第39話 時間稼ぎ
「さーてと。いっぱいいるね〜」
ヘスティアはバーロンの
「ん〜。どうだろ。こっちの方が手加減のしがいがあるのかもね。向こう人数少ないし」
二千を一人でもまだ足りない、と宣言し魔法で普段着から戦闘服へと着替える。
「はい。おっけー」
ヘスティアの服装は白を基調にした水色のローブ。魔女と言うよりも天使の様なふわりとしており、所々薄く肌が見える部分がある。
「この格好露出度高いし寒そうだけど意外とそうじゃないんだよね〜。付与してる魔法も強いし」
このローブはヘスティア専用のオーダーメイド品だ。機能を細かく数えれば120近く存在し、ヘスティアの能力を最大限生かせる様になっている。
「時間稼ぎだし、メルの能力は使わない方がいいね。それじゃあ
ヘスティアが魔法を唱えると周囲の地面や家々は凍りつき、巨大な棘が大地から生えてくる。そしてその棘は生きているかの様にうねり、敵を貫いねいく。
広範囲干渉系氷属性魔法
「200mじゃ狭かったかな?」
彼女はそんな事を言っているが200mともなれば殆どの敵を串刺しに出来る。気が付くと敵の残りは5人となっている。
「まだそんなに時間経ってないのに・・・。って、やっぱり残った人達は強いのかな?」
残りの者達は隠れていて見えていないが、ヘスティアの領域内にいる時点で探知されているのと同じである。
「試してみよーっと。
ヘスティアは指を鳴らす。すると凍りついた建物全てが文字通り爆散し、ヘスティアが指定した領域200m更地と化す。そして爆散した氷を使い標的へと時速700kmの超高速でぶつける。
「・・・残ったのは一人かな? それじゃあ行ってみよっか。まあ大体想像つくけど」
ヘスティアは敵がいる場所へと歩いていく。そこにはやはり、と言うべきか。ヘスティアが予想した人物がいた。
「ん〜。やっぱりぃ〜。分が悪いのかなぁ〜」
「・・・一応手加減したけどあれを耐えるのは素直に褒めるよ。イルバさん」
「・・・嫌味かなぁ〜?」
「ううん? そんな事無いよ。まあ結局変わらないけどね」
そしてヘスティアが総数790個もの魔法陣をイルバの周囲に同時展開する。
「ええぇ〜。容赦無さすぎじゃない〜?」
「まだまだ遊びの範疇だよ。
魔法陣から小さな氷柱が一斉発射される。その本数は一つの魔法陣につき約90本。射出された氷柱の総本数は7万本を超える。
「氷は個体だから造形は簡単なんだよねぇ〜」
「それでもぉ〜。やりすぎじゃないかなぁ〜」
イルバは何もしない。する必要が無いのだ。
やがてイルバの体に氷柱が突き刺さり・・・
「その物量は凄いよねぇ〜」
イルバは何事も無かったかのようにヘラヘラとしている。
「
「あははぁ〜。楽しいねぇ〜」
少しの会話の間でもヘスティアは思考を巡らせ勝利への道を探す。もっとも、今のイルバはヘスティアからすればそこまで強い部類では無い。だが今ヘスティアは人知れず縛りを入れているため、その中で
「あ、そうだぁ〜。
イルバは数百mもの巨大な
「うわぁー。どうしようかな」
その中から現れたのは既にエリスに倒されたと言われていた
ギリャァァァァァ!!!
黒と赤で彩られたの西洋龍は大きく羽ばたきながら甲高く叫ぶ。
「『龍王』じゃなくて『竜王』で来たかー。ま、退屈しのぎにはなるんじゃないかな?」
龍王とは
「どうかなぁ〜? 超級種Aランクの竜王の
「・・・正直縛り入れている場合じゃ無いかもね。ちょっとやってみようかな」
ヘスティアは再び
「どうかな〜?」
「ギリィィ!!」
「・・・魔法で作った物だから意味無いけど、今のでヒビが入ったって事は以前よりは弱くなってるのかな?」
「そりゃあ超級種の遺伝子データを完コピ出来るわけ無いもんね。・・・一ランク下がってるのかな?」
「・・・おー。よく分かったねぇ〜」
「まあ関係無いけどね」
こうしている間にも
「キリャァァァァァァァ!!!」
「
「ん〜。私一人じゃ無理そうだね。メル! やるよ!」
『あれ? 私の力を使わないんでしょ? ・・・なーんて冗談よ』
ヘスティアの脳内に大人っぽい女性の声が響く。
『はい。余波で街が凍らない様に凍らせておいたわ。魔法は何にするの?』
ヘスティアは
「真っ向勝負で行くよ!
魔法陣から水色の閃光が放たれる。その光に呑まれた物質はすぐさま機能を止め、崩壊する。言うまでもなく人外の領域、第六位魔法である。
やがて
拮抗するまでもなく空が蒼白い光に呑まれる。
「キリャッ?」
そのまま
「・・・っと危ない。流石にオゾン層まで凍結させるのは不味いよね」
「・・・あ、あははぁ〜。なんでそんな簡単に突破しちゃうのかなぁ〜?」
「竜王と龍王じゃ桁が違うんだよ。それじゃあどうするの? 撤退かなイルバさん。私はそれでもいいよ?」
表情を変えずに撤退を促すヘスティア。
「へぇ〜。敵を前にイルバが下がるとでもぉ〜」
「強がりは虚しいだけだよ。・・・イルバさんとは全力で戦ってみたいんだ。
「そうかぁ〜。でもいいのかなぁ〜?」
イルバは今まで見せたことの無い黒い笑みを仮面の下で浮かべた。
「イルバが全力を出せばぁ〜。 魔女も龍王も敵じゃ無いんだよぉ〜」
「・・・私はね。強い人を求めてるんだ。だから強い人は最初から全力で来て欲しいんだよ」
ヘスティアの願い、それを叶えるためには自分よりも強い者が必要なのだ。
「今はまだ殺さない。でも、全力で来てくれたら殺してあげるよ」
「・・・はぁ〜。分かったぁ〜」
そう言うと、ヘスティアの視界の端から黒い粘液がイルバへと飛んで来る。
「
「・・・これは楽しみだね」
全てを腐らせる
「それじゃあ帰らせて貰うよ
イルバは根城へと戻って行く。
「時間稼ぎ・・・。になったかな?」
エリスさんの方はどうなったかな? と、呟いてその方向へ歩いて行った。
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