第58話 何気ない日々



「うお、朝寒っ」

現時刻は七時。俺が目覚めたのは冷た過ぎる空気に当てられたからだ。

この街はいつもこの空気の中で起床しているのなら多分氷属性に耐性でもあるんだろう。


「お茶でも飲もうかな」

魔法の急騰ポット(誤字では無い)を使いお湯を沸かし、温かいお茶の粉を湯のみに入れる。

そして秒で沸いたお湯を湯のみに入れて粉をスプーンで溶いて一口。

「あちち・・・。ふぅ・・・」


この世界のポットは魔法でお湯の温度パラメータと言われるものを操作して一瞬で任意の温度へと変化させる事が出来るらしい。

その辺は地球よりも優れてるよな。

俺PCを開きSTNからアクベンスを呼び出す。

「おはよー。朝早いね」


「この世界じゃこのくらいが普通だろ?」

「まあね。・・・ちょっと気温が寒いから暖房つけてって?」

随分と物わかりがいい精霊だこと。


「ああ。頼む」

そう言うとこの部屋の空気が暖まる。

暖房もSTNを使えば一瞬だ。これはSTNと暖房器具が連動しており精霊の意志一つで動かせる。


ここが地球と違う所なのだが、この世界には"情報パラメータ"と呼ばれる目に見えない数値が存在しているらしい。

以前エリスは「魔法は呼吸と同じ」と言っていたが、それはよっぽどの上達者のみが言える話。


ここからは魔法の解説になるが・・・。

魔法はまず体内の魔力パラメータを操作し感覚で体外に移動させる事から始めるらしい。

次に体外に移動させた魔力パラメータを細かく魔法陣の形に形成する。


これは既存の魔法陣に適したものでなければ作動しない。例えば〈龍雷の雨〉レイン・ドラゴンライトニングを使う時にはその魔力パラメータを魔法式に合わせる事で発動出来る訳だ。


とりあえず魔力パラメータを感覚で操作出来れば魔法が使えるようになるらしいが残念ながら俺にそのセンスは無いらしい。

魔法式は一度流し見すれば覚える(エリス談)が後は適正の問題になってくる。


エリスの場合適正が雷属性なので雷属性の魔法式を組みやすい体質だと以前言っていた。

魔法もたくさんの種類があり〈雨〉レイン〈弾〉バレットシリーズといったものがある。


これらは属性の隔たりが無い。理由としてはどれか一つを組んだ後、魔法式の属性数値を弄るだけでいいからだ。

俺はやった事無いがプログラミングと同じらしい。

と、PCに昨日エリスと夜話した事をメモしておく。

基本的な理論が纏まっているから凄いよな。


にしても、この世界は便利過ぎるな。

魔法で電話紛いの事が出来たり家電(家庭用魔道具)の性能だったり転移出来たりと地球以上に発展してると言っても過言ではない。

戦闘面でも核兵器を超える魔法という能力が発達しているから問題無し。


・・・何が問題無いんだろうか?

まあいい。寒くて目覚めてしまったからもう一度寝るのも悪くないが・・・。


「今日は10月29日か」

熾天使セラフの復活まであと二日。俺に出来ることが無いとはいえここで寝ててもいいのだろうか?

