最終話 妖怪乱歩狂いと逆転のツイキャス

「桐ヶ谷先生ぇ」

「うるさぁい!」



 ミーシャにも銃を向けて怒鳴る桐ヶ谷。それは所謂化けの皮が剥がれたという事なんだろう。もうそこにはミーシャの知っている桐ヶ谷の姿は無かった。

 コイツは怪人二十面相なのだと強くミーシャの脳裏に刻まれる。そしてそんな事より、今は満月の手当て。



「動くなぁ! スマートフォンをこっちになげろぉ!」



 満月に銃口を向けて言う。それに満月はスマートフォンを桐ヶ谷の足元に投げた。

 バン!

 桐ヶ谷は持っている銃でそれを破壊。次はミーシャに銃を向ける。



「大熊、お前もだ!」



 ミーシャは固まって動けないでいると満月が叫んだ。



「ミーシャ、言う通りにしろ!」



 ミーシャはそれで我に返り、自分のスマートフォンも桐ヶ谷の足元に投げた。そして当然銃で破壊するのかと思いきや。それを拾う。



「よし、警察から脱走。そして先輩を殺す。人食い熊にはいい功績じゃないか、そして警察が来た時には自殺」



 この言葉で一連の濡れ衣はこの桐ヶ谷の行為である事がミーシャでも分かる。そして、何故なのか?

 ミーシャと桐ヶ谷、もとい結細一成に接点はない。ミーシャが人食いの食人鬼だと本気で思っての愉快犯だったのか?

 どうしてもそれが知りたかった。

 そしてそれを代弁するのは満月。



「おい怪人二十面相。お前、この醜悪な計画。いつから経ててたんだ。さすがにミーシャに対して粘着すぎるだろ。教えてくれよ文芸部の偉大な先輩としてさ」



 そんな言葉が通じるとは思えなかったが、桐ヶ谷はニヤリと笑って話し出した。



「いいだろう。死にゆく後輩への冥土の土産だ」

「それは、ありがとう。激辛オムライスとかはやめてくれな」



 ミーシャと満月にしか知りえない冗談を入れる満月に桐ヶ谷は何を言っているんだコイツという顔をして話し出した。



「俺は江戸川乱歩が大好きだ。愛してさえいる。そして、あの強烈なキャラクター。怪人二十面相。人を惑わし、騙し、それでいて紳士な犯罪者。今尚、霞む事はないあの異常性、実際の事件にも名前を使われる程の印象。俺は、江戸川乱歩の作品になりたかった」



 ミーシャの正直な気持ち。


”何言ってんだコイツ”


 それを代弁するように満月は肩をハンカチで抑えながら涼しい顔でいつも通り、文芸部の部活のように返した。



「ほう、全然分からんが続けろ」



 この態度に桐ヶ谷はイラつく事もなく饒舌に話を続けた。今、まさかの部活が始まっているのである。桐ヶ谷もとい結細一成というOBによる作品構想。

 それを聞くのはWeb小説世代のミーシャと文芸部部長の満月。



「俺は、誰かになれないかとずっと思っていた。俺の親父はある詐欺宗教団体の教祖だったから俺はいくらでも金は使えたし、兵隊だっていた。なんだってできた。だけど、俺を教祖の後釜にとつまらない事を言い出したんだ。俺の方が、詐欺師としての才能があったんだ。七季いずみを見てたら分かるだろ? まんまと、不幸貯金通帳なんて馬鹿な物に陶酔してた」



 グラグラとマグマのようにミーシャの中の怒りがこみ上げる。それは今まで覚えた事のない憤怒。満月が「ミーシャ」と一言律する。



「続けろ桐ヶ谷」



 そして満月の進行。満月はミーシャではなく桐ヶ谷を優先した事に桐ヶ谷は満足して続けた。



「俺は考えたよ。親父を失脚させる方法。そして、俺が教祖にならなくていい方法。そんな折、馬鹿な入信者が現れた。俺と背丈がそっくりな桐ヶ谷貫だ。あいつにはあらゆる良い目を見せて洗脳した。最後に自分の身体と顔と人生を奪われるとも知らずにな」



 船に乗せられた生首はこの結細一成ではなく、本当の桐ヶ谷貫のものだった。それをしっかりと調べる事もなく、その宗教団体は結細一成として埋葬してしまう。

 首から下の遺体が見つからずに……そして桐ヶ谷は冷凍庫を指さした。



「あれあれ、あれに入れて身体の方はずーっと保管してたんだ。人間の缶詰でも作ろうかと思ってたんだけど、大熊ミハイル。お前が自分の事を知らない人がいる地で高校に入ろうとしているのを知った。お前のせいで俺のあの一世一代の大仕掛けは感心されなくなったんだ。たかだか人間を喰って生き延びただけのお前になっ! だから、信者を使ってお前を社会的に処刑する為にこの一欄台学園に入学できるように図らってやった。ありがたく思えよ?」



