最終章 文芸部と小熊のミーシャ 完結編

序章 忘れじの山脈

 精神に異常をきたした結細一成は警察病院に送られるが、監視が目を離した数分の間に姿を消した。

 彼の病室には『不幸貯金-99999999……』と書かれた紙が残されていた。今回の事件に深く関わっていた結細一成の父親が立ち上げたカルト教団にも捜索が入り、その関係者。

 結細一成の協力者も全て検挙された。


 一円のお金も、一人の協力者もいない結細一成が何か大きな事を起こせるとは思われいなかったが、彼の異常性から緊急捜査網が引かれた。

 捜査本部を任された刑事は、ミーシャを警察のパトカーにいながらも拉致されるという失態を犯した下林。

 まさか自分がこんな事になるとは思わなかったが、それはどうも重工棚田の圧力があったのではないかとそう下林は考えていた。



「俺が適任という事は、あの高校生が危ないって事だろ? 大熊ミハイルの近辺を捜索。彼自身にボディガードをつけてもいい。すぐに動け!」



 下林に報告が入ると頭を抱えそうになった



「なんでこのタイミングで大熊ミハイルは自分が遭難した山に登ろうとしてんだよ! なんなんだコイツら青春か?」



 下林も結細一成逮捕までの話をリアルに動画で見て驚いた。重工棚田の御曹司、棚田クリスの指示の下とはいえ、ただの高校生が四年前の事件から今回の猟奇的な事件までを繋げて解決させてみせた。

 理由は後輩を守る為。

 下林も子供の頃に江戸川乱歩の少年探偵団シリーズは読んできた。明智小五郎を棚田クリス、警察でも今回の件で危険人物としてマークする事になった。満月さじと元々危険人物である茜ヶ埼理穂子を少年探偵団。

 そして、大熊ミーシャ。彼は小林少年という立ち位置。

 そして結細一成は自らの江戸川乱歩が生み出した世紀の大怪盗。国産アルセーヌルパン、怪人二十面相として勝負を……



「まさか、奴は怪人二十面相として最後まで演じるつもりか?」



 怪人二十面相は変装の名人。そして脱獄の名人として画かれる。実際、物語のキャラクターである為、あんな超人がいたら警察組織もお手上げなのだが……

 恐ろしきは実在の人間。

 特に結細一成のような人間は何をしでかすか全く分からない。いつだって人間に牙を剥くのは人その物の狂気であり、特殊な力ではない。

 下林の嫌な予感。それは恐らく的中する。

 昔、自分をしごいてくれた先輩、あらゆる事件を追い込み、そして必ず勝利してきた敏腕の刑事。あの男に自分も少しは近づいてきたのかと少し嬉しくなる。



「東北警察に連絡。恐らく結細一成は少年Aが遭難したあの山に向かっている。確保すべきは大熊ミハイル、満月さじ、茜ヶ埼理穂子三名。もし、彼らに危害が及ぶようであれば、発砲の許可を出す。怪人二十面相対策本部。あの地を彼奴の最期に地にする! 俺も出るぞ」



 残念ながら結細一成の目的は分からない。それは単純な復讐の為にミーシャを殺しに行こうとしているのか?

 それとも、自分を追い詰めて逮捕までに持って行けたあの一欄台学園文芸部達全てに対するものなのか、いずれにしても三人が危ない。

 そんな事を知らずに、文芸部の三人は寒い中、ソフトクリームなんかを食べている。ミーシャと満月は両手に持ってそれを食べる茜に苦笑しながら、登山用の恰好をして、楽しそうに笑っている。

 二度と登山なんて行わないと思っていたミーシャだった。同じ登山部の友人、先輩、そして顧問の先生が野生動物の餌になり。

 ミーシャが奇跡の生還をしたあの山に再び上る。

 標高1400メートル程のそこがミーシャにとってはトラウマの化身にも見えた。それでもミーシャはこう決意した。



「全部、今日で終わらせたいと思います」

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