第41話 五人目の魔女

「うぇぇぇぇぇん!!! 怖かった! 怖かったよぉぉぉぉ!!!」

「そんなに泣くなって・・・」

俺が有紗の元へと行くとベルが泣いていた有紗を宥めていた。


「あんなにカッケーこと言ってながらここで泣くなんて、まだまだチビ助だな」

「むっ!」

ベルの一言で涙を拭い、ムスッとした表情を浮かべる。


『にしてもこの街どうすんだろうな』

魔道具越しからアディルの問が聞こえてくる。見渡す限り腐り果てた家々だからな。・・・戦っていたのって30分も無いよなそれで街の半分が余波で更地になっているなんてな。


「それに関しては問題無いですよー」

エリスとが魔道具での転移で俺の前にやってくる。・・・だと思ったよ。エリスの計画だからこれも予想の範疇だろう。

「エイリプトさん。『解凍』してください」


そう言うとヘスティアも目の前にやってくる。

「おっけーエリスさん」

ヘスティアが指を鳴らす。そして・・・


街は俺達の周辺を除き、何事も無かったかの様に元に戻る。


「え?」

思わず間抜けな声が出てしまった・・・。いや仕方ないだろう。ヘスティアの能力なのだろうが、何キロも続いた破壊痕が一瞬で元に戻ったのだから。

「ヘスティア? 何をしたんだ?」


「え? 大した事はしてないよ? 元々凍結していた『情報的時間』を解凍させて『物理的時間』をそれに合わせただけたよ」

「いやいや分かんねえよ! そもそも『物理的時間』と『情報的時間』ってなんだよ!?」

それを大した事はしてないって・・・。


「エイリプトさんは説明下手なので私が説明しますね」

「え? エリスさん酷くない?」

「私達が存在する空間は主に二種類あります。それが『情報的空間』と『物理的空間』です。この二種類に分けられる物は色々とありますがその中の一つ、『時間』です。時間は『物理的時間』と『情報的時間』に分ける事が出来、物理的時間は今私達が活動している時間で、それを支えているのが情報的時間です。ここで重要なのは『物理的時間』よりも『情報的時間』を優先するという事です」


・・・。もう凄いな。

「エイリプトさんは情報的時間のみを『凍結』させる事で物理的時間のみを進ませ、私達の戦闘が終わった後に『解凍』させて情報的時間へと合わせたんです。情報的時間が優先されるので凍結前の時間がこうして現れてるという訳です」

『あ? そしたら全部元に戻ってアリサの龍王との契約も戻っちまうんじゃ?』


まさかのアディル、理解している。俺は分かん無いのだが?

「エイリプトさんが凍結させたのは『この街に存在する生き物以外の情報的時間』なので私達は含まれません」

「そーいう事。分かんなくても戻ったんだからよしってことだよ」


しばらくするとこの街の人も戻ってきていつも通りの生活をし始めた。・・・なんでいつも通り出来るのかが謎である。


俺達はヘスティアが凍結した時間の関係で俺達の宿は消えてしまっため新しい宿のロビーにいた。

ちなみに壊れた宿へは謝礼金としてエリスの口座からお金が振り込まれている。

「何はともあれ、五人目の魔女が生まれましたね。・・・という事でアリサちゃんはどういう名前を名乗るんですか?」


「え? 付けなきゃダメですか?」

うん。それ思った。そう言うのって自然と付くものじゃないのかな?

「別に私は無くてもいいのですが、リオは欲しがりますし、多分エイリプトさんの所の龍王も欲しがりますよね?」

「うん。契約したら何か分かんないけど名前を考えさせられたよ」


・・・不思議な龍王だ。いや、何かの敷たりがあるのかもな。

「ええっと・・・。死神さんはどう思う?」

有紗は黒死の疫龍王ブラックペスト・ドラゴンロードと会話し始めた。龍王と正規の契約をした事によって眠らなくても良くなったのかもしれない。


「死神さんも欲しいと言ってますね。・・・何がいいのでしょうか? ベルはどう思う?」

「あ? う〜んそうだな。・・・『永朽の魔女』とかはどうだ? 蝕黒死菌ブラックペストの能力とも似た様な感じだし、強そうだろ?」

確かに蝕黒死菌ブラックペストを彷彿とさせるかもしれない。


「ダメか?」

その言葉に有紗はとてもいい笑顔で笑った。

「ううん! ベルが付けてくれたんだからダメな訳無いよ!」

その笑顔は今まで見たことが無いものだった。不安が取り除かれ、安心した後に出てきた笑顔。何よりベルと一緒だから色々と変われたのかもしれないな。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




