2 LETTER

 絹のレース糸が、指にからまりながら流れていくのをヤドリギ先生は、ボーっと眺めていた。


 ポインセチアはあの後、プリプリと怒りながら、屋敷の方へと帰っていた。


 ―――ガマンをして、作品を作り続けることが、先生の幸せなんですか?


 そう言ってポインセチアは、これまでに何度も、自分を気にかけてくれた。

 ”ガマンしながら、作品を作ることが、僕の幸せ”? そんなワケがない。

 星を作ったら、ポインセチアが喜んでくれるからだ。

 ただただ、それだけの理由で、今まで作り続けてきただけだ。


 ヒイラギさまは一体、何を考えているのだろう?

 

 ザバッと、しぶきを立てながら、ヤドリギ先生は川からあがった。

 アクセントに赤いラインがひかれた闇色のローブについた細かいレース糸をはらいながら、ヤドリギ先生はポインセチアのあとを追うように、屋敷へと戻った。


 *

 

 夜空の住人たちは、ヒイラギさまの広大なお屋敷に住んでいる。

 ヒイラギさまは、この夜空を作った、クラフトマンたち全員の先生で、育ての親なのだ。だから、ヒイラギさまの考えには、誰も文句を言うコトは出来ない。


 ポインセチアも、それは重々、わかっていた。しかし、ポインセチアが、”先生”と呼ぶのは、ヤドリギ先生だけだ。

 ヤドリギ先生の夜空だけが、大好きなのだ。

 この夜空は今まで、夜空の住人たちだけのものだった。

 なのにヒイラギさまは、どこの誰かもわからない人々に、ヤドリギ先生の作品を勝手に見せている。

 だから、どうしてもポインセチアは、ヒイラギさまが許せないのだ。


 夜空の住人ひとりひとりに与えられた個室で、ポインセチアはベッドに大の字で寝ころびながら、低い天蓋を見上げていた。

 天蓋の裏には、赤く燃え上がっている炎の星が大きく描かれている。それは、柔らかな枕の上に大きく花咲いたように広がり、投げ出された、ポインセチアの長い赤毛のようだった。


 しぼり出すようなため息をつきながら、ポインセチアは重そうにカラダを起こした。

 ココアでも作ろうかな、と思いながらベッドから下りたとき、コンコン、と部屋のドアがノックされた。


「ポインセチア。手紙だぞ」


 外から聞こえてきた、抑揚のないバリトンボイスに、ポインセチアはドアを開けた。

 そこには、バトラーのファーツリーが手紙を手に、いつものキレイな背すじで、いつもの無表情で、ポインセチアを見おろしていた。


「ファーツリー。ボクに手紙なんて、一体だれから?」

「ヒイラギさまから」

「ひ、ヒイラギさまっ?」


 ポインセチアはひどく驚いて、目をぱちくりさせた。


 なぜならポインセチアは、今まで一度も、ヒイラギさまの姿を見たことも、その声を聞いたことすらも、なかったのだから。

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