6 EMBROIDERY

 口を挟みたい気持ちをなんとか抑え、イスに座ったまま、ヒイラギさまとヤドリギ先生のやりとりを見ていた。


 モヤモヤとした言いようのない感情が、募ってくるが、それが何なのかは、わからない。

 トポポポ、と言う音が聞こえたかと思うと、今まさに花が咲いたような豊かな香りとともに、あたたかな湯気が立ち上る。ファーツリーがカップにお茶を注いでくれていたのだ。


「春の香りの紅茶です」

「———このカップは? こんなきれいなカップ、見たことない」

「地上のクラフトマンが作った、ウインターコレクションのホーリーナイトポインセチア、と言うティーセットのカップです」


 美しい夜空をバックに、真っ赤なポインセチアが描かれた、ティーカップ。


「これを、地上のクラフトマンが?」


 なおも、ひょうひょうとしたからかい口調のヒイラギさまと、眉間にしわを寄せながら厳しい口調のヤドリギ先生。二人のやりとりが続いている。

 それを断ち切るかのように、ポインセチアが叫んだ。


「ヤドリギ先生……! これ、見て」

「ポインセチア?」


 ヤドリギ先生の手に渡された、ホーリーナイトポインセチアのティーカップ。

 ヤドリギ先生は、頭に冷水を浴びせられたような衝撃を受けた。

 これが、ヒイラギさまがほしがる、新しい夜空のカタチなのか? すごい。これが、地上のクラフトマン、なのか。


「ボク、もっとヤドリギ先生の夜空が、見たいんです。濃紺のビロードを広げた空に散らばる、きらきらのスパンコール。とろけるようなパール、ちかちかと光るビーズたち。こんなにワクワクするものは、他にないんです。今までも、これからも!」


 ヤドリギ先生は澄み切ったポインセチアの瞳に、新たな夜空の風景を見た。

 その瞬間、キッパリと、その言葉を口にしていた。


「ヒイラギさま……。僕の夜空は、夜空の住人たちのものです」

「そうかい? でもね、ボクはキミたちの……」

「それは、分かっています。だから、今あなたがしていることをこれ以上、悔やんだりはしないことにしました」


 たしかに、とヒイラギさまはくちびるをつり上げた。ヤドリギ先生の顔は、この部屋に入ってきた時よりもずっと、スッキリとしていたのだ。


「だから僕は、これからも僕の思うように、新たな夜空を作ります」

「これからも、とは? キミは今まで、どんな思いで夜空を作ってきたと言うんだい」

「それをあなたに教える義務はありません」


 ハハ、と乾いた笑いをこぼす、ヒイラギさま。


「そう言うキミだから、至高の夜空を作れるんだろうねえ」


 ヒイラギさまの言葉を聞かずに、ヤドリギ先生はポインセチアをイスから立たせた。


「失礼します」

「ああ、またおいで。ボクの星のティーパーティーに」


 それにもヤドリギ先生は返事をせず、ポインセチアを連れて、ヒイラギさまの部屋を後にした。


 *


 ———それから、ヤドリギ先生は新しい夜空を作り出した。


 コンステレーション。

 地上の住民にも楽しめる、美しい、スパンコールとビジュー、とろけるようなパール、そして、星のエンブロイダリー。

 その中でも、ひときわ煌々と輝くのは、金色こんじきの丸い月。


 淡く優しい月光を浴びながら、ポインセチアは、思った。

 やはりヤドリギ先生の空がいちばんにきれいだ、と。

 散らばったビーズの上で、ポインセチアはいつまでも夜空をながめた。



 おわり

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星流夜 狐塚メゾン @kihiru

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