4 CANDLE

 お屋敷の最上階すべてが、ヒイラギさまの自室になっている。

 部屋を仕切る壁がなく、家具も最小限。真っ白な壁紙に、室内に漂う、黄金色のあたたかな風。

 済んだ空気に、大きな窓からよく見える、夜空。


 ここに、ヒイラギさまが来るんだ。ポインセチアは、ファーツリーにうながされながら、イスにすわり、ドキドキと緊張している胸をおさえた。


 部屋の真ん中に、清らかな白でいて洗練されたデザインのテーブルに、スイーツとティーセットが置かれている。

 秋空の夕焼けは、少し渋みがあって、大人向け。冬の霧は、ほんのり苦く、じゅわりと甘い蜜が口の中に広がる。

 春風は、クラフトマンにより緑青色に染め上げられ、夏のふわふわの入道雲にふりかけられている。

 ポインセチアは初めて見るようなステキなスイーツたちに、ジュルリとよだれをすすった。


 そばのキャビネットには、燭台が置かれ、キャンドルに火がともっていた。

 火なんて、この夜空では、めったに見ない。

 最後に見たのは、いつだっただろう。ポインセチアは、ほんのりとあたたかい小さな炎を、じっと見つめた。


 空気が澄んでいると、星たちの輝きはますますきれいになる。

 しかし、ヒイラギさまは、この部屋のどこにいるんだろう。隠れる場所なんてないのに、と、ポインセチアが、きょろきょろと辺りを見渡していると、トントンと、ヒイラギさまの部屋のドアがノックされた。

 ファーツリーが、ドアを開く。そこに立っていた人物に、ポインセチアは、目を丸くした。


「やあ、ポインセチア。早いね」

「ヤドリギ先生っ?」


 ビックリしているポインセチアの顔に、クスッと笑い出しながら、ヤドリギ先生はほほ笑んだ。


「僕も、呼んで頂いたんだ。ヒイラギさまに」

「ええっ? そうなんですか」

「うん。―――それで、ファーツリーさん。ヒイラギさまは……」


 ファーツリーが引いたイスに腰かけながら、ヤドリギ先生は言った。


「もう、お見えになりますよ。と、言うよりは、すでにここにおいでですが」

「え? どこに……」


 さっき、さんざん部屋のなかを見渡していなかったヒイラギさまが、ここにいるって? ファーツリーのその言葉にポインセチアが疑問を抱いていると、フッと、燭台のキャンドルの火が消えた。


 しかし、ポインセチアはそれを特に、何も思わないでいた。

 その時、ポンと誰かに肩を叩かれる。

 ヤドリギ先生も、ファーツリーも、ポインセチアの目の前にいる。

 それじゃあ、いったい、誰?


 答えは、一つだった。ゆっくりと、後ろをふり返る。


「よく来たね? ポインセチア。夜空の小さなクラフトマン」

「……あ、あああアナタが、ヒイラギさまっ?」


 燃えるような猩々緋の髪は、冷えた床を引きずってしまうほどに長い。細く切れ長の薔薇色の瞳は、笑うと月の満ち欠けのように蠱惑的な雰囲気をかもしだす。

 しかし、その仕草一つ一つが、やさしく、おおらかで、そして美しい。


 この人が、ヒイラギさま。ポインセチアは、目をそらすことなく、その薔薇色の瞳を見つめ続けていた。


「ふふふ。ポインセチア。ボクから目が離せなくなっちゃったみたいだね。かわいい、ツボミちゃん」

「ヒイラギさま。お戯れを」


 ヤドリギ先生が、ポインセチアの肩に手を置いた。その瞬間、ポインセチアはハッと我に返った。


「ヒイラギさまは、夜空の住人たちの育ての親だ、と言われているけれど、本当はそうじゃない。僕たちにとっては、それだけではない。もっと、特別な存在なんだ」


 ポカンと口を開けて混乱しているポインセチアの手を、ヤドリギ先生はやさしく握った。


「ポインセチア。お前はそれを知らないから、ヒイラギさまに心をうばわれる。まだこの場にいたいのなら、このまま僕の手を強く繋いでいるんだよ」

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