第二話 満月の想い人

 部活の時間になると、ミーシャはスコップを持って校内を彷徨う準備をしている満月に今朝、担任であり顧問の桐ヶ谷から教わった卒業アルバムにヒントがあるという情報を伝える。

 棒つきキャンディーを咥えていた茜は瞳を大きくして、満月はスコップをぽとりと落とした。



「ほんとかそれ?」

「いや、分かんないですけど、桐ヶ谷先生はそう言ってましたよ」

「すぐに図書室行くぞ!」



 ミーシャの手を引いて図書室に行く満月。そして図書室に入った時に満月の口が開いたまま塞がらない。

 そう、大勢の生徒達が卒業アルバムを開いて見ているのだ。何処からこの情報が広まったかは恐らく桐ヶ谷経由なのだろうが……もう既に色々考察されており、貸し出しにて満月とミーシャが来た時には卒業アルバムを見る事が出来なかった。



「くっそぉ! 桐ヶ谷なんなんだよ。あいつ、顧問の癖に全く部活の事何にもしないで邪魔はいっちょ前にしてくれるんだなオイ!」



 珍しく満月が愚痴をこぼす。



「とりあえず予約しておきましょう」



 本の貸し出しは二泊三日で貸し出し予約が出来る。そしてその予約がまさかの一か月待ちという人気レストラン並みの状態が起きていた。



「てゆーか卒アルの貸し出しが出来るとか意味分からないだろう。馬鹿なのかこの学校、もういい。行くぞミーシャ」



 まさか、またスコップを持ってランダムに掘り返すなんて事をしなければいけないのかとミーシャは思っていたが、部室に戻ると満月は自分のパソコンをネット回線につないでツイッターにログインした。



「學校でSNSのログインは禁止じゃ……」

「緊急事態だ」



 茜は棒つきキャンディーを食べ終わったからか、部室にあるソファーで横になって寝息を立てていた。そんな茜が風邪ひかないようにミーシャは毛布を茜にかける。

 野菜ジュースを飲みながら何かやりとりをしている満月は「よし!」とか叫びながら画面を見つめている。

 卒業アルバムゲット。そう呟く満月はジェットヘルメットを持って部室を出ようとした。ミーシャは帰宅するのかなと思ったが鞄を置いているのでそういうわけではないのかと満月を見送った。



「なぁミーシャ」



 ミーシャはびくんと驚く。寝ていると思っていた茜が目を開けて天井を見つめながらミーシャに話しかける。



「起きてたんですね茜先輩」

「さじの野郎。やけに一生懸命だろ?」



 確かに珍しいとミーシャは思う。いつだって満月は気だるげだが、クールで落ち着いている。そんなイメージが強く、埋蔵金にテンションを上げて喜ぶのは目の前にいる茜の方じゃないかとミーシャは思っていたが、茜はあまり乗り気ではない様子。袋からペコちゃんの棒付きジャンディーを取り出すといっぺんに三本それを口の中に放り込んだ。



「昔、私とさじが小さかった頃にもう一人幼馴染がいたんだよ。ある時、謎の病気で倒れてから学校に来なくなった。今は遠く、アメリカの地で治療をうけている……らしい」



 バキバキとキャンディーをかみ砕いて茜は意味深な事を言う。



「もしかしてその子の治療費を?」

「さぁ、足しにはなるんじゃない? さじは今でもその子の事が好きなんだよ。だからあるかも分からない埋蔵金なんてもんを見つけようと思ってんの」



 少しばかり面白くなさそうに見えるのはミーシャの思い過ごしか、茜は次々にキャンディーをさらにかみ砕いて食べる。

 茜は棒だけになったそれをぷっと吹いてゴミ箱に飛ばした。なんて器用なんだろうとミーシャは見ていたら茜はスマホを操作して一枚の写真を見せてくれた。



「ほい、この真ん中がさじの想い人」



 小学生くらいだろうか? 茜は今よりも少しばかり女の子っぽい恰好をしている。茜と満月の間で写っている女の子。黒髪の大人しそうな子。


(なるほど、満月先輩がこういう子がタイプなら茜先輩は無理だろうな)



「なんだぁ? なんか言いたい事があるなら言えよ」



 茜が飛びついていじってくるので、ミーシャはくすぐったがりながら「やめてくださいよー」なんて言っていると、いつのまにか帰ってきていた満月と目が合う。



「取り込み中すまん。OBを探して創立時の卒業アルバムを借りて来た。二人はちちくりあってて構わん」



 そわそわしながら満月が卒業アルバムをめくりだす。何かの冗談かと思ったが、一行にオチを言わないのでミーシャが突っ込んだ。



「いや、そんなとこで止められたら僕等、どんな顔すればいいんですか?」



 茜はねぐらとしていたソファーから起きる。校則違反のパーカーをすっぽり着こなした茜はそれがユニフォームであるかのように突然満月の後ろから抱き着くように卒業アルバムを覗き込んだ。

