最終話 埋蔵金の在処

 刑務所に面会という事を人生の内何回経験するんだろうかとミーシャは思っていた。今日このロケーションをセッティングした欄の姿はない。

 どうも警察とはあまり馬が合わないという理由らしいが、何となく本当は別の理由がある気がしていた。

 ミーシャ達が通された先、連日ニュースで見た男の姿があった。

 そして第一声。


「君達、輝かしい未来が待つ学生が、殺人者に何の用かな?」



 結細隆を殺した男、横山英雄は殺人を起こした人物にしては随分落ち着いた……率直に言ってしまえば普通の人だった。



「アンタが結細を殺したから埋蔵金の在処が分からなくなった。アンタなら場所を知ってるんじゃないかってアンタとの面会を用意してもらったんだ」



 満月は物怖じする様子もなくそう言う。それに横山は途中からウケた。



「ははははっ! まさかあの埋蔵金をか……これは傑作だ」

「やっぱり、本当にあるのか?」



 満月ですら半信半疑だったんだろう。それなら何故あんなに真剣に埋蔵金探しをしていたのかミーシャは疑問に思う。



「あぁ、あるぜ。総額720万の埋蔵金がな……で、お前らは何処まで近づいたんだ?」



 横山が実に機嫌よく言うので、文芸部の部室から撮影した写真と満月が図面を引いて作った地図を横山に見せる。



「なるほど……お前たちはやっぱりガキだな」



 それにぴくりと反応したのは茜。差し入れに持ってきたハズの饅頭を開けて食べだす始末。



「おい、オッサン。これ喰いたいか?」

「そうだな。甘い物はご無沙汰だ。貰えるなら貰いたい」



 茜は条件でも出すのかと思ったが、すっと箱を差し出した。それを横山は受け取るとそれを剥いて食べる。

 二人してしばらくむしゃむしゃと食べる。面会時間も限りがあるというのに、満月は焦らない。

 そして口を開いたのは茜。



「何処に埋蔵金を隠した?」

「俺が言うと思うか? お前たちは絶対に見つからないところを探すといいさ、あれは使うべき人の為に使わなければならない」



 茜は腕を組むと少し目を瞑る。そして横山に見せた地図に赤で大き目に丸を書いた。そして平然とこう言った。



「埋蔵金はその付近の何処かにある。あとは正確な場所だけでしょ? 出し惜しみせずに教えろよ! そこを適当に掘れば見つかるのは分かってるんだよ。無駄な力を使わないようにアンタに会いに来たの。分かる?」



 茜が書いた赤丸。その付近に埋蔵金があるなんて、ミーシャも満月も聞いた事がない。それはハッタリなのかと思っていた二人。

 横山が二人の思考を代弁してくれた。



「聞こうか? どうしてそこにあるのか、俺を楽しませてくれたら少しはヒントくらいやろう」



 ハァと茜はため息をつく。満月がミーシャに小さな声で呟いた。



「茜が見せるぞ」



 茜は鞄からノートを取り出すと汚い字で一人の名前を書いた。



「創立年のキーワードを語る生徒は逆瀬裕太。こいつが南に100メートル」



 そう言って方位を左端に描くと、逆瀬裕太の名前の横に線を書くと100メートルと記載。



「次が反田紗香、東に100メートル。続いて裏川芳樹」



 それも名前を書いて東、南と線を描いていく。その様子を横山は面白そうに眺めていた。そして茜は最後の人物と距離を言う。



「四人目が対馬美奈子、東に100メートル」



 茜が描いた線は部室から写真を撮ったものと殆ど同じ形を画いていた。そしてそのどれも埋蔵金は見つからなかった。



「それが……どうしてお前さんの赤丸つけたところになるんだ? 全然場所が違うじゃないか」



 明らかに同様している横山。そしてそれに満月は「そういう事か……」と呟くがミーシャには一行に分からない。



「この埋蔵金を年々隠してた連中、全部名前が反対とか逆とか裏とか対とかを意味する名前なの。これって偶然じゃないでしょ……ウチの部員はそんな事も考えずにスコップで地面掘ってるのは実に面白かったけどにゃー」



 ミーシャと満月を見て猫みたいに手を動かして茜は言う。さらにノートの書いて見せた線と真逆の物を赤色で書く。ミーシャ達が掘っては進んだ物と真逆の線が運動場の中心でばれた。



「結細隆だけ、逆を意味する漢字じゃなくて、『結』。そして結細のヒントは『俺に会いに来い』。それは1年目から4年目の正位置と逆位置のヒントを結ぶところ。そこを掘れって事でしょ? で、この空間内の正確な場所は何処かって事言ってんの、どう? 最後の奴に聞くハズがアンタが殺しちゃうから面倒くさい事になったでしょ」



 茜はチューインガムを取り出すとそれをくっちゃくっちゃと噛みだす。だいたいこちらのターンになったという事で、あとは満月の仕事という事なんだろう。



「横山さん、もしあなたさえよければ埋蔵金はいくらでも差し上げます。だから場所を教えてもらえないでしょうか?」



 満月の目的は埋蔵金の中身ではなく、埋蔵金を掘り出すという事。ますますわからなくなっていた満月に横山は聞く。



「どういう事だ?」

「俺とこっちの茜には幼馴染がいる。そいつは小さい頃に難病にかかった。治療に耐えながら今も頑張ってる。そんな彼女が好きだったのが宝さがしだ。ガキの頃、よく俺と茜とその子の三人で宝さがしごっこを繰り返してた。子供の宝なんて松ぼっくりとかそんなくだらないものだったけどな」



