第三話 自習時間に過去検索

 翌朝もクリスは一番乗りで部室に来ていた。クリスに影響されてミーシャや茜も普段より早く登校してきている事にクリスは少し申し訳なさそうに言った。



「僕に合わせて登校しなくても全然構わないよ。色々僕は学業以外にもする事があるからその為の早目に来てるだけだからね」



 そんなクリスにミーシャは尊敬のまなざしを向けて言う。



「クリスさんの作品作りにも興味がありますので! 全然気にしないでください」



 ミーシャはそのつもりで、茜は外を見ながらマイペースに作品を書き始める。そして一人だけミーシャや茜とは違う反応を見せる男。

 部長の満月。



「率直に聞くが、この部室で何か探し物でもあるのか? この部室、以前荒らされた事があって、その時くらいから監視カメラをつけてるんだ。盗撮するつもりはなかったんだが、ふと確認したらクリス、お前があれこれ探している姿が映されている。壁を叩いたり、家具を持ち上げてみたり、当然カメラ自体にも気づいているみたいだが、慌てる様子もない。もし、何か困っているなら力になるが?」



 満月の言葉にクリスは焦る様子はないが、少し恥ずかしそうな顔をした。それは年上だというのに同性であるミーシャでも可愛いなと思ってしまう程に。

 ミーシャがふと横を見ると茜がクリスにぼーっと見とれている。茜もまた女の子なんだなとミーシャは思うと、これに関しては見なかった事にする。



「ははは、あのカメラダミーじゃなかったんだね。なんか、家探ししてるみたいでごめんなさい。元々この文芸部、僕の姉も数年前に所属してたんだ。これ証拠写真」



 クリスが見せた写真は確かにこの部室が撮影されたもの。いかにも文化部という人たちと明らかに場違いなクリスの姉が写っていた。



「楽しそうだよね?」



 ミーシャは確かに明らかに浮いているクリスの姉も、他部員も楽しそうに映っている。仲良し部活だったのかもしれない。



「僕も姉さんのこの雰囲気に憧れて、文芸部に入部させてもらったんだ。でもやっぱり姉さんを探している自分がいた。何か手がかりがないかなってね……まぁあるわけないんだけどさ。六年も前だし、それでもここに来ると姉さんが残した何かがないかって探してたんだ。ごめんなさい」



 ぺこりと頭を下げるクリスに、満月は真顔で写真を借りる。そしてそれを見て、確かに同じ場所。同じところである事を確認してクリスに返した。



「部長、何か分かったかい?」

「いや、何にも。クリスのお姉さんは『ワリカタ』のオフ会に参加したんだよな?」

「あぁ、そうだよ」



 満月は少し考えてコンビニで買ったグリーンスムージーをこくりと飲む。そんな姿にミーシャだけはOLみたいだなとよからぬ事を考えていた。

 そんな事をしていたので、誰一人として三題噺を書き終わることなくホームルームの予鈴が鳴った。



「しかたない、続きは放課後に時間を取ろう。どうせだから今回のキーワードで短編を書いてみようか? 『お好み焼き』『モナコ』『ゾウアザラシ』だからな」



 皆で戸締りをして部室を後にする。クリスだけはじっと部室を眺めていたようにミーシャには見えた。



「クリスさん?」

「あぁ、ミハイル君。ごめんよ。では放課後に、チャオ!」



 やっぱりチャオとか言っちゃう人が普通にいる事にミーシャは驚き、やはり住む世界が違うので文化圏も違うのかなとミーシャは考えて、絶対に分からない事なので考える事を辞めた。

 現国の授業はなんと自習になった。現国の先生が早くもインフルエンザに感染したという。ついこの前、学校で予防接種を受けていたので、予防接種って意味あるのかなとミーシャは思う。



「おーい、ミハイル。一緒に勉強しよーよ」



 麗奈がミーシャの席にやってくる。可愛く自作イラストを描いたノートを持って来る様が妙に気合を感じる。



「あれ、今日はアキさんは?」

「アキもインフル。なに? 私だけじゃ嫌なのかよー!」

「そんな事ないよ。僕、図書室行きたいんだけどそれでもいいかな?」



 麗奈はちょっと嬉しそうにミーシャの腕を組んで教室を出る。その様子をクラスメイト達は当然目撃しているし、あることないこと噂話をされている事をミーシャは知らない。



「ミハイル、なんで図書室来たの? 調べもの?」

「うん、ちょっと調べたい事があるんだ。あの、クリスさんの」



 それを聞いて麗奈は目を輝かせる。クリスの事を調べるという事で麗奈も手伝うと言ってくれた。正直、こんな事になるとはとミーシャは思ったが、手伝ってくれるなら有難い。



「クリスさんのお姉さんが、僕等の文芸部の先輩なんだ。『ワリカタ』っていう有名な小説の遊び方をしたオフ会の後に失踪したって、ほら記事にある」



 当時の新聞を見せてミーシャは言う。顔が結構近かったので麗奈は顔を赤くして「そだね」としおらしく答える。



「オフ会には5人の参加だったんだね」



 麗奈は別の新聞記事から情報をミーシャに共有するのでその記事を読むも少年3人に少女2人としか書かれていない。



「情報規制だよね。ネットに上がってないかな」



 さすがは重工棚田の姫と言っても過言ではない棚田アリスの失踪はネット上でも大きく取り上げられていてスレッドも沢山あった。

 そしてその中で参加者達の名前や住所等の情報がすべて張り付けられていた。



「うぇ。なんでこんなのすぐにわかっちゃうのかなぁ?」



 それは知り合いが書き込んだか、当事者が書き込んだからだろう。それらの名前をテキストエディタにコピーしてはミーシャは各個調べていく。同一人物と思わしき人が一人、ヒットした。