所変わって王都アイクレルトにある王城内の厨房。ここでは国王ウェスカーが自炊をしていた。ウェスカーは何事もメイドや召使いにやらせるというのはかっこ悪いという事で色々と自分でやっているのだ。だが、それだとメイドや召使いがいる意味が無いため週に一回はウェスカーが自分で作っているのだ。


「・・・ふう。こんなものかな」

ウェスカーが作っていたのは家庭料理といった平素な物だ。ウェスカーは煌びやかな食事よりも粛々とした食事の方が好きなのだ。


ウェスカーはそれらを二人用の食卓へと運び、美味しそうに頬張る。

「へ、陛下! 大変です!」

そこへ慌てた執事、ネスがやってくる。

「ん? どうしたネス。君がここまで急ぐなんて珍しいじゃないか・・・。まあ座りなよ」


ウェスカーは自分の前の空いている席に指を指した。

「で、どうした?」

「・・・黒死の疫龍王ブラックペスト・ドラゴンロードが正式に契約者を見つけました。・・・名を『永朽の魔女』だそうです」


それを聞いたウェスカーはニヤリと嬉しそうに、そして企みがある様な笑みを浮かべた。

「へえ。やっぱり俺達が動く以上の結果が出たね。・・・多分契約者も元と変わって無いだろうからイチノセ・アリサかな? これでこの国に魔女が三人目、世界では五人目だね」

「星容易くを滅亡させることが出来る人間がまた一人増えてしまいましたね。恐ろしい・・・」


「・・・二つほど間違っているよ。この領域になればもう人間かどうかは怪しい所だ。もう一つ、星を滅亡させることが出来る者などこの星にはゴロゴロいるさ」

星、ならばと言って自分で注いだ紅茶を一口飲む。

「・・・陛下が羨ましいです。と保証されておられるのは気が楽そうで」


「仕方が無いさ。それが私の能力なんだよ」

「・・・あともう一つございました。此方は先程とは違い、重大ではございませんが魔王ディステルの配下がレプテンダールにて諜報活動を行っていたと言う話がございました。この件についてはどうなさいますか?」

ふむぅ、とうなるウェスカー。


「放置、でもいいかな。セクトルス一行との戦闘や薬の売買をしていたということは目を瞑ってあげよう」

「よろしいのですか?」

「今動くのは分からなくも無いからね」

ウェスカーは珍しく硬い表情を見せた。

「な、何が起こるのですか?」


「最悪の場合、世界が消え去るよ」


「・・・ご冗談を」

「まあ、それはそれでこっちの役に立つからいいけどね・・・。さて、新しい魔女の誕生によってこの世界は相当動くよ。ネスも準備しておいてね」

ネスは畏まりました、と言ってこの部屋から出て行った。


ウェスカーはカレンダーを見る。今日は10月28日だ。

「さて、ハロウィンも近いし、昼食を終えたら配る分のお菓子でも作ろうかな」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




この日の夜。私とベルはちょっと夜遅くまで起きている。この部屋から見える街の景色がとっても綺麗だったから。・・・ううん、違うかな。

「自分の気持ちを見つけられたからかな?」

「まあ、なんでもいいんじゃね? 自分の気持ちって、見つけるのが目的じゃなくて成し遂げる事が目的だろ?」


・・・そうだね。ベルの言う通り。

「いつかベルの隣で戦えるくらい強くなるからね」

「はっ! それは無理だぜ!」

え? どういう事?


「俺はチビ助よりも早く強くなって、ぜってーに追いつけなくしてやるよ!」

「なら、私はそれよりも早く強くなる。なんなら隣じゃなくて追い越してみせるから!」

「なにぃ〜!」


こうしているだけで、とっても楽しいよ。これも死神さんがこっちに連れて来てくれたお陰だね。

『別に僕はきっかけを作っただけさ。君が望み、切り開いて来た道だよ。それはこれからも変わらない』


うん。死神さんはそう言うと思ったよ。・・・それでも、こっちに連れて来てくれた御礼くらいは言わないと。



ありがとね死神さん。死神さんのお陰で今、私はとっても楽しいよ。


これからもたくさん楽しい事をして行きたい。


時には辛い事とか悲しい事とかあるかもしれないけど、みんなとなら頑張れると思うの。


色々とあったけどこれからもよろしくお願いします。



『ん・・・』

「ふふっ・・・」

「どうしたチビ助?」

「なんでもない」

死神さんの言葉が詰まったのって、初めて見たかもね・・・。



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