 満月はお金をその幼馴染に渡すのではなく、埋蔵金を見つめるまでの過程を彼女に見せてやりたかったのだ。

 全てはその幼馴染を元気づける為。

 それを聞いた横山はしばらく茫然としていた。大金目当ての学生だと思っていた目の前の子供が中々に尊い事を行おうとしていた事。



「そうか、なら俺も教えてやるよ。どうして結細を殺したのか」



 ぼーっと聞いていた立ち合いの警察は今まで黙秘を繰り返していた横山が話し出すので連絡をする。その様子に「チッ」と舌打ちすると話し出す。



「俺は結細と一緒に埋蔵金をかすめ取る気だった。俺はこの年で定職につけず、日々貧しかった。細結はある事件で、元居たカルト教団に命を狙われててな。高跳び費用だ。俺と細結が犯行の準備をしていた時、俺が昔世話になったある国の孤児院が運営継続が難しいってテレビで見てな。それに全額寄付してやりたくなった。だが、細結はそれに大反対、そして俺は殺人を犯した。つまらない話だろ?」



 それにミーシャは無意識に言う。



「全然、全然つまらなくないです。でも……人を殺しちゃダメだ。そんな汚れた手で助けられたって誰も嬉しくない」



 少し臭い台詞だったかもしれない。だが、満月も茜もミーシャを冷やかさない。二人も同じ事を考えていたのかもしれない。

 横山が話し出した事で警察が何名か集まって来る。もう少しだけ面会時間があるハズなのだが、これはお開きになるだろうとミーシャは思っていた。

 そしてそれをずけずけと言うのが茜。



「おいオッサン。もう時間なさそうだからさっさと場所言えよ」



 面会はここで終わりである事を告げられ、横山は面会室から出される。結局何も分からないままかと思った時、横山は叫ぶ。



「結細の名前をしっかり考えたご褒美に大ヒントだ!そして、最後に埋蔵金を 埋めたのは俺だ」



 何が大ヒントなんだと思ったミーシャだったが、茜と満月は不敵な笑みを見せる。まさか、あれだけで何処に埋めたのか分かったという事なのか、代わりに満月はこう叫んだ。



「埋蔵金、全額その孤児院に寄付してやる。安心しろ!」



 横山はぎこちなく、文芸部の三人を見て笑った。

 三人は帰りにマックに寄る。満月は珈琲のみ、ミーシャは空腹を感じていたのでバリューセットを……そして茜。



「ハンバーガー5個。たまねぎ、ぴくるす、ケチャップ多めでな」



 実は増やすことができる具材を最大にしたハンバーガーを頼んだ。通常より二倍くらいの大きさをしているそれを持って適当な席についた。

 ばくばくとハンバーガーを食べる。実に美味しそうに食べる茜があんなに探偵張りの推理をしていたなんて嘘だったんじゃないかとミーシャは思って、シェイクを一口飲んでから聞いてみた。



「何処に埋蔵金はあるんですか?」

「は? ミーシャわからねーの? やべぇよやべぇよ! それやべぇよぉ!」



 茜が煽るようにそう言うので満月の方を見るミーシャだが、満月にも目をそらされる。一体どういう事なのか……

 お腹が膨れたところで茜がゴミを捨てに行ってから言う。



「じゃあ掘りにいこっか?」



 まさかの率先して茜がそんな事を言うとはミーシャは思っていなかった。そしてミーシャはすぐに理解した。

 茜は埋蔵金発掘を手伝わないのではなく、無駄な行動をとらなかっただけなのだ。確実に見つける事が出来る今だから動く。

 実に合理的に行動を起こす。


 茜がギフテッド所以の行動なのか、それとも性格の問題なのか、茜は学校に行く間のお供にと大きなサイズのポテトを買って歩きながら食べる。

 部活の生徒達も帰り、そろそろ警備がかかる前にスコップを一つ持って運動場へと三人はやってきた。



「ミーシャ、創立から四年目までは逆・反・裏・対。最後は結。よく考えたんじゃないか? 逆の場所にあるって事は少し賢い奴なら気づくだろ? 最後の結ぶは本来の読み方と、その裏それらが交差するところ。ようは結べるところ」



 茜は一本の線を地図に引いた。

 卒業アルバムに描かれた南に100メートル、そして実際の意味である北に100メートル。それが結ばれる場所は一番最初の地点。



「ここって……まぁ森を隠すなら木という事じゃね? ここほれミーシャ!」



 はいはいとミーシャが言われたところを掘ると、カツンと何かに当たる。そしてそれを掘り起こすとミーシャは呆れた。



「これって、サッカー部が掘り出してたタイムカプセルじゃないですか」



 あのあとサッカー部の連中は律儀に同じ場所にそれを埋めたのだろう。そしてこれが埋蔵金という事かとミーシャは苦笑した。



「もしかして、ここまで協力してタイムカプセルを見つけた僕等の友情が埋蔵金だ! 的な奴ですかね?」



 ミーシャのこの発言に茜は腹を抱えて大爆笑。



「ひゃっひゃっひゃ! そんなわけないし、ミーシャ。あの横山は殺害した結細を埋めた上に動物の死骸をさらに埋めたんだよ。あいつが埋めたんならこの下に埋蔵金があるって事。このタイムカプセルはカモフラ」



 そんな馬鹿なとミーシャは掘り進める。タイムカプセルが出たところからさらに一メートル程掘り進めた時、それは現れた。

 悪戯小僧みたいに八重歯を見せて茜が笑い。いつも通りクールに満月は眼鏡の位置を元に戻した。



「見つけた」



 そうミーシャは呟くと興奮して出て来た箱の蓋を開け、それが大量の日本銀行券、千円札である事を確認した。

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