第三話 何の為の埋蔵金?

 創立二年目の卒業アルバムをOBから、三年目を図書室の貸し出しで満月は持ってきた。



「やっぱり諦めてなかったんですね満月先輩」



 ミーシャの声かけに反応して三年目の卒業アルバムを手渡す。くっちゃべる暇があるなら探せという事だろう。

 遠目で茜を見るとパソコンのキーボードをカタカタをタイプしながら小説を書いていた。バナナを食べながらという器用さ。残り十本くらい房があるので、それを全部食べるつもりなのだろう。



「茜先輩、バナナ食べてるって事は埋蔵金発掘を……」

「手伝うわけねーだろ!」



 仕方がないのでミーシャは卒業アルバムのページをめくる。めくる。

 なんとも地味な作業だった。



「満月先輩、これって文芸部の活動なんですかね?」

「当然だろ。文字読んで宝探すんだからよ」



 どういう理屈だろうかとミーシャは思う。そんなミーシャはふと開いたページで明らかにメッセージを記載されているコメントがあった。



「先輩、見つけました!」

「こっちもだミーシャ。反田紗香はんださやか。東に100メートル」

「僕の方は裏川芳樹うらかわよしきさん。南に100メートルです」



 しかし全部メートルで記載するルールでも当時にはあったんだろうか? そう満月とミーシャは思いながらもスコップを持って運動場へ向かう。

 満月が向かうところについていくとそこは以前穴を二人で掘ったところ。



「テントのペグを差し込んでおいた。とりあえずここから東に100メートルを測るぞ」



 前と同じ方法を取って100メートルを計測する。



「よし、ここだ。一旦ここを掘るぞ」

「えっと、はい」



 その場所も掘り返された後が沢山ある。そしてもう埋蔵金探しをしているのはミーシャ達文芸部の人間しかいない。

 文芸部部室の窓から茜がバナナをくいつつ手を振ってくれる。あれがもう少し大人しくて女の子っぽい態度をしてくれたら少しは……



「満月先輩、茜先輩ってラノベとかのヒロインになれるんですかね?」



 一瞬、満月の穴を掘る手が止まる。そしてジロリとミーシャを見つめると満月は独り言のようにこう呟いた。



「つまらない事を考えるのはよせ」



 茜はヒロインにはなりえないのかとミーシャは思う。ダメ元で最期に一つだけ聞いてみた。



「この前メイドさんの恰好してたのは」

「殺すぞ」



 まさか満月にそんな事を二度も言われるとは思いもしなかった。あの後、激辛の食べ物を食べさせられて、ポイントを使ってチェキをお願いしたところ……



「あっ、そういえばチェキ」



 茜の見てくれは悪くない。なんせ厨房メインとはいえ茜が出て来た時、店内の客は茜に注目していたのは確かだった。

 なのに、ミーシャも満月もフラグが立たないのは彼女の普段のやばさに異性として見れないからだろうか。



「まぁ、女子は古書店『ふしぎのくに』店長くらいの可愛げが欲しいわな?」



 満月が言う事に関して、ミーシャは激しく同意したかった。



「やっぱり何にも出ないな。次行くぞ」



 掘ったところを埋めると、再びテントのペグを打ち込んだ。その様子を馬鹿でも見るように見つめている茜に二人は閉口したくなる。



「次、南に100メートルいくぞ」



 満月の計測は非常に正しい、他の生徒達が掘っているところは少しずれているので、もしかすると本当に埋蔵金があればこの満月が見つけるんじゃないかとそう思っていた。



「あっ! 桐ヶ谷先生が部室にいる」

「あ?」



 目を細くして満月は部室を見るが視力が悪いのか、双眼鏡を取り出すとそれを覗く。確かにそこでは片膝ついた態度の悪い茜と桐ヶ谷が何かを話していた。



「なんだ。顧問が来るなんて珍しい事もあるな」



 そう言うと計測の続きを始める。満月は知的に物事を進める。さぞかし頭もいいのだろう。そこでミーシャは聞いてみた。



「満月先輩は大学ってどこに行きたいんですか?」



 帝国大学とか言うのだろうかとミーシャは期待していたが、満月の回答は斜め上を行く物だった。



「大学なぁ、いければ何処でもいいや」

「先輩って頭いいんじゃないですか?」

「あぁ、いいぜ」



 頭がいいと言ってしまうあたりがミーシャとは頭の出来が違うのだろう。なのに良ければ何処でもいいというのは勿体ない。



「先輩、どうせならいい大学行きましょうよ」



 少し考えると満月は言う。



「じゃあハイデルベルグ大学にでも行くわ」



 聞いた事のない大学名が出て来たので、ミーシャはきっと頭がいい人間が行くところなんだろうとそれを聞き流した。



「茜先輩は何処に行くんでしょうね」



 言ってからこれは禁句だったのかとミーシャは思った。再び満月は不愉快な顔をしてはミーシャを見つめて言う。



「あいつの学力知ってるか?」



 ミーシャはこのパターンはまさかと予想してしまった。普通に考えてあのやんちゃな女子キャラクターは馬鹿な大喰らいという設定持ちのはず。いつも腹ペコで、荒事に関してのみかなり安心できるみたいな。