うん。割と最近エリス達が何とかしてくれる感がすごいが・・・。


「俺に出来ることは無いだろうか・・・」

そう思って俺はベッドでは無く部屋の外に出る。

微かな話し声が二階の俺まで聞こえてきた。


螺旋階段を降りて共同スペースのロビーへ向かうとちみっ子二人がノートを広げて何かやっていた。

「有紗、ベルおはよう」

「おはようにいちゃん」

「おはよ〜」


敬語が無くなって親しみやすくなった有紗は欠伸をしながら背筋を伸ばしている。

「随分と朝が早いな。何をやって・・・」

俺はノートを覗く。そこには緻密な計算式や証明問題が端から端までビッシリと書かれていた。


中には一応偏差値がそこそ高めの理系大学を卒業した俺ですら解けない問題がそこそこある。

「王都にある学園の入試問題だぜ? これくらいは解けねえと話にならねえな」

と豪語する15歳児だが、ここには常微分方程式だったりベクトル解析だったりと有紗がやるようなものは無い。


「有紗はベクトル微分積分の問題が好きかな〜」

「お、気が合うじゃねえか」

・・・まてまてまて。お前ら年は中学生なのに大学レベルの勉強してるのかよ。


多分勉強を始めてから二週間も経ってないはずだが・・・。

「チビ助、馬の免許が欲しいらしい」

「・・・へえ。あれ免許制なんだ」

なんか・・・。変にしっかりしてるよな。魔法で手なずけたり出来そうなのに。


「・・・出来ればバイクがいいんだけど、この世界には無いもんね」

有紗がバイクか。・・・意外だな。

「なんでバイクに乗りたいんだ?」


と、俺が言うと有紗が目を輝かせた。

「だってだって! バイクだよ!? カッコイイじゃん!」

あー。昨日ネイビスさんがここに戻る時に言ってたが・・・。


「有紗は仮面ライダーが好きなんだっけ?」

「うん! 中でもWが好きなんだ!」

・・・もうわかんないな。

「ブラックRXくらいしか知らないぞ」

と言うとめっちゃ前のめりで食いついて来た。


「よりによってチートライダーの一角じゃん! 」

俺が知ってるのは名前だけだがな。

「まあディケイドには勝てないからね」

らしい。


「チビ助、そろそろ続きやろうぜ」

「やろやろ!」

二人は激ムズ問題集を解きに戻った。


にしてもここは暖かい。魔法による室温管理がしっかりしているためだろう。

ちなみにだが、基本は市販の液体魔力タンクを石油のように使っているらしい。セクトルス家ではエリスが直接入れていたが、普通ならそれは非効率で勿体ないとの事。


朝食バイキングは八時から。ここはベルと有紗の問題を解くのも一興かもしれない。

「ベル、その問題集を一冊貸してくれ。朝食まで少し頭を使いたい」

そう言うとニヤリと笑ったベルが手元の問題集を投げてくる。


よし、久々に頭の体操でもしようかな。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「朝早くに失礼します、ゼルヴィン様」

