第47話 絶対降雨工業都市アマト



俺達が温泉宿を出て三日程経った頃だ。この先の空が曇り始め、次第に雨が降り始めた。

「雨、だな」

つまりアマトが近いという事だろう。

「あー。ベルキューアさん。代わりましょうか?」


エリスはベルに優しく問いかけた。だが、ベルはこっちを向いて首を振る。

「アディルさんがフード付きのレインコートを持っているのでレクトさんとアリサちゃんはもらって下さい」

「エリスはいいのか?」


と、俺が言うとエリスの雰囲気が一変。戦闘時の威圧感が溢れてくる。

「エ、エリス!?」

そして何かに気がついたかの様にこっちを見てニコニコしながら頭を軽く下げた。

「・・・あ、いえ。驚かせてすみません。リオの力を使いこなしたいので少し練習を、と思いまして。周囲の空間情報操作で『私に雨が絶対に当たらない』というものを追加して維持してみます」


それ相当便利じゃないか?

「それで魔法を当たらないように出来たりしないのか?」

エリスはむんむんと唸った。

「出来ますけど私以上の魔法師が魔法攻撃をして来れば破られますね。あとはエイリプトさんが事前に『空間情報の凍結』をしていればそれも出来ませんね」


・・・つまり同格以上には使えないということか。

「それに格下なら使う必要も無いしな」

「そうなりますね。なので使い道はそこまでありませんけど、万が一の為に使いこなしておきたいのです」


「・・・」

エリスは自分の強さに慢心せずに日頃から努力を続けているようだ。多分俺の知らない間にも・・・。

「俺も、見習わないとな」

「はい? 何か言いましたか?」


絶対に聞こえてただろ。・・・なんて言えない。

「いいや。なんでもない」

と、そこでアディルが俺に手招きしているのが目に入った。


「どうした? ・・・ああ。雨具ありがとな」

と言った俺だが、アディルに渋い顔をされてしまった。

「ちげぇよ。・・・〈転移門〉ゲート

アディルは〈転移門〉ゲートから一丁の拳銃を取り出した。・・・ええっとこれは


「お前がオーダーしてたやつだぜ。モデルは既存の銃だが、魔法で改造した物だ。ま、お前なら見ただけで分かるだろ?」

ちっ。ニヤつきながらやらしい問題出してくる。だがこれでも一応ミリオタの端くれだ。これは問題無い。


S&Wスミス&ウェッソンM500だろ。通常販売されている拳銃の中で一番威力が高いという事で有名な」

「正解だぜ。まっ、俺が改良したから『S&Wスミス&ウェッソンMC500』だがな!」

これはマグナム弾を使用している五十口径の拳銃だ。五十口径は対物狙撃銃マテリアルライフルと同じ大きさで威力も申し分ない。


そしてこれはベレッタとは違い回転式拳銃リボルバー式だ。 五発で弾を入れなければいけないが、以前のようにマガジン内の弾丸が切れるまで他の魔法弾が使えないという事が無くなるのというメリットがある。


「これで戦略の幅が広がったな」

「五十口径弾を大量に作ってあるから入れとけ」

そう言われてアディルの〈転移門〉ゲートから約70の弾丸をいくつかの箱で分けて受け取る。

「箱に種類書いてあっから後で読んどけ」

「分かった。ありがとな」


そして、上からヘスティアが降りてくる。・・・二階はオープンだから普通ならずぶ濡れのはずなんだが全く濡れていないな。

「ヘスティア。なんで濡れてないんだ?」

「んー? 二階部分の『天候によって変化する情報』を凍結してあるから雨降らないんだよ」


設定細っ!?

「情報操作に情報凍結・・・。魔女は便利そうでいいなぁ」

そう俺が呟くと有紗が此方を向いて頬を膨らませてた。


「私はまだ腐食しか使えませんよ? 使えば周囲が死の海になる様な能力は便利じゃないです・・・」

有紗は拗ね気味である。多分他にも能力があるんだろうが、それらは一朝一夜で使いこなせる能力では無いはずだ。・・・でも有紗が能力を使ってもエリスとヘスティアは死ななそうだな。それにベルも多分逃げられる。


「ま、まあ焦らずゆっくり強くなりなよ」

俺に言えるのはそれくらいしか無かった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




絶対に雨が降る、という街は意外にも工業都市のようだ。

・・・というか、工業が進み過ぎな気がする。

至る所で工場の煙突から煙が出ており、少し高めのビル状の建物には太いパイプが絡まるように付いている。そして工場と工場の間にも同じようなパイプが何本もあり、俺達の上にも絡み合うように乱立していた。


「ごちゃごちゃした街だな。でも、こっちの雰囲気の方が好きだぜ」

アディルのテンションが上がっているな。やはり鍛冶師としてこういった街の方が好みか。

「この街はアイクレルトでも異端な街らしいですよ。まるで別の時代から飛んできたかのようなビジュアルです」


確かにここは今まで見てきたアイクレルトでも雰囲気が違いすぎる。

と、そこで地下駐馬場についたので馬を置き、外へ出てホテルへと向かう事にした。

「それでは行きましょ・・・」


ドォン!


