黒いジーンズという防御力ゼロに近いと思わせるもの。
しかし一番は叩き付けてくるそのオーラ。
種としての生存本能を刺激されるような重圧感。一瞬で動く事すら叶わなくなり、瞬き一つする事すら出来ない。
呼吸を忘れ、ただひたすらにそのオーラの前に萎縮するのみ。
「ああ。名乗らなきゃな。俺は
ニヤニヤと意気揚々と自己紹介をする
「
そう叫ぶディステルさんだったが、
「残念。俺の"試練"が終わらないと俺への挑戦権はないんだわ」
"試練"? つまり、
「なら
この状況で叫べるエリスは凄いな。今は敵意が殆ど感じられない
「ああ。ならお望み通り始めてやる」
ニヤニヤとエリスへと言葉を返し、指を鳴らす。
「ん、おぁぁぁ!?」
突然俺の足元が消えて
「さぁ!ゲームスタートだ!」
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