「これって、有名な撮影スタジオだよね」



 麗奈が意外と物知りなのでミーシャは言われるがままに撮影スタジオのホームページを見る。若手の社長が立ち上げた会社だという事で、全国に数店舗構えているらしい。

 棚田アリスではない女子の情報は得られず、もう一人の男子に関してもそうだった。

 だが……残る最後の男子に関しては、この棚田アリス以上に多くの情報を見つけることができた。

 ミーシャにとっては思い出したくもない遭難した2014年秋。結細一成ゆいぼそかずなり、当時十九歳の死体が首だけ見つかった。

 首より下はどれだけ探しても見つからず、特殊な新興宗教に入っていた結細一成の両親は検死解剖には応じず内内で首を処理したという。



「これ、偶然かな? クリスさんのお姉さんと一緒にオフ会した人が変死してる……それも凄いグロテスクな方法で……しかもこの名前」



 ミーシャが青い顔をしていると麗奈が少し考えて言う。



「この参加者の誰かにこの人を殺した人と、クリス様のお姉さんをさらった人がいる……とか?」



 クリスの事を様付けなのは無視するとして、ミーシャもまた同じ考えに至っていた。これを満月やクリスに教えてやれば何か分かる事があるかもしれない。それにはもう少し情報をと次の新聞を開こうとした時、麗奈と手が触れる。



「あっ、ごめん」

「ううん。大丈夫。あのさ、ミーシャって大学とか何処か狙ってるとこあったりするのか?」



 大学、まだ二年も後の事だが、一つだけ行きたい大学がなくもない。それは満月や茜と同じ大学。



「う~ん、多分少しレベルが高いところ」

「まじか! じゃあさ。今度一緒に勉強しない? 私もミハイルと同じ大学狙おうかな~なんて、なんちゃって」



 ミーシャはこの麗奈やアキは比較的学校でも話すし、仲の良い方だった。知り合いが同じ学校にいるというのはなんだか安心する。



「うん、一緒に頑張ろうか!」



 ミーシャのその言葉は麗奈を勘違いさせるには十分だった。麗奈が何かを言おうとしていた時にミーシャは殺害されたであろう結細一成に関する情報が見つかった。

 彼は、読書感想文のコンクールで銀賞を取るという偉業を成し遂げていた。彼は並々ならぬ江戸川乱歩のファンだったという。

 友達もいなく、物語を読む事しか楽しみがなかったと、江戸川乱歩の描く人間の暗黒面に触れてると、自分もまた暗黒面を晒したくなるようなそんな気分になると、半世紀近く前の作家が書いたとは思えない程に結細一成にとってそれはバイブルだったのだと……

 この読書感想文は世界感に浸り、あっと驚かせてくれるようなそんな素晴らしい作品だと書評が書かれていた。

 だが……ミーシャはこれを読んで感じたのは絵も知れぬ不気味さ。それはもしかしたら自分だけなんじゃないかと麗奈にも読んでもらう。

 しばらく文字列を目でなぞり、麗奈は呟く。



「げっ、気持ち悪っ」



 ミーシャはこの反応で確信した。この結細一成はサイコパスなんじゃないだろうかと……これは自分だけの判断じゃ分からないなと。

 必要そうな部分をプリントする。



「普通に考えれば、この人が凄く怪しいんだけど、この人は四年前に殺されてる。となるとこの撮影スタジオの人か残りの二人ってこと?」



 自習時間一杯を使って調べものをしていた時、担任の桐ヶ谷が図書室に入室する。そしてミーシャと麗奈を見て驚いた。



「うわっ! びっくりした! お前ら何やってんだ? まさか不純異性交遊とかだったらさすがに先生も目を瞑れないぞ」



 桐ヶ谷のこのテンションに麗奈は笑う。



「いずっちウケる!」



 桐ヶ谷は自ら馬鹿の振りをして次の授業遅れるなよと二人の事も気遣ってくれる。ミーシャは今までこんないい先生には出会った事がないなとそう思う。そこで一応文芸部の顧問だからミーシャに聞いた。



「先生ってこの『ワリカタ』事件についてご存知ですか?」



 怪訝な表情をして桐ヶ谷はミーシャの印刷した記事に目を通す。



「あぁ、これは嫌な事件だったなぁ。棚田は文芸部に入ったんだってな? あまり、こういう他人の事は踏み込まない方がいいぞ」



 普段は面白い事を言う桐ヶ谷がそう言うので、ミーシャも頷くと桐ヶ谷に頭を下げて教室に戻る。



「ミハイル、おそいー!」

「あー、はいはい」

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