 漫画やラノベでよくパワーキャラ、たまに乙女な一面があったりするという設定付けなんかがベタなところか……



「もしかして、滅茶苦茶頭いいとかですか?」

「ああ、あいつ頭だけはやばいくらいに良い」

「そうなんですか? 今度勉強教えてもらおうかな」



 ミーシャの反応に満月ふっと笑う。



「それがアイツが爆発した原因」



 どういう事だろうかと思ったが、満月は穴を掘り始める。なので、ミーシャも同じく手伝う。南に100メートル、東に100メートル、そして現在そこから南に100メートル。

 そこでも何にも出ないだろうなとミーシャは思っていた。



「おっ、なんか当たった」



 まさかと思ったミーシャは満月とそれを掘り返す。途中からそれがとんでもなく大きな石であるという事。



「墓石じゃないだろうな」

「怖い事言わないでくださいよ!」



 二人で掘り返した石を見て、それがただの石ではない事に二人は気づいた。なんせ石に彫り物がしてあるのだ。



「なんだか腹立ちますね」

「いや、これは当時の学生が埋めた物だろう。奇跡的に掘り起こされなかったんだろうけどな。だから俺はこう思う。多分、埋蔵金はあるかもな」



 この石をこのままにしていると運動部の生徒が躓くかもしれないので邪魔にならないところへと捨てに行く。

 その石にはこう大きく掘られていた。


『はずれ』


 と……普通の学生ならイラつくところなのかもしれないが、満月は違った。数十年の月日を経た先輩達からのメッセージ。



「なぁミーシャ。この埋蔵金なんだけどさ。何の為に積み立てたんだろうな? 当時の千円って高校生には結構高額だろ?」



 当時ではなく平成が終わりつつある今でもミーシャからしたら千円は大金だった。それ故に当時約千人の学生が1000円を五年間。



「五百万円で何か買いたかったんですかね?」



 五百万あれば学生が欲しがる物なら何でも買えるだろう。それよりも全校生徒が毎年1000円を倣うように寄付するものだろうか……ミーシャにはあらゆる点が疑問に思えた。



「なんでしょう。寄付とかですか? それも学生運動とかの準備金?」



 ミーシャも話でしか聞いた事がないが、昔の学生は中々に過激だったと聞く。それも全て古書店『ふしぎのくに』で聞いた事なのでまともに調べたわけではないのだが……



「学生運動か……あー成程な」



 意外にも満月の思考を揺さぶる程度の答えをミーシャは出したようだった。二人は穴を埋めてからテントのペグを差し込むと部室に戻った。



「おかえり野郎共、私の作品もできたから読んでくれよぅ!」



 妙にテンションの高い茜。頭がいい先輩だと知ると不思議と見え方が違う。ミーシャは突然尊敬できる先輩に格上げされた茜の作品を読む。

 なんだか不思議な作品だった。記憶がない少女の旅物語、彼女は稲穂が沢山あるところに建つ小屋の思い出を元に、そこを探す物語。

 彼女は歌う。優しさを、世の不条理を、怒りを願いを、喜びを……そして彼女は自分の住んでいた場所を見つけ、そしてある事を知り、自己完結して終わる。


 読者には全て想像をおしつけるタイプの終わり方。

 茜の独特な世界観で描かれた作品に満月も「おもしろいなこれ」と感想を述べる。茜の作品は万人受けはしないのかもしれないが、実に想像を掻き立てる。

 そこで、満月は聞く。



「桐ヶ谷は何を言いに来たんだ?」



 むふっと茜は自信満々な様子で海外の学校のパンフレットを見せる。



「留学を考えないか……だってさ。あいつ私の事知っててこれ言ってんだろうな。ほんと殺してやろうか」



 茜が言う「殺してやろうか」という言葉には何だか、哀しみを感じた。ミーシャは茜の事も満月の事も実はあまり知らない。

 何もかけてやれる言葉がない中で茜は態度をくるりと変えると一冊の卒業アルバムを見せる。



「そうそう、桐ヶ谷、四年目の卒業アルバムもってきたよん。へぇ、昔はこの部室の下給食室だったんだな。ほい! 今回のヒントは対馬美奈子つしまみなこ、東に100メートルだってさ」



 それに満月は「でかした顧問!」と叫びそれを開いた。

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