第53話 The aerial battle of Girls at the Zenith



「ふむ。エイリプトさんとイルムさんの戦いはそろそろ佳境に入る頃ですね」

私、エリスはアマトに聳え立つ氷の塔を2km程離れた所から見上げ、一言呟きました。


ここから起こることは大体予想が付いています。しかし・・・。今回は傍観者に回ることは出来そうに無いですね。

「・・・レクトさんの修行をさせたいのですがそこまで余裕は無いさそうです。それに相手方の出方次第では私も対応を買えなければいけませんし・・・」


とはいえ陛下と生ける炎の神格フォーマルハウト様の協力が約束されたという事なので気は楽ですが。

「リオ、こっからアドリブになりそうですよ。大変ですね〜」

『知らねえよ。お前は死なねえ程度にやってりゃいいんだ』


相変わらずつれないですね・・・。ちょっと面白そうなのですが。

「レクトさんの所はもう終わっていますし、本題の方に入らなければ間に合わなくなりますね」

エイリプトさんとイルムさんの戦いには興味ありますが、十中八九イルムさんが勝ちますよね。相性が悪過ぎます。


まあ私がやる事に彼女らの勝敗は関係無いのでいいのですが。

先程アドリブと言いましたが、結末は見えています。ただ一戦挟むか挟まないかの違いですね。その一戦が大きいのですが・・・。大丈夫でしょうか?


「にしても、二人は背中に羽を生やしていますね」

エイリプトさんは氷で造形。イルムさんは粘液種スライムの体型変化を使っていますね。

お互い飛行魔法を使用していないのは使えば速さ的に追いつけないからでしょう。


二人とも魔力の量は尋常ではないはず、エイリプトさんが翼内の気圧変化での飛行で、圧倒的に燃費が悪くてもこれくらいは必要経費だと思っているでしょう。


対してイルムさんは魔力を使用しないのでエコですね。ここが私達人間種ヒューマンとの違いでしょう。

『お前らは人間種ヒューマンの性能じゃねえだろ。惑星くらい簡単に壊せる人間がいてたまるか』

「・・・余計な事を言わないで下さい」


・・・それに見た目もかっこいいですからね。エイリプトさんが使っている氷の偽足というのもまたかっこいい。

「私もやってみたいですね。でも、その場合はリオの羽になってしまうのですか・・・」

『おい! 嫌なのかよ!』


ふふっ・・・。おっと。

「そんな事は無いですよ。冗談です。でも、あの偽足の場合、おま〇この機能は大丈夫なのでしょうか?」

『おい、俺は一応男なんだぞ?』

呆れたようにリオが言ってきます。仕方が無いですが。


「おや。気になりますか? 毎晩私の視界を通して見ているというのに・・・」

『いや見てねえぞ? お前の股間なんて見てる暇あったら別の事やってんだよ』

・・・そうでしたね。リオはリオで忙しいんでした。


「さて、次の待ち合わせまでは時間が少しあるので熾天使セラフについて調べておきますか」

こうして、私は〈魔法画面〉マジックモニターを開き、〈精霊の声〉エレメンタル・エコーを使用して検索を始めました。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ふう。結構厳しいよね。

私、ヘスティアは氷を破って出てきたイルムさんを見ながら無詠唱で自己強化魔法を使っていた。基本的にイルムさんには物理的な攻撃である氷が効かないから、氷属性魔力エネルギーが乗っかってる魔法を選ぶ必要がある訳で。


「よし!」

第二ラウンドの初手は私の好きな第六位魔法〈氷晶の霜砲〉メルクリアス・ヘイルカノン。単純な火力と魔力エネルギーを乗せやすいからね。

「むぅ〜」


イルムさんはそれを体に穴を開けて回避。そして左腕を巨大化させて爪の生えた黒い腕へと変化させた。

そして幾つかに分裂したとかと思ったらそれが全部イルムさんに変化する。全部で二十は越えてるよ・・・?