 ミーシャは考えが追い付かない中でまとめた。自分がこんな目に遭っている理由。それはとんでもない大きな”とばっちり”メディアの関心がどちらに向くかなんてミーシャの知った事ではない。ミーシャ達の遭難事件のせいで結細一成の犯行は世間に関心されなくなった……その事への逆恨み。



「そんな事で? そんな事で僕を? そして七季さんを? 横山さんも、お前は!」



 激情するミーシャに桐ヶ谷は睨みつける。



「そんな事じゃない。偶然に芸術が敗れるなんてあってはならないんだ。七季いずみは大熊、お前に揺さぶりをかけるただのジャブだよ。まぁよく動いてくれた。死ななかったのだけは誤算だったけどな。横山英雄は俺の親父を殺してしまった。だから裁いた。警察にも刑務所にも俺の宗教のシンパは沢山いるんでな」



 桐ヶ谷もとい結細一成は、ミステリー小説のような事件を起こし世間を騒がしたかった。そして実際に殺害されたと思われる一成は生きて別の人生を送っている。世間が震えあがる様をほくそ笑み、そして次なる犯行が目的。

 だが、同時期に起きたミーシャ達の遭難事件に全て注目を持っていかれた事でその計画は頓挫。そしてミーシャへの嫉妬。犯行理由はただそれだけ……



「狂ってやがるな。じゃあもう一つ。棚田マリアをぶち殺して人間椅子にした理由は?」



 一瞬、桐ヶ谷が怒りの表情を見せた。それはもうその人間椅子は存在しえないから、だが桐ヶ谷にとってもそれは中々自慢したい所業の一つだったようで銃を降ろす。



「あの人は、みんなの憧れだった。俺みたいなこんな狂った人間の作品だって褒めてくれて、心から楽しんでくれた。あの人は自分の運命に対して悩んでいた。重工棚田という枷、それは宗教団体の家に生まれた俺にはよく分かった。彼女は、何処か自分の事を知らない遠くの世界に行きたいとそう呟いていた。だから、俺はあの人を痛みも苦しみもないところに送ってさしあげた」



 成程と満月はここは何故か納得した。そこでさらに質問。



「なんで人間椅子なんだ?」

「あの人もあの作品が好きだった」



 そこだけはなんだか、後悔の念を感じるような物言いだったが、そんな事はお構いなしに満月はさらに質問する。



「結細じゃなくて怪人二十面相。お前、俺達と部活してたらそこそこ楽しかったかもな。嫌いじゃないぜ? お前みたいな奴。お前、多分感性が早すぎたんだよ」



 桐ヶ谷は怒りでも嘲笑でもなく、満月の言葉に虚を突かれた顔を見せる。一体満月は何を言っているのか?



「あー、分からない? お前が生徒にそこそこ人気がある理由。多分、俺達と感性が近いんだよ。俺達の世代じゃ厨二病なんて当然存在するし、俺も茜も、なんならミーシャだって発症してる。でも、お前の時代では一般的じゃなかった。だからお前は異端者扱いされたんだろうよ。最後に教えてくれよ。お前が本当の桐ヶ谷を殺したのは、『魔術師』だ。多分だけど、あのキャンプでチョウセンアサガオの根を置いたのもお前だろ? 大人や俺達なら中毒で済んだかもしれないけど、子供が誤食すると、もしかすると死んでた。俺達の豚汁食ってたから結果平気だったんだけどな? これは『毒草』だ。埋蔵金騒動は『大金塊』。そして、クリスの姉ちゃんは『人間椅子』。どうしても分からないのが七季いずみだ。あれはお前のオリジナルか?」