 男友達ならありそうなこのシーンだが、幼馴染故なのかとミーシャは少しだけドキドキしていた。



「へぇ~。昔の卒アルなのに結構可愛い子いんじゃん」



 ミーシャも一緒になって卒業アルバムを覗く。今と違って男女共にはっちゃけ方が違うんだなと思っていた。ミーシャと茜は単純に昔の卒業アルバムを楽しんでいたが、満月は違う。



「あった。多分こいつだ。逆瀬裕太さかせゆうた



 満月が指さす少年。きっと今は管理職でもしているであろう男の子。卒業アルバムに書かれた一言コメントが確かに一人だけ妙な事を書いてある。



「運動場の真ん中から南に100メートル……とりあえず今はこれ以上の情報がないから掘ってみるか」



 そう言って満月はスコップを持って運動場へ向かう。仕方がないのでミーシャもついていくと茜は手を振って二人を見送ってくれた。



「満月先輩。埋蔵金をその……幼馴染の子に?」

「ちっ……茜のやつお喋りだな」



 少しだけ機嫌が悪そうな満月。運動場に出ると部活をしている生徒達の多くが何かメモを見て穴を掘ったり、ダウジングしている生徒達もいる。

 そんな中、やや出遅れ気味の満月とミーシャは運動場の真ん中に立つ。満月はスマホアプリを開き砲磁石を起動。



「ミーシャ足開いて。もう少し、おっけーそのまま動くな」



 ミーシャの歩幅を1メートルにしてそのまま百回直進させる。周囲の生徒達は日陰者の文芸部が何か始めていると注目されるが、すぐにその注目は冷めていく事になる。

 何故なら……



「滅茶苦茶掘った跡がありますね」



 そう、当然最初に創立年の卒業アルバムに書かれた通りの場所を掘り返した生徒達がいるが何も見つからなかった。



「この一帯は随分掘り返されてますから、多分ないんじゃないですか?」

「あぁ、多分ないな」



 満月はがっかりした様子もなかった。ミーシャと一緒に掘ったあたりの写真を撮る。そして満月はミーシャの肩に手をあてて二人で自撮り。



「えっ? なんですか?」

「いや、発掘記録としてな。茜のやつが多分二度寝してるだろうから、ここで切り上げて今日は少し部活をして帰ろうか?」



 昨日程の熱意を満月からは感じない。さすがに皆が同じ所を掘っている事を見てモチベーションが随分下がったのだろうかとミーシャは思っていた。そして二人が部室に戻ろうとしたその時だった。


『なんか出たぁー!』


 それはサッカー部の元気な生徒達だった。彼らも部活を中止して埋蔵金発掘を行っていたのだろう。体育会系だけあってテンションが高い。



「僕等文化部にはあのテンションはないですよねー」



 ミーシャが苦笑しながらそう満月に話しかけていたら満月は走ってサッカー部達が地面を掘っている地点向かう。



「何が出たんだ?」



 ぱっと見ヤンキーにしか見えない満月の質問にサッカー部員達は少し戸惑いながらも満月にこう言った。



「満月、お前も見るか? 金は分けてやらないけどな」



 満月はコクンと頷くとスマホを向ける。

 サッカー部の皆が掘り起こした何かは満月が創立時の卒業アルバムで逆瀬裕太が語った地点から随分ズレたところだった。

 というより、逆瀬裕太が語った場所から北に100メートルの場所。

 そう、運動場の真ん中付近。

 まさかここが埋蔵金を隠した場所だったのかと満月はサッカー部の皆が掘り出した大きな箱。



「重いって! しかも多分紙が入ってるって!」



 これはビンゴだったかとミーシャや他の生徒達も集まって来る。皆少しばかり悔しそうだが本当にあったんだという事にわくわくしていた。



「じゃあオープン、5秒前!」



 さっさと開ければいいのになとミーシャが思っていたら案の定満月がこう言った



「さっさと開けろ」

「わ、わかったよ」



 満月にびびりながら大きなブリキの箱の蓋を開けた時、皆の目に飛び込んできたのは確かに紙の山だった。



「未来の自分への手紙……」



 そう、これは創立時の生徒達によるタイムカプセルだった。念のために中まで全部見てみるがお金は1円たりとも見つからない。

 このオチに集まってきた生徒達は大笑い。そして散り散りに去って行く。



「あと四冊卒業アルバムが必要だな」



 まだ埋蔵金を発掘しようと思っている満月にミーシャはハァとため息をついてこう言った。



「茜先輩が冬眠する前に早く戻りましょ」



 満月は校舎の端、自分達の文芸部部室を見てミーシャに言う。



「俺達の部室、何か狭くね?」



 ミーシャは見飽きる程度には見てきた部室を見て、言われてみると見た目より狭いような気がしなくもないが、ただの錯覚だろうとこう返した。



「あんなもんでしょ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます