第二話 火の玉バーゲンセール

「で、この話を聞いた人は五人の人に同じ話をしないとその手長足長がやってくるってさ! はい終了。ふっ!」



 蝋燭の火を消す茜。昼間寝すぎた事で全然夜眠れなくなった為、眠たくなるまで百物語大会を始めた。



「これ何話目だったっけ? 十二話? 十三話?」



 そう、一つの蝋燭に繰り返し火をつけて話をしていた為、全然分からなくなった。お菓子やジュースを飲みすぎたからか、ミーシャはトイレに行きたくなった事を二人に言う。



「なんだなんだ? ミーシャお外が怖いのかぁ~?」

「そんな事ありませんよ! 満月先輩ランタンお借りしていいですか?」



 そう言うと満月が「百均で売ってたやつだけどな」と言って赤いランタンを貸してくれる。小さめではあるが百円にしては中々よく光るし、いい物だなとミーシャは思ってトイレに向かう。



「ん?」



 手元のランタンがよく光るから何かの見間違いかとミーシャは思っていたが遠くに光る球体がランダムな動きをしていた。ランタンの電気を切って目を凝らす。

 無数に動くその光にミーシャの心音は高鳴った。



「火の玉だ……」



 途端に怖くなるとミーシャはテントに戻る。



「満月先輩、茜先輩! 火の玉です! 火の玉ですよ!」



 テントに入るとカップ麺を食べた形跡と茜、そして満月の寝息が聞こえていた。二人とも昼間にあれ程寝ていたのに、今やもう熟睡体制に入っている。嘘だろ! と言うのがミーシャの気持ち。トイレには行きたいが正直怖い。

 馬鹿にされる事と、漏らす事を天秤にかけてミーシャは満月の身体をゆすった。



「……ん? どした?」

「満月先輩……そのトイレに」



 寝ぼけている満月にそれを言うと満月は何かのスイッチが入ったように「マジでか!」とテンションを上げる。



「まさか、マジで一人でおしっこ行けないなんて情けないにも程があるだろJK」



 常識的にと少し死語を使う満月に笑われながらも、ミーシャはなんとか共用のトイレに辿り着き用を足す。

 トイレから出ると満月はランタンの電気を消してあたりをきょろきょろと見渡していた。それは先ほどのミーシャと同じ反応。



「もしかして満月先輩!」



 くるりと振り返る満月の表情は何か不気味な物を見たようなそんな顔をしている。紛れもなく満月もまた火の玉を見たのである。



「出やがった……最初、緑色の炎が見えたかと思ったらそれが消えて、物凄い動きで動く火の玉……これマジのやつか」



 ミーシャは逃げ出したい気持ちで一杯だったが、満月はランタンを持って火の玉が見えた方向に向かっていく。



「って、満月先輩何処行くんですか?」

「は? 火の玉の正体見つけに行くに決まってるだろ。こんなに小説のネタになる現象中々ないぜ」



 怖いという感覚が満月にはないんだろう。このままテントに帰るのもまた怖いのでミーシャは満月についていく。

 先ほどまで眠そうにしている満月だったが、今や新しい玩具を手に入れた子供みたいに舌をペロりと出して探索。



「今は深夜2時。時間を覚えとけよミーシャ」

「どうしてですか?」

「俺達のキャンプは二泊三日、あと一泊しかない。また火の玉が見れる可能性はあと1日。さっきミーシャが見たという時が深夜の1時半くらいだとして、火の玉の目撃時間は深夜1時から2時頃。さらに言えばさっき炊事場で泣きわめていた子供達の話では20時頃にも目撃してるかもしれない」



 ミーシャが爆睡していた時に子供達も火の玉を見たという話を小耳にはさんだ事をミーシャに説明、それにミーシャはこういった。



「満月先輩は子供達の言う事でも信じるんですね」

「あの時は全く信じてなかったよ。今は自分が目の当たりにしたから可能性の一つとしてな。それより、俺達が火の玉を見たあたりはこの辺だろ?」



 ランタンを掲げて当たりを見渡す満月。

 そして何かに気づく。



「おい、ミーシャあれ」

「なんですか? うぇ!」



 満月が指さす方、さらに離れた場所に墓地が見える。墓地に火の玉だなんて最高のロケーションだなとミーシャは青い顔をした。



「ちょっと、これ本当にダメなやつじゃないでしょうか?」



 さすがに洒落にならないと思っていたミーシャに満月が下した判断。



「行ってみようミーシャ」

「えぇ、お墓ですよ! それも夜の丑三つ時の」

「ああ、そうだな」



 この満月という男は恐怖というものを感じる部分が壊れているんだと、ミーシャは恐る恐る満月の後を追う。



「ミーシャよぉ、お前ビビってるだろ?」

「……いや、夜の学校や病院でも怖いのに、夜の墓地はヤバすぎですよ!」

「なんで?」



 満月はぽかんとした顔をしてミーシャを見つめる。ミーシャはもしかして満月は一般人を装ったサイコパスなんじゃないかと疑いながらあたりまえの事を言ってみた。



「お墓は死者が眠る場所じゃないですか、だから幽霊とかそういうのが出るかもしれないじゃないですか……ありえないと思いますけど」



 ゾンビやゴースト系映画を想像してそう言うミーシャに満月は非常にまともな事を返してきた。



「いや、おまえ。学校とか病院と違って墓地はしっかり弔われて管理されてるだろ? だから、所謂聖域じゃないの? むしろここで幽霊とか出たら世界各国、幽霊だらけで闊歩しててもおかしくないだろ? 結論、幽霊はいません。はい、論破」



 そう言って満月はランタンを持って墓場に入り、あたりをうろうろと十分程何かをさぐったり見渡す。

 言われてみればの話だが、満月の正論にミーシャはなんだか腑に落ちない気がしていた。そして同時にあまりにも満月が現実的な事を言うので、段々怖がっている自分が馬鹿らしくなってきた。



「満月先輩、僕が見た火の玉はここじゃなくて、もっと近場だったような気がしたんですけど……」



 そう言われて満月は少し考えこむ。



「俺が見た時は、キャンプ場の端くらいだった。それが消えたかと思うとこの辺りで高速移動を繰り返す火の玉を見たんだけどな」



 やや満月とミーシャの意見が食い違う。それ自体には不自然さを感じてはいなかったのだが、満月を見るに何かを感じ取ったような表情をしている。



「もしかして満月先輩火の玉の正体分かったんですか?」

「いや……まぁ予想はついてきた。昔、理穂子の家族とキャンプに行った時に似たような現象を見た。だけど、いくつか分からない事があるからな。それが分かれば、解決。俺の小説のネタにしてやろうと思ってるんだが、あと1日で分かるのやらと言ったところか……クリスがいたらもっと早く分かったかもな。あいつ滅茶苦茶頭いいし」



 満月の口からクリスの名前が出たのは珍しい。クリスが転校して怒りまくっていた茜とに対して満月は特に我関せずを貫いていた。



「クリス先輩、元気ですかね?」

「まぁ元気でやってるだろ。そういえばあいつの姉ちゃんの骨がずっと部室にあったわけだが、あそこで幽霊は一度も出なかったな」



 先ほどの話の続きとして幽霊が出ない証明を満月はさらに言う。確かにこれも言われてみればそうなのかもしれない。



「あのソファー、よく茜先輩が涎たらして寝てましたよね? 祟りとかも……ないって事でしょうか?」



 ミーシャのブラックジョークに対して満月は頷く。



「まぁあの女は祟られても気づかないかもしれんけどな」

「茜先輩って元気ですよね」

「ああ、長年腐れ縁だが風邪を引いたところすら見た事がないかもしれん」



 一体どんな超人なんだと思って笑う。さらに満月がやや小声になってミーシャに言う。



「俺はあいつが月もので体調を崩しているところも見た事がない。あいつもしかしたら俺達の知る人間ではないかもしれんぞ!」



 そんな冗談で笑かされながら、二人はテントへと戻ると茜の姿が見当たらない。それにミーシャは心音が高鳴る。



「茜先輩いないですよ!」

「うん、便所じゃないか?」



 テントに入ってしばらくして茜は戻ってきた。眠そうな顔で満月に言う。



「トイレ、ランタン」



 目を擦りながらそう言う茜に満月は「お、おお」とランタンを渡す。横になり、満月もミーシャも夢の世界に足を踏み入れそうになった瞬間、テントが力強く開けられる。



「おい、さじ、ミーシャ! 火の玉だ! 火の玉がいたぞ! 見にいこーぜ!」



 まさか、朝の四時前で茜が同じような事を言ってテンションを上げて帰ってくる。それには満月もミーシャも心底ウザいなと思いながらも、どんだけ火の玉飛んでいるんだこのキャンプ場は、と思うミーシャと満月。

 興奮冷めやらぬ茜に対して満月はこう提案した。



「分かった。俺達も見たんだ。とりあえず少し寝ようぜ茜。調査はそれからだ」

「は? 逃げちまうかもしれねーだろ!」

「大丈夫だ、その火の玉、多分捕まえられないが、明日も見れる。俺を信じて、な? 数時間寝て昼間はキャンプを楽しもうぜ」



 腑に落ちない茜だったが、口をとがらせて「はーい」と寝袋に潜り込む。そして五分たたずして茜の寝息が聞こえて来た。



「なぁミーシャ」

「はい」

「いや、いいわ。おやすみ」

「はい」

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