所変わってエール・ゼルヴィン領の中央に位置するエール・ゼルヴィン邸。その研究室。

アムネルを倒した次の日からというものその場にあった機材や研究書等といった文献を日夜研究していた。


それもたった一人で。その事を知っているのは側近の二人とその他一人のみ。

この研究室はどちらかと言うと未来的で、大量のモニターや機械だらけの部屋だ。

「既に機械兵の作成は完了しておるわ。後は量産体制を整えればいいのじゃが・・・」


そう。既にバジステラは現代科学における兵器や武器の解析を終えていたのだ。

そして滅界の七龍王セブンスカタストロフィ・ドラゴンロードが"特異点"と呼ぶこの世界の技術である魔法を組み合わせた新技術へと進化させて。


バジステラは部屋の奥にある扉を開いた。

そこには奇妙な液体の中に詰め込まれた人間の形をした機械の体があった。


体長は2m半、全身が機械で出来ており、身体中からチューブが伸びている。

左腕はガトリング砲、右腕には鋭い鉤爪が付いている。翼はファンタジー感など無いジェット型。片目はスコープ、もう片目は小さな水晶がそのまま付いたようなもの。


「・・・。プロジェクトNo01"イカロス"ですか」

「そうじゃ。使い捨てのコイツにはちょいとばかし皮肉を込めてやったのじゃ」

イカロスの最後は太陽に焼かれて死ぬ。この機械兵は使い捨てという事でそれを暗示させた。


「プロジェクトNo02はどちらに?」

「アレはフランデルじゃよ。流石に"ティアマト"をこの国に置いておくのはちと危険だからの」

そう言って近くのモニターから"ティアマト"の設計図を開く。


「・・・破壊の規模は推定半径29.6km、更に少し形を弄るだけで破壊の規模を操作出来ます。その場合はプルトニウムの量も考えなければなりませんが」

「そのくらいならワシでも出来るわい。この兵器の恐ろしさはその後。広範囲に渡る放射線物質を撒き散らす部分が恐ろしいんじゃよ」


そう言ったバジステラはモニターの画面を消して奥の部屋の鍵を閉める。

「それで・・・、あの坊主は今どこじゃ?」

「はっ! アマトの宿に居られるかと」


バジステラは目を細める。そして数秒の思案を巡らせて今後の対応案を導き出した。

「放置でいいじゃろう。最高の演出が出来るまでは・・・」


バジステラは不敵に小さく笑いながら研究室を後にした。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




死ぬ程ムズい問題を幾つも解いた後、朝飯中にエリスが部屋に呼んでくれたので向かう。

部屋の場所は俺の隣なのでわかりやすい。

ノックをしなくてもいいと許可を取っているのでそのまま扉を開けると、冷たいミントの香りとふんわりとした甘い香りが混ざったような匂いが鼻をつく。


「・・・。ヘスティアと相部屋だったな」

「そうですよ。まだ寝てますけど」

そして目の前にはエリスがいた。単純に俺の動きを読まれたんだろう。

ヘスティアは寝室らしいが別室なので姿が分からない。


俺とエリスは部屋のリビングにある二人用テーブルに座り、エリスがお茶を注ぐ。香り的にニルギリか。

などと考えているとエリスがクスリと笑った。

「この短い間に相当成長しましたね」

・・・は? ま、まあ・・・。

「エリスの婚約者として相応しいくらいにならないといけない、そう考えるとこれくらいは当たり前の知識だ」


「そうですか」

エリスが紅茶を口にする。

・・・凡人が天才に追いつこうとしても生半可な努力じゃ難しい。


いや不可能に等しい。そもそもの脳の造りが違う。


だが、天才に認められるように努力する事は間違いじゃないはずだ。


凡人が故に努力する。俺はそれが務めだと思っているから・・・。


「・・・面白いですね」

エリスは魔法を使わなくても表情で考えている事を読んでくるのは知っているが、この考え方も知られているのは恥ずかしいな・・・。

「さて、話を変えて面白い話をしましょうか」


うわぁ。エリスが面白いと思ってる事って絶対に戦闘向けじゃん。

「そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。先日、陛下に会ってきました」

陛下、はアイクレルトの国王様か。


「そしてその横には円卓に座す神魔の王ワールドラウンズの一人、円卓指席階位クラス・オブ・ラウンズ五位生ける炎の神格フォーマルハウトクトゥグア様がいらっしゃいました」

・・・円卓に座す神魔の王ワールドラウンズか。そして話を聞く限り十二人の中でも五番目に強いやつ・・・。


「彼らがなんの為にここへ来ているのかは不明ですが、やはり鍵・・・。ルミナレスの葉を欲していると思います」

まあこのタイミングでの登場と聞けば間違い無くそうだろう。


「・・・と考えてしまうのですが、陛下の事です。他にも別の案件を進めているような気がしてなりません」

「まあ、それを考えてもどうにもならないと思うぞ。それよりも今俺達に起きてることを優先・・・」

と、俺が言っているとエリスが目を細めながらため息をついた。・・・なんか珍しいな。


「その思考が悪いとは言いませんが、悠長な事に変わりませんよ。手遅れになる前に対策を考えるのは当たり前です」

「・・・すまん」

「いえ。怒っていませんよ。とはいえそれはこっちで考えておきます。少なくとも陛下は私達の害にならない事は・・・、確かです。今は熾天使セラフの対策が優先でしたね」


熾天使セラフ以前にそもそも円卓に座す神魔の王ワールドラウンズの事すらよく知らないんだよな。

「少しは知っていると思いますが、円卓に座す神魔の王ワールドラウンズは通称神円卓ラウンズと呼ばれており、全てを超越した存在です」


表情一つで心を読んでくるエリスと話していると会話が楽だな。

「それは雷閃の魔女と謳われているエリスでも?」

「はい。彼らは時に世界を超え、創造する力があるとか」


本当に"神"なんだな。

「何かを司る"神"とはまた一つ次元が違いますよ。先程会話に出たクトゥグア様の特殊技能スキルの一つに『転生の炎』と呼ばれるものがあり、無制限の転生が可能なのです」

・・・何だそれ絶対に殺せないって事か?


「流石神様なんでもアリだな」

「その中の一人が熾天使セラフです。幾つもの世界を創る力があるとか」

はぁ・・・。規模が違いすぎる。


「で、エリスはどう立ち向かう?」

いつものエリスなら何らかの対策は取っているはず。と、思ったのだがここで予想外の反応が返ってきた。

「さあ? 未定です」


「エリスらしくないな」

「ええ。今回、相手は圧倒的な格上でまともな小細工では太刀打ち出来ません。更にどんな手を取ってくるかが未知数。・・・なら」

そう言ってはにかんだ笑顔を浮かべた。


「何も考えずに向かった方が楽しそうじゃないですか」

「・・・」

やり方によっては世界が滅ぶ。それを天秤に乗せたとしたも彼女はその選択をする。

まるでこの世界がどうでもいいかとでも言うように。


それが俺の婚約者。世界一つすら自身の楽しみとして使い捨てる。そういう心持ちだ。

「やっぱり凄いな。エリスは」

「・・・ありがとうございます」


珍しく腑に落ちないような顔をしたエリスは飲み終えた二つのカップを片付けに行く。

その後、俺達はそれとなく雑談をしながら一日を過ごした。


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