第一世界 − 零転生目
『サーバーが見つかりません。』
「え?」
突然白くなった
すぐさま通信の再接続、床に散らばっているコンビニ弁当の容器とペットボトルを押しのけてルーターとパソコンの再起動を試みる。しかし一向にインターネットには繋がらなかった。
「通信障害か? くそ、こんなときに……!」
悪態をついても状況は良くならない。急いで戻らないと
その時、背後のベランダから窓ガラスを叩く音が聞こえた。
だれかがノックしたというようなものではなく、なにかが当たった感じだった。この部屋は二階にある。どうせアホな鳥がぶつかったとかだ。今はそんなことに構ってる暇はない――そう思った瞬間。
ぱりんっ! と。ガラスの割れる大きな音がした。
驚いて振り返ると、窓が割れている。そして、部屋にガラスの破片が散らばっていた。
一体なにが起こったのか。おそるおそる近付くと、破片に紛れて、拳くらいの大きさの石があった。状況からしてこれが外から投げ入れられたものだということは分かった。
さらによく観察したら、その石には紙が括り付けられていた。震える手で紙を広げてみる。
『ザマァみろ』
赤インクでそう書かれていた。
それだけで、先ほどの身バレと関係していることを察した。
もしかして、顔や名前だけじゃなく住所まで晒されたのか?
この石はリークした犯人の犯行?
ネットに繋がらないのもそいつのせい?
今、ネット上でどうなっているのか見当も付かなかったが、そう考えるしかなかった。悪い方向にしか思考が働かない。
どうする? どうすれば……?!
「ツカサ?」
廊下から聞き慣れた女性の声が聞こえた。先ほどのガラスの音で母が来てしまったのだ。
「いったい何の音? 大丈夫なの?」
「な、なんでもないから」
「なんでもないって、……なにかイヤなことがあったなら聞くから……入るわよ?」
「は、入るな!」
とっさに叫んだ。
部屋の惨状を隠したかったわけじゃない。
「お願いだから、誰も入ってこないでくれ……!」
叫びはすでに嗚咽を孕んでいた。
ボクはその場でうずくまる。
いたい。心臓が、いたい。
まただ。また同じことの繰り返し。
ボクがなにをしたっていうんだ。
悪いことなんてなにもしてなかったじゃないか。
なのに、いつのまにかにボクの席はなくなってた。
まるで最初からいないみたいに。
だから。
『
『
『
『
『
『
『
『
『
『
『
『
『
『
いろんな
そのたびに
満足いくまで何回も、成功するまで何回も何回も!
ボクを世界の隅に追いやったこの世界を見返してたくて。
ボクはヤマザキツカサじゃない。
ヤマザキツカサはすでに死んだんだ。
お前たちが殺したんだ。
ボクはイヤダって何度も言ったのに、お前たちは簡単に心も体も踏みにじって、お前は社会に要らないって、死ねばいいのにって、何度も殺してきたじゃないか!
ヤマザキツカサは存在しない。ボクは転生したんだ。違う人生を、ボクは。
だから。
だから
「もう、どうでもいい」
ああ、まただ。
空虚で心が満ちていく。
失敗するといつもこう。
すべてがどうでも良くなる。
ちょっと躓いただけで立ち上がれなくなる。
なにをしても、楽しかったことも悲しかったことも、すべて作業になる。
だから、一から全部やりなおすしかない。
転生しなくちゃ。
転生しなくちゃ。
転生しなくちゃいけないのに。
転生するしかボクには残されてないのに。
「はやく転生させてくれ!」
「転生させてくれよ、だれか」
「だれか、だれか」
「だれか、ボクを生き返らせて……」
ボクはコンセントから引き抜いたLANケーブルを抱きしめる。
こんなもの、こんなもの。
異世界に繋がらなければ、ただの……。
あ。
こうすれば、繋がるじゃないか。
こんな簡単なことに気付かなかったなんて。
ボクは思わず笑った。
手に持ったLANケーブルで輪っかを作る。
そして、首にひっかけた。
ボクは。これでボクは、また新しい人生を。
「サヨナラ、
――――プツッ
ボクはどこにも転生できなかった。
今日もボクらは転生する 柳人人人(やなぎ・ひとみ) @a_yanagi
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