第69話 遁走( 3 )
「剣を呼ぶって、優さんもそう言っていたけど、実際にはどう呼べばいいの」
薫は、硬い声で桜子に言う。
「ただ、無心になって呼ぶことだ。無心になることが難しければ、そうすることができることを行えばいい」
「つまり、
薫はうなずいた。
「剣が手元にあると、確信する気持ちが大事なんだ。桜子さんがそう自覚すれば、それは手足と同じように、桜子さんの近くに現れる」
「そしてその行為が、
そんなことが本当に起こるのか、優の言葉がなければとても信じられなかっただろう。
優はそうすることで、里を焼け野原にすればいいと言った。撫子を顧みず、水脈の大蛇を恐れたその報復として。それだけの力が、剣の封印を解くことでほとばしる。
そんなつもりがなくても、力の使い方を誤ればどんな事態になるのか分からない。桜子は、そっとわずかに震える声で言った。
「そうすることが、本当に正しいのかな。私がこのままこの身で封じていれば、
その言葉の先は続けられなかった。気弱な発言をさえぎるように、いきなり薫が両肩をつかんだからだ。
「今ここで弱気になってはだめだ。桜子さんにその気がなくなれば、本当の災厄をのちに呼び寄せてしまう」
荒い口調で言われ、桜子はただ目をまるくした。
「どういうこと……?」
力を解くことで起こる嵐が、祖父の語った災いであるはずだ。薫は桜子の肩をつかんだまま、しばらくの間何も言わなかった。
そうして数秒対峙する格好になり、周囲の視野が狭くなったのだろう。ふたりともがそう気づかない合間に、そば近くへ忍び寄る影があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます