やがて水曜日に繋がる物語

締章 文化祭にて

「まぁ、こうなるだろうと思ってたわ」



 文化祭当日、文芸部の部誌は午前中に完売した。一人一冊というルールを設けていたハズなのに、二度、三度と並ぶ輩は茜が校舎に連れて行くので、何が起きているのかはミーシャと満月は考えない事にした。

 部誌の売れ行きは素晴らしい記録だったが、ミーシャ、満月、茜が書いた小説を個別に冊子にした物は無料配布だと言うのに中々手にとってすらもらえない。

 夜遅くまで徹夜して、ライン通話で三人相談しながら読み合い、古書店『ふしぎのくに』なんかにも持って行って清書した自信作ではあったのだが……現実とはこんな物なのだ。素人の書いた小説を読みたがる稀有な読者は少ない。



「なんだか、少しだけ悔しいですね。頑張って書いたのに」



 部室に戻ってきた茜はその辺で売っていたであろう食べものを買って戻ってきた。そして第一声。



「文化祭ってさ。メイド喫茶とかなくね?」

「ありゃ漫画の話だ。リアルメイド」



 満月の言葉にピクりと反応した茜は満月の口の中にフランクフルトを突っ込んだ。苦しむ満月に茜はこう言う。



「ご主人様ぁ~ごく太の肉棒ですよぅ~! お前はそこで一人BLしとけよ」



 あははと笑うミーシャに茜はヤキソバを差し出す。それをお礼を言って受け取ると、いつも通り馬鹿な事をしている文芸部。

 実は部誌は四冊残していた。恐らく確実にの為に、ミーシャ達文芸部からすればその人たちの為に待っていると言っても過言ではなかった。

 そしてその一人目が登場する。



「こんにちわっす!」



 ミーシャ達に力を貸してくれた特別顧問と呼んでいる欄、傍らには小さくて偉そうな少女を連れている。部誌を渡すとお金は言いと言ったが欄は一万円を渡す。



「あっ、釣りはいらねーすから、あの孤児院自分もお世話になったので駄賃っすよ」



 なんて男前な事を言うので有難く頂戴する。ミーシャ達の冊子も全部一枚ずつ受け取ってくれる。欄と一緒にいる少女は三人の作品を「ド素人の小説なん」とまぁまぁディスるので茜と取っ組み合いの喧嘩になったり、文化祭後に打ち上げをする事を告げると文化祭を少し楽しむと二人は部室を後にした。あの凶暴な茜がゼェゼェと肩で息をして疲れる。ミーシャも初めてみたがアレが二人が言っていたゴスロリの先生。



「……凄い人でしたね」

「だろ? 頭のおかしさでウチの理穂子を上回っちまうんだからな」



 部室の隅で俯いて座り込んでいる茜。どれだけの体力を使ったのか、「おい水」というのでミーシャは自分の水筒はあるが、それは一人飲み用。それに躊躇しているミーシャに茜は言った。



「それでいいよこせ」



 ミーシャの水筒を飲み干すと、それをミーシャに返す。そして次の来客がこの文芸部に……。



「こんにちは」



 車椅子に乗った虚ろな瞳をした少女とその母親。その二人にミーシャはほほ笑んで見せた。彼女等は七季親子。けッと茜はつまらなさそうにして、満月はペコりと頭を下げて出迎えた。

 あれから、意識を取り戻したいずみだが、心を何処かに置いて来てしまったかのように、反応が乏しい。

 部誌を渡す。

 そしてミーシャはいずみと目が合うようにしゃがみ自分達の冊子を手渡した。

 それに七季いずみの母親はいずみに語りかけた。


「良かったわねいずみ」



 無反応なハズだった。そんな七季いずみが涙を流したのだ。



「……いずみさん?」



 驚くミーシャ。その状況に母親は慌てて病院に連絡、ミーシャ達へ簡単に頭を下げていずみを連れて母親は病院に戻った。



「奇跡……なのかな?」



 その一部始終を見ていたミーシャ達への代弁者。その姿を見て、普段表情が変わらない満月ですら嬉しそうにしていた。

 元、一欄台学園文芸部。棚田クリスが来てくれた。幼い少女と手を繋いでいる。クリスによく似ている事から妹なんだろう。



「クリス、よく来てくれた。嬉しいよ」



 満月がそう言うと、またしても茜がつまらなさそうにする。今回は照れ隠し。そんな茜の背中を満月が軽く押す。



「……っとと! さじ、何しやがんだっ!」



 わめく茜だが、その眼前にはほほ笑むクリス。その姿を見て俯くとこう言った。



「よぉ、元気してたか?」

「うん、少し見ない内に茜ちゃんもまた綺麗になったね?」

「……てめぇ! そのちっこいのは妹か?」



 ジロりと茜がクリスにそっくりな少女を見ると、少女は不機嫌そうにスカートの端を持って茜達に自己紹介した。



「アリアです。クリスお兄様の妹よ」

「姉ちゃんといい、似すぎだろ。お前ら一族は人形か何かか?」



 茜の発言に不快感を全力で露わにするアリアに対してクリスは楽しそうにアハハと笑う。そんなクリスにも部誌と、恐れ多いが三人の冊子を渡した。



「うわー! 皆の作品かい? 嬉しいな、アリア、読んでごらん面白いよ」



 クリスはそう言って妹に茜の冊子を渡した。それを業務的に読むアリア、その表情が少し緩んだのを見て茜は誇らしげにこう言った。



「クリス、今日時間あんだろ? というか作れ、今日の文化祭が終わったら打ち上げするから絶対来い。じゃないと勝手に消えた事ゆるさねーからな」



 クリスは嬉しそうに頭を下げて「ごめんなさい。是非参加させてもらうよ」なんて言ってしまう。ミーシャと満月の作品も大事そうに扱ってくれるので、なんともこそばゆい。



「僕、学園祭って初めてなんだ。アリアにも中々寂しい思いをさせてしまっているから、少し兄妹みずいらずで楽しませてもらうよ。じゃあまた後でね」



 茜に向けてウィンクなんかしてしまうところがキザなんだが、ただただカッコいいなとミーシャは思う。男であるミーシャが憧れてしまうのだ、女子の茜は……いわずもがなだった。



「ふぅ、なんか俺達の部凄いな。あとは、古書店『ふしぎのくに』の店主を待つだけか」



 残り一冊、最後の部誌。

 それを渡す相手を待っていると、ミーシャ達が想像していなかった……否、可能性は考えていた人物がやってきた。



「よぉ、学園祭。楽しんでるか?」



 三人の表情が一瞬にして凍り付く。あたりまえのように、文芸部部室に、その元顧問がやってきたのだ。その手にはジュースや食べ物、差し入れなんかを持ってきていた。

 一見、顧問と部員の仲睦まじい光景。笑顔を浮かべる元顧問に対して、茜は血管をこめかみに浮かべながら牙みたいな八重歯を見せて言う。



「何しに来やがった?」



 一瞬にして、茜はキレる寸前、それを止めるのはいつも通り満月。



「桐ヶ谷? いや結細、それとも怪人二十面相?」

「桐ヶ谷でいい」

「じゃあ桐ヶ谷、これ。本来ならお前にあげる物じゃないけど、持って行け」



 そう言って部誌と各々の冊子を渡す。本来は文芸部として一番お世話になった人に渡すハズだったそれを満月が桐ヶ谷に渡したものだから茜は瞳孔を開く。ミーシャは今にもとびかかりそうな茜の前に立って桐ヶ谷と見つめ合う。

 桐ヶ谷は受け取った物を鞄に入れると、振り返る。そして背を向けた状態でこう言った。



「さらばだ少年探偵団、動画でも言ったが機会があればまた勝負しよう」



 唖然とした。桐ヶ谷は台風のように現れて、そして去って行った。ここにいる三人共もう勘弁だと思ったその時、本来待っていた人が部室に入室する。手には手作りだろうか? ケーキなんかを持っている。



「ふふふのふ、遅れちゃいましたよぅ」



 なんて言いながら部誌を楽しみにしているのが、目に見えて分かる。さて、どうしたものかと思った時、茜と満月がミーシャの後ろに立つ。それにミーシャは覚悟してこう言った。



「すみません、色々あって部誌、全部なくなっちゃいました」



 目の前の女性が見る見る内に元気が無くなっていく様にどうすればいいだろうとミーシャは後ろを見るが、既にそこには満月も茜の姿もなかった。



「そんな……酷い!」



 ミーシャはジャスチャーをしながら、最後の来客に部誌の中身を説明する。

 その説明を食い入るように聞く彼女の為に高校最初の学園祭を潰してもいいかと暮れ行く空を見ながらミーシャは大げさに語った。


 これは彼らの水曜日へと続く物語、そんな瞬きをするような彼らが可視化した物語。

 読者諸君、あえて言おう。


 これにて、『文芸部と小熊のミーシャ』眩しい光と共に第一幕の幕を下ろそう。

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文芸部と小熊のミーシャ 一欄台学園文芸部 @sesyato

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