「え、何体いるの?」


「いっくよぉ〜!」

気の抜けた声。それからは考えられないくらいのスピードで一斉に襲いかかって来た。

「よっ、ほっ」

私は羽をコントロールして全速力で逃げつつ、適当な魔法で凍らせていく。


それでも、一体一体がイルムさんと同じ戦闘力を持っているみたいで、凍らせるだけじゃすぐに破られちゃう。

「・・・どうしようかな」

まず、数十のイルムさんのメインウエポンは巨大な左腕。多分だけど数が多いからコントロールするのが難しくて細かい魔法とか黒い棘になったりとかは出来ないんだと思う。


それに今回は魔法を使って来てない。つまり、なんだと思う。

あと、イルムさんは多分まだ別空間に体を残してあるはず。いくら殺しても無駄って事になる訳で・・・。


「てことは多次元空間を凍結させて、かつ同時にイルムさんを倒す必要があるわけだね」

別空間を凍結させてもイルムさんを倒さなきゃまた別空間を造られるだけだからね。・・・メル、どう?


『無理に決まってるでしょ? 私はリオやゼノみたいにここから別空間を作用させる力は無いわ』

だよね〜っと、危ない。逆の足持ってかれる所だった。避けながら会話って難しいよね。


ゼノ、冥絶の孤龍王ゼノアイソレート・ドラゴンロードはこの滅界の七龍王セブンスカタストロフィ・ドラゴンロードの中でも屈指の能力を誇る龍王で、『存在自体が宇宙一つと同じ』とかいう意味わかんないやつ。


まあ出来ないなら仕方ない。別の手を考え・・・

『でも、空間移動を阻止する事は出来るの。それを応用すれば行けるかも。でもそしたら貴女の転移は不可能になるのだけれど・・・』

「いいよ。使わないし・・・じゃあ術式頭の中に突っ込んで」

『分かったわ』


メルがそう言った瞬時、私の頭の中に数万桁の数式が流れ込んでくる。そしてついでとばかりに周辺の空間情報式まで。

さてと。ここからは簡単な算数をやっていこう。

「一応反撃もしながらだけど」


イルムさんに無詠唱の〈氷晶の霜砲〉メルクリアス・ヘイルカノンを叩き込みながら計算していく。

私がメルの使うような第七位魔法を使ったとしても威力は落ちるし、使用まで時間がかかる。それに特殊な魔法だとこうやって色々計算しなきゃいけない。


「ええっと・・・」

イルムさんの攻撃を避けながら周辺の空間情報と魔法式を適合させていく。


「よし。出来た、〈凍界せし王の吐息〉メルクリアス・ロード・エクセリア


ピキピキ、と空間が凍りつく音が耳元で鳴る。ただそれだけだけど空間移動の凍結が出来たことを確認出来た。

「第一段階、成功」

まあ同時に倒す必要が無くなったからそこはメルに感謝だね。いっつも感謝してるけど。


「うぅ〜ん〜? これはぁ〜、空間移動無効かなぁ〜」

「そそ。〈氷晶の霜砲〉メルクリアス・ヘイルカノン

私は一本の氷属性レーザーを放ち・・・


〈四重連鎖〉クアトロチェイン〈九重強化〉ノイン〈転移門〉ゲート

魔法は躱されたけど、九つの〈転移門〉ゲートを一つずつ時間差発動るように準備。

あとは私が放った〈氷晶の霜砲〉メルクリアス・ヘイルカノン〈転移門〉ゲートで飛ばして軌道を変えて攻撃していく。


これはストック済みの〈転移門〉ゲートは三十六。これが尽きるまでアマト上空を私の魔法が駆け巡るわけで。

「うぁ〜!」

「むぅ〜!」

「あぁ〜、逃げられないかなぁ〜」


転移門が尽きる頃にはもうイルムさんは残り三人にまで減っていた。

「接近戦、行くよ! "私の前では全てが凍る"」

手始めに、空を全て凍らせて私の支配下に置く。


そして降り注ぐ雨が雪へと変わり、やがて氷柱へと変化する。


落ちれば一溜りも無いという次元では無いはず。天上から降り注ぐ氷柱が頭にでも当たれば常人なら死に至る。

「まあ物理受けが強い粘液種スライムには効かないけどね」


『じゃあなんでこれやったの?』

メルが不思議そうに尋ねてくる。

「どうせなら少しでも有利に進めたいでしょ?」

という事で文字通りマッハで一番近かったイルムさんの一体に近づく。


「うぉ〜。速いねぇ〜」

イルムさんの巨大な左腕が私に振るわれる。

「小細工のない粘液種スライムほど弱いものは無いね〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメット

でも、単調な攻撃が当たるわけ無いじゃん、という事で瞬間的に背後へと回って後ろから至近距離で魔法をぶち込んでいくぅ〜。


『私が教えたとはいえ、も〇うさんみたいな事言わないの』

元ネタ知らないけど〇こうさんって人がつかってる言葉らしい。面白いから使ってみた。


イルムさんだけど、凍結させたらそこは私の干渉下。即座に完全絶対零度パーフェクトアブソリュートゼロへと変化させて消滅させる。

あ、気が付けば私の口角が上がってる。まあすっごく楽しいし。


そこでちらりと空中に浮かぶ黒くて丸っこいものが見えたけど・・・。それはそれでやる気が出るからおっけーだね。


別空間への接続凍結させて、イルムさんの数は残り二人。をここまで来ればもう。

「狩り同然だね!」

私は再びマッハで近付く。

〈九重強化〉ノイン〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメット


自身の右方向へと魔法を撃ち、それを無詠唱の〈転移門〉ゲートで拾ってイルムさんへと軌道を変える。

〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメットは直径50cmの氷属性エネルギー弾を数千発撃ち込む魔法。それが単純計算で九倍の威力で、九倍の数。更に九個の魔法陣から放たれるから数は実質81倍だね。


360°、縦横無尽に空を舞う蒼白いエネルギー弾は当たるまで追い続ける。

「うぁ〜。無理かなぁ〜」

数の暴力に観念したイルムさんは閃光の雨に飲まれて消えていった。


「あと一人!」

私はその場から砲撃を行い、イルムさんを狙う。しかし、それは簡単に食われてしまった。

するとイルムさんの体から黒い液体の奔流が溢れ出してゆく。


それらは触手のようにうねり、手のように変化しながら私を掴もうとしてくる。

「・・・女の子としては好まないぬるぬる系だね」

とりあえず正面から向かってくる触手を回避しながらイルムさん本体がいる場所へと向かう。


その途中に右下と上から触手が迫って来たので、右下は空中に〈魔法盾〉マジックガードを張って対策。それに接触型の罠魔法トラップを付与させて触れたら一定時間凍結させるようにする。


上からの触手は単純な回避で一度躱さした後、〈氷晶の霜砲〉メルクリアス・ヘイルカノンで凍結、爆散。

まあ悠長に対処している内に正面から三本。下から二本、上から三本触手が迫ってくるわけで。


「まあ対処法は変わんないし」

まず、下へと〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメットを放ち一本落として、もう一本を体を傾けて躱す。

次に〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメット〈転移門〉ゲートで回収。それを正面に放つ。まあ学習するのは当然で一本しか落とせず・・・。


だから〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメット〈転移門〉ゲートで二つに分割して、上の一本へ放ち確実に落とし、先程躱した下の一本を落とす。


残りは上からの一本と正面からの二本。比較的近いのは上。なので〈転移門〉ゲートで正面に運んで対処しやすい形にして・・・。

〈三重強化〉ドライ〈氷晶の蒼咆〉メルクリアス・ブルーバースト


私は一度止まり、威力重視の高火力第六位魔法で触手を一掃する。蒼白い光が眩しいけれど、それでイルムさんの目がくらんでくれれば結構。

そしてマッハで進めばもうイルムさんの目の前。

「もう一発! 〈氷晶の蒼咆〉メルクリアス・ブルーバースト


そして、周囲を凍てつかせる蒼白いエネルギー砲がイルムさんへ直撃する寸前・・・。

「はぁ〜。やるねぇ〜」

彼女の仮面が落ち、ドス黒い魔力の流れが〈氷晶の蒼咆〉メルクリアス・ブルーバーストを取り込ん・・・。


「いや、捕食したのかな」

私は一度全力で下がって落ち着くまで待つことにした。

そして止んだ時、彼女の仮面は戻っていたけどさっきよりも気配が大きくになっているのが分かる。


「・・・取り込んでコピー、したのかな?」

「ええっとぉ〜、まあそんな感じかなぁ〜。適正魔法に氷が追加されてぇ〜、捕食した魔法が使えるようになったんだぁ〜」


・・・何それ強すぎでしょ。

粘液種スライムは捕食した生命体の情報を取り込んで強くなるとか聞いた事あるけど、魔法を捕食して自身の強化とか・・・。こっちはやってられないよ。


『でも今まで使ってなかった事を考えれば何かしらの制限があると思うわ』

お、ナイスだよメル。こういう時の明るい意見は大事だね。

『茶化さないの。次の一手を考えましょう』

「そうだね」

そう言った私の顔は、多分・・・。


こんな化け物相手に勝とうとしてる自分が可笑しくて苦笑してるんだと思う。


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