 偶然もあったのかもしれないが、桐ヶ谷の犯行は全て江戸川乱歩に被せたものであると満月はそう主張する。

 ミーシャはあのキャンプですら桐ヶ谷が関わっていたと思うと、この男の周到性と粘着性、そして固執性にはある種の美学すら感じていた。

 桐ヶ谷は何処か満月を愛しむような表情をしている。恐らく自分の作品への理解者とそう考えているのかもしれない。



「『盲獣』」



 それが桐ヶ谷の答え。それに少しだけ満月が固まる。恐らく読んだ事がないのだろう。それに横から割ったのがミーシャ。



「目の見えない芸術家が、女性を独自の美術論で殺害していく作品です。あの作品と七季さんが同じわけがない!」



 ミーシャは好きだった女の子を瀕死の重傷に招いたこの桐ヶ谷に対して怒りを爆発させる瞬間。さらに桐ヶ谷は自分の感性に合わないミーシャに怒りを表す。

 そして、そこをまた持つのが満月だった。



「あー成程、独自の宗教論を植え付けて自傷行為を繰り返させる。最後は自らを殺害。犯人も被害者も同一人物。面白い事を考えたな。こういう事か?」



 満月の独自の見解に対して桐ヶ谷はぶんぶんと首を振る。それは本当に正しかったかは不明だが、この反応。

 ミーシャは知っていた。

 この桐ヶ谷、いや結細一成はどうしょうもないくらい精神年齢が幼い。それをどういってやればいいかミーシャが困っていた時、校内放送が流れる。



『あーあー、テステス! リスナーの皆さん、以上が一欄台学園における全ての事件の真相でしたぁ! まさかあの桐ヶ谷が、実はぶっ殺されてて入れ替わってたなんて驚きダヨネー! 一時間半にも及ぶ理穂子ちゃんのツイキャスライブに付き合ってくれてアリガトウ! もう一枠取ってるので、良ければそれも付き合ってネ! 次回、勧善懲悪。理穂子ちゃんの鉄拳が悪を打ちのめす。お楽しみに~!』



 紛れもなく茜の声。

 それに桐ヶ谷は我に返ると言う。



「何だ今のは?」

「ツイキャス知らないの? 誰でもツイッターをしてたら生放送できちゃうアレ。で、お前は俺に手を叩かれた時につけられた重工棚田産の盗聴器つけてベラベラ事件の真相語りまくった。それを理穂子の奴が視聴覚室で拡散希望つけて炎上必死の放送してたわけ、ゲームオーバーだ怪人二十面相」



 満月の言葉にわなわなと震える桐ヶ谷。桐ヶ谷が癇癪を起す前にだだだだだと走ってくる足音。

 ガシャン!

 扉を力強く開けたそこには一欄台学園のダサいジャージに身を包んだ茜の姿。髪の毛をサイドポニーに動きやすい恰好なんだろう。

 きょろきょろと周りを見る。満月の怪我、怒りに打ちひしがれて涙まで流しているミーシャ。

 それに茜は静かにこう言った。


「おい、桐ヶ谷。やってくれたな?」

「なぁにがだぁ!」



 茜に銃を向ける桐ヶ谷。それに茜は全く怯まず、恐れもしない。



「なぁ、ミーシャ。さじ。何発殴ってほしい?」



 この状況で茜はそう言った。桐ヶ谷は訳も分からない。それに満月が言う。



「俺に弾をくれた分。あと、ミーシャを傷つけた分。二発」

「おーけー! ミーシャは?」



 この状況でミーシャは本当に安心した。二人がいる。暴力に出る事は不本意だったが、この男だけは許せない。



「七季さんの分。一発」

「はーい、ご主人様ぁ~」



 ウィンクなんかする茜は最後にこう言った。



「クリスの姉ちゃん、殺した分。ガキ共に毒草食わそうとした分。横山のオッサンに変なもん食わせた分。さじとミーシャをイジメてくれた分。あと、アタシを怒らせた分。計十発だぁ!」



 茜が詰め寄る。



「うるさぁい。死ね! 死ねぇ!」



 バンバンと引き金を引くが身を低くした茜にそれは当たらない。茜のパンチが桐ヶ谷の顔面を撃ち抜く。銃を手放し、盛大にぶっ倒れた桐ヶ谷に茜はマウントポジションを取る。

 そしてペロりと舌を出して言った。



「センセ、地獄行けや!」



 茜の目は獣のようで、反撃はおろか、身動きすらできないまま桐ヶ谷は殴られ続け、そして目の色を変えた茜が振りかぶった手を満月が止める。



「それ、十一発目だ。やめろ理穂子」



 そう言われて茜は立ち上がる。手が紫色に変色しているのは、殴った茜の手もまた骨折しているからだろう。茜は冷静さを取り戻すと言った。



「あっ! ツイキャスライブ配信するの忘れてた」

「あぁ、多分過剰防衛の証拠になるから、配信忘れててよかったんじゃね」



 二人ははははと笑う。そしてミーシャを見ると満月は笑った。



「こんなところでオケ?」



 全ては部員のミーシャを守る為、こんな危険を冒してくれた二人。それにミーシャはわんわんと泣いた。

 それを見て茜、そして満月が顔を見合せるとミーシャを抱きしめる。

 長い長い、悪夢が終わろうとしていた。

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