「っ!?」

俺の視界の端で耳を劈く程の大きな爆音が聞こえた。その方向では大きなタワーの一つから黒い煙が立っている。俺達の周囲の人達がザワつき、遠くでは悲鳴が聞こえる。

「また、厄介事でしょうか? それとも何か実験のあれこれか・・・」


だが、それにしては周りの人達がザワつき具合がおかしい。

「いや、違いそうだな。どうする見に行くか?」

ここの判断はエリスに任せるべきだろう。だが、エリスにしては少し不穏な暗い顔をしていたが、すぐに何か企み事のある笑みを浮かべた。


「レクトさんはどう思いますか?」

お、俺かよ!?

「え? まあ、何が起きたのかを確認するべきだと思うけどな。問題事なら俺達に火花が飛んでくるものかどうか、被害の程とか・・・かな?」

「まあ及第点ですかね。ですが、以前と比べて成長していますね」


エリスはクスクスとからかうように笑うが、冷静さを保っておりいつでも問題無く行動出来るようだ。

「なら、ここは私とレクトさんで様子を見てきますか・・・。ベルキューアさんとアディルさんで荷物の移動をお願いします。

恐らくアディルの〈転移門〉ゲートとベルの実質瞬間移動を使うのだろう。適任にも程がある。


「エイリプトさんとアリサちゃんはこの街の冒険者組合で戦闘許可を取ってくるのと情報収集をお願いします」

このメンバーの理由・・・。道中で襲われる可能性が無きにしも非ず、という所か。有紗はヘスティアといるのが一番安全だしな。って、有紗は多分俺より強いよな?


「ではレクトさん。行きますよ」

うーん。どうして俺なんだ?

と、思った直後、エリスに腕を掴まれた。

「え? 何をして・・・」


そして一瞬で視界に映る光景が変化する。


俺達はこの街のどこかにある建物の中へと転移していた。その部屋は畳や障子といった簡素で大きめな和室だ。この部屋は魔法のライトが小さく少し薄暗く感じる。そして、上からは爆音が聞こえてきた。

「爆発が起きた場所へ位置情報を書き換えたのですが、恐らくこの上ですね。少し失敗してしまいました」


てへっ。という不思議なしぐさをしているが、やっている事が凄すぎて頭に入ってこない。これなら転移魔法なんていらないよな。

「・・・で? どうやって移動するんだ? 階段でも見つけるか?」

「ん〜。歩き回っても見つかるかが問題ですよね。・・・なら〈龍雷の雨〉レイン・ドラゴンライトニング


はあ!? いきなり!?


ドバァン!!!


エリスの魔法は壁を破壊し猛烈な爆風を起こす。

「な、何やって・・・」


「おい! こっちで爆音がしたぞ!」

「何ぃ! 上の階から兵を呼べ!」

いやいや。来ちゃってるじゃん。

「はい! これで階段が分かりますね」

いやいや。これほぼ運が良かったみたいな所があるんじゃ・・・。いや? 上で問題が起きているのだから殆どの人は上にいると考えていいのかも知れない。


・・・多分エリスは上に集中していると分かっていたのだろう。その辺の判断の差から俺とは違うな。

「さて、あとは蹴散らすだけですね。雑魚を殺すだけなのはそこまで面白味が無いですけど・・・。強者がいる事を願いますか」

ニコニコと物騒な事を言い出すエリス。


「程々にしとけよ」

「もちろんです。雑魚狩りなんて面白いものでも無いですし、数秒で終わらせますよ」

俺の方を向き、無邪気な笑顔で敵が来る方向へ歩いていくエリス。・・・久々にあんな顔を見たな。あと、そういう意味じゃないからな。


エリスの服装が私服のワンピースからいつもの黒いドレスへと変化する。元々魔法をストックしておいたのだろう。

「いたぞ!」

「あの女を捕らえろ!」


敵兵が数十人でこの大きな部屋へと流れ込んできた。敵兵は金属よりも布面積が多い軽装だ。

ヘスティアとの戦いを見ている俺からすればエリスを相手にするには戦力不足だと思うけどな。

「・・・捕らえる、程度の気迫で来られても面白くないのですがね。室内戦は久々ですからそっち方面の戦い方をしょう〈電流結界〉ライトニングフィールド〈浮遊する雷撃機雷〉ライトニング・マスターマイン


お、これは俺が最初に見た魔法だな。電気を触れている物質へと流し込んで干渉した後、機雷を配置し動きや判断力を鈍らせる。

〈拡散する結晶体〉ディフュージョンクリスタル〈五重強化〉フュンフ〈紐糸電撃〉ストリングライトニング


エリスの手から放たれた五本の細い雷は一番前の敵兵の心臓を穿つ。そして即座に次の心臓目掛けてうねりながら向かっていく。

全ての心臓を貫くのに二秒もかからなかった。

「ええ・・・」


「触れた対象を反射させる魔法を敵が移動すると思う場所に置いて、雷系統でも珍しい貫通系の魔法で心臓を抜いただけですよ。雷なので触れれば感電死しますから全員死んでいると思いますね」

全員の移動予測地点を割り出し、そこに魔法を配置出来る技量。人間業じゃない。


「さて、足音はこの部屋を出て右でしたね。行きましょう」

多分これ、俺いらないんじゃないか?

