第四十五話 元引きこもりと泥沼サロン事件 中編
「やっぱりそう思う?」
次の日部室でテレシアに相談してみると、案の定彼女も同じことを考えているようだった。
冥子さんも御伽さんも出かけてるみたいだったので、俺とテレシアの二人きりだ。たぶん代表もいるけど確認するのが怖いのでノーカンで。
「癖って、付き合ってたり強くその人を意識してたりするとうつるものなのよ」
「そうなの?」
「あこがれてるタレントさんとかの話し方を真似ちゃったりとかするじゃない?」
「確かにそうかも」
「だから付き合ってるとも限らないのよね」
つまり、『強く意識していれば仕草は似てくる』ので、それが敵愾心によるものなのか恋人関係によるものなのかは分からないということだった。
「……まだまだサークルに潜入しなきゃな」
「そうね……」
肘掛け椅子の上でテレシアがうなだれた。
部室の退廃的な雰囲気の中にあってテレシアの女神のような美しさがコントラストになっていてなんか素敵だった。
「改めて思うけど、テレシアってなんでこんなサークルにいるの? いくらでもいい青春を送れたと思うけど……」
「はあ?」
なぜか露骨にテレシアが不機嫌になった。
「そんなのっ――はぁ……まあいいや、どうせ期待なんてしてなかったし……」
「ど、どういうこと?」
「もう死ねば?」
「ひどい!?」
確かに人の青春についてとやかく言うのは無礼だったかもしれない。でもそんなに怒らなくてもいいじゃん……
「茶道会で着物着てたのすごい綺麗だったからさ……そういうのもいいかなって思っただけだよ」
「ひぇっ!?」
フォローを入れてみたつもりだったが、今度はテレシアが真っ赤になった。
「ななななななにを急に言い出すのよ!?」
「いやだから綺麗だったと思――」
「うるさいうるさい黙りなさいもう言わないでおかしくなっちゃいそうだから!」
「え? わかった……もう言わない……」
「もう一回言いなさいよ!」
「えぇ……?」
女の子って難しい……
「だーおら! 二人きりだからって××××してんるんじゃねえだろうな! がはははは!!」
バコンッ! と部室の扉が開かれて冥子さんが入って来た。
「あんたはもう……」
呆れて言葉も出ない。
「メイコちゃん下品ばい。嫌われるばい?」
「あぁん? ×××くらい別に下品でもねえだろ」
ただですらテレシアの機嫌が悪そうなのに、そんなこと言ったらいよいよやばいんじゃないないかと肘掛け椅子の方を見てみたら――
「×××……×××って……」
なんだか顔を赤らめてちらちらと俺を覗いていた。
「な、なに見てんのよ! 変態!」
言われると思った……
★
「それよりもお前ら、スクープだぜ」
部員全員で部室中央のテーブルに集まると、冥子さんがテーブルの上に写真をばらまいた。
「元茶会とバロック、お互いの部員が付き合ってたよ」
「「え!?」」
まさにそのことについて検討していた俺とテレシアは、先輩二人の持ち込んだスクープに驚いた。
テーブルの上の写真を手に取って眺めると、確かに俺が潜入していたバロックアンサンブル愛好会の部員が映っていた。
「これ、J子(仮名)さんよ……」
しかし、驚くのはそこではない。
「男の方はE太郎(仮名)さんじゃないか?」
そう、I子さんと付き合っていると思われたE太郎さんは、J子さんと甘いデートをしていいたのだ。
「え、じゃあI子さんとは元恋人ってことか?」
「さっきからなに言うとるん?」
「「実は……」」
御伽さんが怪訝そうなのももっともなことだ。俺とテレシアは潜入の結果と、それから分かったことを報告することにした。
「……こいつはもしかしたらもしかするかもしれんな」
しばらく沈黙した後、冥子さんが呟いた。
言わんとしていることは分かる、分かるが……
「いや、まさか、ねえ……」
「とりあえず、やることは決まったわね」
神妙な面持ちで、俺とテレシアは立ち上がった。
★
三時間後……
「じゃあ、表にまとめていくわよ」
「うん……」
俺たちが今日、それぞれの潜入サークルでなにを観察してきたのか。それはもうお分かりだろう。
「じゃあ、まずはA子さんの『癖』から。 ……話し始める前の『というか』、笑う時に右足を上げる、沈黙が長引くと髪を撫でる……」
ホワイトボードに部員の名前を書き連ね、そしてその横にその人の『癖』を列挙していく。
そしてさらに一時間後……
★
「まじか……」
『Hell』全員がホワイトボードの前で絶句する中、俺はつい言葉を漏らした。
さて、ここで算数の問題だ。
『元茶会には男子が4人、女子が4人います。そしてバロックアンサンブル愛好会にも男子が4人、女子が4人います。最大何通りのカップルができますか?』
それが答えです。
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