少年探偵団と明智小五郎

回答話 小林少年、ミーシャのターン

 あの後、凄まじい参加者、また録画していた物が拡散され結細一成の一連の犯行は日本全国に知れ渡る。

 警察が突入した時、完全に伸びている結細一成と肩を負傷した満月、そして両手を骨折している茜。彼らも病院に連れていかれ、ミーシャも詳しい話を聞く為、警察署へと連れていかれる事になった。

 結細一成はタンカに乗せられた時に意識を取り戻した。そして自分がどうなったのかを知り、ミーシャを見る。



「もっと大熊、お前に絶望を見せてやりたかった」



 そう言う結細一成に対して、ミーシャは怒るわけでも蔑むわけでもなく。ただただ悲しい表情を見せた。



「桐ヶ谷先生、僕はもう四年前に十分絶望しましたよ。それに僕は先生を生涯許す事は出来ないと思います」



 ミーシャの言葉に結細一成は嬉しそうな顔を浮かべた。それは狂気的なもの、自分の思い通りだとそんな余裕の表情。



「でも、僕は桐ヶ谷先生のクラスでの振る舞い、生徒を想う姿に関しては感謝してます。貴方のおかげで僕は高校生活を楽しめたのも事実です」



 そんな先生を振る舞っていただけかもしれない。されど、どの生徒に対しても結細一成が演じた桐ヶ谷貫という教師は寄り添い、愛された教師だった。



「それはお前たちを騙す為だ」

「だとしてもです。先生は自分が狂気的な、サイコパスでありたいとそう願っていたんでしょ? でも実のところそうじゃない」



 小説家、イラストレーター、これらのアマチュアでよく陥りやすいタイプがいる。自分は他と違う異常な精神構造を持っているのではないか?

 そして、自分の作品への異常なまでの承認欲求。ミーシャは気づいた。彼は結細一成という人物はそれを体現したような人間であるという事。

 それ故、自分の話をよく聞き、そして言ってほしい事を言う満月に対して饒舌に語ったのだろう。そんなところはミーシャも作家の端くれであるから重々に理解できた。

 心のどこかで分かっていたが認めたくない事をつかれ結細一成は担架の上で暴れる。



「違う! 俺はぁ! 俺は、至高の……」



 再び起こす癇癪、なんと言えばいいのかミーシャが閉口していたところ、その場にいた人々の動きが止まる。



「やぁ、ミハイル君。そして、姉がお世話になりました。結細一成さん」



 キラキラと輝いているような女性以上に美しい男性。棚田クリス。思えば、この結細一成を追い詰めたのには全てこのクリスが裏で動いていたからなのだろう。



「クリスさん!」

「僕も当事者としてこうして出てこないとフェアじゃないだろう? そしてこの男は屁理屈と癇癪を起す。だから、同じ側の人間がいた方が話は早い。違うかい?」



 クリスは自分を結細一成と同じ側の人間だと言った。その意味は分からなかったが、クリスが暴れる結細一成のところまで行くとこう言った。



「知ってるかい? 君がミハイル君を恨むのはお門違いだって事を教えてあげに来たんだ。江戸川乱歩ファンの姉を持つ。この僕が直々にね」



 目を血走り、口からは泡を吹きながら乱心する結細一成は江戸川乱歩という名前を聞いて少し大人しくなる。



「なぁにがぁだぁあ!」



 何がだ? それにクリスはクスりと色っぽく笑う。



「君が行ったのは作品だろ? わざわざ人を殺して首を切って小説の真似事だ。片や、ミハイル君は偶然、そうなってしまった。分かるかな? 事実は小説より奇なり」



 固まる。何かを察した結細一成。

 それに対してクリスは実に見下したような嫌な笑みを浮かべるとこういった。



「怪人二十面相は絶対に人を殺さない。かたや君は桐ヶ谷貫を、そして僕の姉さんを殺した事で怪人二十面相である事をやめた」

「やめろ! やめろぉ!」



 今まで結細一成が絶対にしなかった絶望的な表情。あの人間椅子がもう無い事を知った時でもこんな顔はしなかった。



「七季いずみ、そしてミハイル君に牙をむいた事で、君は案外天職だった教師である事もやめた」

「やめてくれ! やめてくれぇ!」



 もうクリスの言葉だけで死んでしまいそうな結細一成に警察達も止めようとしたが、クリスは手を前に出して制止する。



「ミハイル君。いや、小林少年。トドメを刺してあげろ。江戸川乱歩の名言、知ってるだろ?」



 江戸川乱歩以外もあるところに到達した作家達がごくまれに口にするあの台詞。

 ミーシャはすぅと息を吸うとこういった。



現世は夢、夜の夢こそまことあなたは自分で自分を否定した



 現実の方が夢、まさに奇妙な事。創作物の方が透明性が高い誠。この考えから逸脱したのが結細一成の一連の行動。

 それは、心の支えたる江戸川乱歩への裏切り。

 それを理解してしまった結細一成は痙攣して気絶した。



「ミハイル君。悲しい物だね。好きすぎて、自分の夢や心の支えまで失う事になるんだ。そして、君も自分の中の真実を語ってみたらどうかな? 信用における先輩が二人いるんだろ?」



 クリスは東北行の切符を三枚ミーシャに渡すと投げキッス。



「チャオ! 明智探偵ボクは忙しいので、これにて失礼させてもらうよ」



 ミーシャはクリスに言われた事。自分がずっと真実を伝えても誰も信じてくれなかった事。

 心に鍵をかけていたあの事を二人に打ち解ける事を決意した。

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