そんな事を思いながらついて行く。階段があると思われる方向から敵兵が来るが・・・。


「もうそこは私の領域内ですよ」

〈電流結界〉ライトニングフィールドの能力で四方八方からの雷撃で即座に感電死。

「歩きにくいので消し炭にしてしまいましょうか」

・・・死体にも無慈悲な雷撃。可哀想に。


敵を蹴散らしながら上へとたどり着く。そして爆音が聞こえた方向へと行くと行き止まりがあり、そこには目付きが鋭くガタイのいいスキンヘッドの男と身長が高く19歳前後の黒髪黒目の美青年が、倒れている黒髪黒目の少女を庇う姿があった。

傍から見るとスキンヘッドの男が二人を行き止まりへ追い詰めているという構図だ。


「さて、どうしましょう。助けるべきか、加担すべきか・・・」

「前にも聞いたなそのセリフ。なら以前と変わらないだろ。有利な方を倒して情報を吐かせる。これが一番だと思う」

ふふっ、と笑いながら、ではレクトさんがお相手してあげて下さいね、と言って下がっていくエリス。


「了解。・・・さてどうするか」

「誰だお前ら。関係者以外立ち入り禁止の札を見なかったのか?」

「生憎下の階に直接飛んできたから見てないな」

こうして会話をしながら状況を確認する。まずここは窓がない密室空間。形状は縦長、広さは・・・横に2m、高さ2.5mといった所か。


「さっきの口ぶりからすると俺に敵対するという事でいいんだな?」

「まあ、どっちが善人かわからない以上、そうなるな」

距離は約5mくらいか。武器は・・・。見た感じ持っていない。格闘戦か、魔法戦か、それとも別の感じか・・・。


「なら! 殺してやる!」

「っ!」

スキンヘッドの男は俺へと踏み出す・・・。速い! ベル程ではないが以前の俺相手には十分な速さだ。


「ふん!」

俺は上へと飛び敵の拳を回避する。・・・格闘戦が得意な感じか。

「それならっ!」

ホルスターからベレッタを引き抜き、即座に引き金をひく。


ドパン! ドパン! ドパン!


「こんなもの」

ベレッタの弾丸は軽々と男に掴まれる。

「マジか・・・」

やはり、ここはS&Wか? いや、まだ貰ったばかりで試し撃ちをしていない。危険だな。


そして男が跳躍、俺が天井付近にいるので恐らくアッパーだろう。

「っと、」

天井へと手を着いて押し、下へと降りる。

「はぁっ!」

そしてギリギリアッパーを回避する。天井には大きな穴が開き、その威力を物語る・・・。


いや威力やばくないか? 一発でも当たれば死ぬぞ? エリスはまだ傍観状態だし、やはり俺がやるべきなのだろう。

「ちっ!」

男は即座に技を切り替え、俺へと大振りのかかと落としを繰り出してくる。


これを回避し、銃で一発・・・。

俺はまたもやギリギリで回避し、拳銃を構える。


ドパン! ドパン! ドパン!


「だろうと思ったぞ」

男はそう言いながら銃弾を振り払い、かかと落としからミドルキックへと技が変わっていた。

「フェイントかっ!」

不味いっ! 躱せないっ!


「一時撤退にしましょうかね」

そんな声が俺の後ろでそう聞こえた瞬間、景色が変わる。どこかの宿のロビーだ。エリスが選んだという事は・・・。


「おっ、レクト。どんな感じだったか?」

やはり、俺達が泊まる宿か。

「助かったよエリス・・・」

俺がエリスを見ると、横にはあの黒髪の男女二人がいた。


「事情聴取の為にも、二人は連れて来ましたよ」

二人は少し怯えている様感じだな。

「まず、俺達は拷問みたいな事はしないからな。言いたい事だけ言ってくれればいいからな」

「・・・は、はい」

アディルが少女の方を部屋へと運び、俺とエリスは彼から話を聞くことにした。


「ベルキューアさんは組合ですからね〜。また襲われた時、少し不安です」

いや、エリスがいるから問題無さそうだがな。

とりあえず、色々と聞いていくか。


「まず、名前を教えてくれ」

「・・・。僕は・・・」

彼は数秒間が黙っていたが口を開いてくれた。



「僕の名前は天草征十郎時貞だよ」



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