星流夜

狐塚メゾン

1 SEQUINS

 濃紺のビロードを広げた空に散らばる、きらきらのスパンコール。

 とろけるようなパール、ちかちかと光るビーズたち。


 ポインセチアは腰まである赤毛をゆらつかせながら、ふらふらと流れるミルク色の川を裸足で渡っていく。

 空を流れゆくヤドリギ先生の素晴らしい作品たちは、ゆらめく天蓋の最果てに消えていく。


 ポインセチアはそれを、悲しげに見つめていた。


「また……消えた。クリスタルのビジュー、ヤドリギ先生の傑作だったのに」


 くちびるを尖らせて、ポインセチアはしくしくと泣きながら、美しく流れる川に身を沈めた。

 絹のレース糸で編みこまれたヤドリギ先生の一流河川は、とても心地よい滑らかな手触りだ。それは暑い季節になると、いっそう輝きを放つ、虹色に輝くオーロラクリスタルの川となる。


「ヤドリギ先生は、作品たちに未練がなさすぎる」

「ああ、ポインセチア。どうしたんだい」


 どっぷりレース糸の川に浸かっているところへ、ヤドリギ先生がやってきた。

 ポインセチアよりも、ひときわ背の高いヤドリギ先生は、澄みきった緑青の瞳を細め、微笑んでいる。


「お気に入りの、夜色のワンピースが濡れてしまうよ」

「……いいんです。ボクは今、こうしたい気分なので」

「そうかい。それじゃあ僕も、あたたかな絹のレース糸に、浸かるとしようかな」


 すると、ヤドリギ先生はニコリと笑み、闇色のピンヒールを散らばったビーズの上に脱ぎ捨てると、つま先から川の中へ、ジャバジャバと入ってきた。

 ポインセチアは驚いて、目を白黒させ、慌てて川底から立ち上がった。


「や、ヤドリギ先生っ?」

「ポインセチア。今日はね、一万個も星たちを空に放したよ」


 今にも消えそうな、儚い、苦しそうな笑顔。ヤドリギ先生の、嘘の仮面。

 ポインセチアは、胸がきゅう、と締め付けられた。


「ヤドリギ先生っ。星を、星たちを、これ以上作りたくないなら、ヒイラギさまに言うべきです!」

「ああ……」

「先生が愛を込めて作った作品たちですよっ? 悔しくないんですか!」


 ポインセチアが叫ぶたびに、絹のレース糸が、バシャバシャと跳ねた。このままここで騒ぎ続けたら、大切なレース糸がちぎれてしまう。

 それでも、ポインセチアはヤドリギ先生から目をそらさなかった。

 これまでずっと、ヤドリギ先生が涙を流しながら、濃紺のビロードを彩り続けてきたのを知っているから。


「先生! このビロードの空は、ヤドリギ先生の魂が宿った、傑作です。……でも、ボクは知っています」


 ポインセチアは静かに、ヒイラギさまへの怒りをこぶしにこめた。


「ヒイラギさまが、ヤドリギ先生に隠れてコッソリと、ボクら以外にも、この星空を見せてるって」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます