第三話 呪い、大人を狂わせ

 翌日は十時半に起きた三人。この日のキャンプは木材を使って本棚とかを作ったり、何やら鬼ごっこ的な事をしていた。



「うん、昼飯まで二度寝しようぜ」



 茜の提案にミーシャは苦笑する。彼女は基本的に団体行動的な物が出来ない。さらにガキっぽい事に対する異常なまでのアレルギーをもっていた。



「このキャンプ寝てばっかりじゃないですか、資料探しに写真とか取りに行きませんか? なんか今の僕らって冒険してる感じじゃないですか」



 満月はデジタル一眼レフを取り出してそれを拭く。これでも乗ってこないかなとミーシャは思っていたが、茜はハーフパンツにキャップ。それにトレンチコートを羽織り動きやすい恰好になると、それはそれは眩しい笑顔を見せた。



「しかたねぇーなぁ! 理穂子さんが付き合ってやんよ!」



 という事で三人でお昼ご飯まで周囲の探索、何か面白い物を見つけると写真撮影等をして楽しんだ。

 キャンプファイアー等で使う薪なのか、長めの棒を見つけた満月。それを拾うとぶんぶんと振るった。

 それを見た茜が目を瞑って呟く。



「まさか、その剣を抜く者が現れるとはな……これも時代か」



 何やら小話が始まったかと思うと満月はその棒をミーシャに向ける。



「いくぞ魔王!」

「ま、魔王?」



 思いっきり振りかぶる満月にミーシャは全力で逃げる。そんな二人を見て茜は「殺せ!」「殺せ!」

 と煽り立てる。家族で来ている親はそんな茜の汚い煽りに難色を示しているが、茜は気にする様子もない。



「成敗!」



 そう言って満月がミーシャの尻を棒で叩く。それにミーシャは痛がり、満月は飽きて薪を捨てる。



「ミーシャ、やられる時は、我を倒しても第二第三の……とか言ってやられなくちゃダメじゃないか」



 よくある悪者の倒され方、あれをやれと言うのである。それに笑いながらミーシャは芝生に寝っ転がる。



「なんか気持ちいですねぇ! 外で遊ぶのも」

「まぁ普段はパソコンに向かって小説を書くという不健康極まりない部活動をしているからな、たまには日光を浴びて適度な運動をしないと老いるぞ」



 そんな年寄りじみた事を言う満月だが、何か気になる物があったら写真に納めていく。薪の販売や道具のレンタルをしている売店のすぐ横で野菜の直売所を見つける。



「おい、ミーシャ! 理穂子見てみろ! 凄い安いぞ!」



 二人を呼んでみたその直売所は、恐らく路地物の野菜の中で、売り物にならない物が並んでいるのだろう。どれも形は悪いが、大きく美味しそう。



「よし、買って食べよう!」



 そう言って満月は財布から千円札を出す。一つ百円と書いてあるので十個トマトやサツマイモ等を買う。



「さじ、これ古書店『ふしぎのくに』の店長にお土産にしよう! あの人の好物のシルクスイートだ」



 三人がよく通い、書いた小説を見てもらう人種不明の店長。彼女は甘いお菓子や食べ物が大好きで、このお菓子のような食感のシルクスイートにも目がない。あるだけひょいひょいと茜は置いてあるビニール袋にシルクスイートを入れると五百円玉を放り込んだ。



「ししし、これ後で焼いて食ってみよう」



 さじはトマトを齧る。茜とミーシャにもトマトを配ると三人で齧りながらキャンプ場へと戻ると子供達が集まって来る。



「げっ、ガキは苦手だ」



 そう言って茜はさじとミーシャの後ろに隠れる。美味しそうに生野菜を食べている三人を見て子供達はミーシャ、満月、茜とみてミーシャに話しかけた。



「お姉ちゃん、トマト美味しいの?」

「えっと、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんね! トマト美味しいよ!」



 そう言うと指を咥えているので満月は別のトマトを取り出すとナイフで等分して子供達に配る。

 子供達はそれぞれ食べて、「おいしい」「おいしいね」と言い合う。そんな中一人の少女はトマトが苦手なのか口に入れる事を躊躇していた。

 それを見たミーシャは食べれないなら無理して食べなくていいよと言おうとした時、茜が自分のトマトをむしゃむしゃと食べ終わる。



「マジうめぇなこれ。それいらないなら貰うぜ」



 なんて男前な事を言うが、そんなに美味しいならと少女はトマトを恐る恐る食べる。その糖度や今まで食わず嫌いだったトマトを食べて表情を緩ませる。



「……甘くておいしい」



 そんな少女の頭を茜はぽんぽんと撫でる。子供達に懐かれてしまった三人はお昼ご飯を作る時ですらミーシャ達の周りにいた。

 炊事場に食材を取りに行く。



「お昼ご飯は豚汁です!」



 豚肉、味噌、人参、大根、ゴボウと一般的な豚汁の材料が配られる。子供達はミーシャ等文芸部と一緒にご飯を食べると言ってきかない為、子供達の両親は子供達の分の材料を満月に渡す。



「本当に、お友達でキャンプを楽しみにきてるのにごめんなさいね」

「いえ、子供と触れ合う事もまた文芸部として刺激になりますから」



 見た目の怖さに対して満月の大人に対する対応もまた手際が良かった。ミーシャと満月は料理が出来るので、子供達に危なくないように手伝ってもらう。

 そんな中腑に落ちない顔をしているのは茜。



「なんで、私は火の番なんだよ部長さんよぉ?」

「いや、お前料理とかできない人でしょうが……ちょっと! 理穂子サマ、お前ゴボウ燃やしてんじゃないか!」

「あ? あぁ、これな」



 豚汁にいれるハズのゴボウを全て薪と共に消し炭にした。それに満月がわなわなと怒る。それを見た茜は喧嘩好きの顔をして立ち上がる。

 子供達の前で醜い喧嘩を見せるわけにはいかないとミーシャは両者を立てた。



「満月先輩。ゴボウは味がきついので子供達には不評かもしれません。茜先輩、満月先輩は子供達にとっても美味しい豚汁食べてもらいたかったんですよ! ですから気持ちを汲んでください!」



 ミーシャの気の遣い方が分からなくもない満月と茜は、にらみ合いながら額をおしつけあってこう言った。



「わぁ、理穂子たんアリガトウ! 理穂子たんのおかげで子供達が苦いゴボウ喰わなくてすんじったよぉ!」

「どういたしましてさじ坊ぉよぅ! せっかくてめぇーの、クソうまい豚汁を食べれるハズだったのにぃなぁ、燃やしちまってごめんちゃいよぉう?」

「いやいやいや!」

「おうおうおうおう!」



 二人が再び一触即発の状態でそれを止めたのは他でもない子供達だった。



「さじと、りほこがチューしてる!」



 確かに見ようによっては顔を近づけてそう見えなくも……ない?



「ちげーよ! じゃり共ぉ! 私がさじの事好きなわけないだろうが馬鹿たれぇ!」

「そうだぞ! 俺は好きな女の子が別にいるからな」



 眼鏡を直しながらそう言い訳をする満月。子供達はひゅーひゅーと煽り立て、抑えきれない茜は子供達を追いかけまわしていた。

 それを微笑ましく見ている子供達の親達、それと主催者の大学生達も楽しそうにしていた。そんな大学生の中の男の一人が、茜の元へと走っていく。



「おい、ミーシャ見てみろ! なんかちゃらっちゃらした奴が茜に絡んでるぞ! なんかあれはもしかしてナンパか? ナンパなのか?」



 楽しそうにそう言う満月。本当に女の子として茜を見ていない事にミーシャは正直な意見を言ってみた。



「満月先輩」

「ん?」

「茜先輩って学校ってなんて言われてるか知ってますか?」

「いや知らん、個人軍隊とかか?」

「残念な美少女って言われてるんですよ」



 茜は実は中々に美人である。プロポーションも悪くない。ただしあまりにも凶暴故、身だしなみに気を遣わない為、ミーシャと満月と以外話す事がない。

 さらには一年前の暴力事件と十分、クラスで村八分を受ける環境を作っていた。



「へぇ、あいつが美少女とかウチの学校の奴ら目腐ってんじゃねーか……おい殴ったぞ! ほんとあの女頭イカれてんな!」



 子供達とじゃれあっている茜にしつこく言い寄ったであろうと大学生の男に右ストレートを叩きこんだ。

 至って普通の事すぎて満月もミーシャもやっちまったという事しか思いつかなかった。子供達は茜をヒーロー扱いし、豚汁とごはんという素朴な昼食を楽しんだ。

 満月の作った豚汁はとっても美味く、皆おかわりを繰り返して、売り切れとなった。それでも育ちざかりの全員は腹ペコだった為、茜が買い占めたシルクスイートをアルミホイルに包んで火の中に放り込んでいく。



「さじ坊が焼き芋作ってるからお前ら、もうしばらく遊んで来ようぜ!」



 茜が子供達を連れて何処かに遊びに行く。これはキャンプ企画としても、文芸部の慰安旅行としても成功だとそう思っていた。

 だが、この昼食の数時間後、ミーシャ達文芸部と、子供達以外のキャンプ参加者達は何か変な物が見えると、何かに恐怖し、異常事態が発生する。

 自分の親や企画をした大学生が狂う様を見て、子供達は口々にこう言った。



「火の玉の呪いだ」

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