第一話 文芸部の発掘隊

 ある山中で言い争っていた男二人。



「あの金は二人で山分けだって言ったじゃないか! 俺は何のために教祖を辞めてまで耐え忍んだか分かるのか? 不幸度はもう-400は越えてる」

「お前の独自の宗教感の事は知らない。それより事情が変わった。あれは全て寄付する」

「何を今更善人ぶってるんだよ。半分よこせ。あとは寄付でもなんでもしたらいいだろう」

「お断りだ。まぁ、息子殺しの容疑に関しては同情する」



 金が手に入らないという事で怒り狂った男は、寄付をすると言った男に襲い掛かったがスコップで殴られ返り討ちにあう。



「悪いな正義の為だ」



 そう言って男はスコップで穴を掘ると男をその穴に放り込んだ。

 男はしばらくして捕まる。男の名前は横山英雄よこやまひでお、四十九歳。

 警備のアルバイトをして日々を過ごす。事件時のアリバイがなく、失踪した男とも同級生だったという事。

 さらに直近になって失踪した男とちょくちょく連絡を取っていた。


 英雄は殺害を認め、山中に遺棄した事も話した、が中々死体が上がらない。業を煮やした警察は英雄をつれて現場検証。

 英雄が言った場所はもう掘り返していたが、動物の死体が出来ただけ、だがそこをさらに掘り進めると失踪した男の遺体が見つかり、緊急逮捕となった。

 英雄は殺害理由についてある人を助ける為だと言い黙秘を決め込んだ。不気味な事件に世論も喜んでこのニュースに首を突っ込む。

 そんなニュースを部室で見ながらお茶をしているのはミーシャ達文芸部。

 紅茶を一口飲むと満月は呟く。


「なんでこう犯罪と政治をつなげて評論家は語るんだろうな?」



 森永のチョコケーキを食べながら一同は小説を書く手を止めてオヤツ休憩。古書店『ふしぎのくに』に通うようになってからこのオヤツタイムが癖づいていた。

 何分文芸部は各々のパソコンを持ち寄って小説を書くので、必要な物はプリンター用紙代くらいで部費は毎月そこそこに余る。



「まだ三個もあるじゃん。もーらい!」



 茜が二つ掴むので満月は冷静に言う。



「それでおまえの分終わりだからな。あとデブるぞ」



 太る。

 それは女子に言ってはいけない言葉の一つでもある。だが茜は笑顔のままチョコケーキをぱくぱく食べる。

 その様子を見てミーシャは無表情なれど思う。


(茜先輩はそういうのは怒らないんだ)


 一つ目を食べ、二つ目もぱくぱくと食べる。各々好きな飲み物を飲むのだが、茜はパンやケーキは牛乳一択であった。

 食べ終わるとケプっと可愛いゲップをしてから満月を睨みつけた。



「あぁ? 部長さんよぉ。喧嘩売ってんのか? 誰がデブだって、誰が?」

「デブとは言ってないだろう。我が部の紅一点。美人でスタイル抜群の理穂子が太ったら、我が校の損失は計り知れないと言っているんだ」



 こんなベタベタな誉め言葉が茜に効くのかと思っていたら、茜は怒り顔がだんだん緩んでいく。



「そうかそうか、分かればいいんだよ部長! ちょっとカロリン取りすぎたからその辺走ってくるわ」



 スカートを翻して走りに行く茜。なんと男前な先輩なんだろうなとミーシャは思う。

 しかしこの満月と茜は仲がそこそこいい。

 その為、ここでミーシャはなんとなくこの流れで聞いた。



「満月先輩と茜先輩って付き合ってるんですか?」

「……すぞ」

「えっ? なんて言いました?」

「殺すぞ! ミーシャ、この野郎!」



 本気で殺気を帯びた目をミーシャに向ける。それは満月にとってのタブーだったようでミーシャは焦る。



「えっと、満月先輩は頭良くて結構カッコいいし、茜先輩はあんな感じだけどみてくれはいいかなって……すみません」



 謝罪するのが一番だと思ったミーシャに満月は言う。



「ガキの頃から、毎年毎年毎年、二人はいい夫婦になれるねって親戚連中に言われ続けるとどう思う? それも年々凶暴になっていくんだぞあいつ。それに俺は心に決めた女がいる」



 そして唐突な発言。

 一体満月の心を射止めた女の子はどんな子か気になったが、ハァハァと息切れした茜が購買で購入したパンを喰いながら戻ってきた。



「ただいまん! なぁなぁ面白い話きいてきたよん」



 茜はウィンクするとそれにため息をついて満月は言う。



「どうせろくな事じゃないだろうけど、一応聞いてやる。話してみろ」

「この学校。埋蔵金あるらしいよ」

「ほら、くだらない事だ」



 それにはミーシャも最近聞いた事があったので話に割った。



「確か、創立から五年間、全校生徒が一人1000円ずつを積み立てた物を学校の何処かに埋めたって噂話、僕も聞いた事ありますよ」



 根も葉もない噂が何故今になって出だしたのか、それは今世論をわかしている元同級生を殺して埋めた犯人、彼はミーシャ達の学校の卒業生だったという事。

 そして、その埋蔵金を密かに手に入れようとしていたところ、お金の事で揉め殺害。という学生らしい自由な想像。

 満月の反応はドライなものだった。



「実にくだらないな」

「でも総額500万から一千万はあるらしいぜ。そんだけあればあいつの手術費に回せるかもな」



 茜がパンを喰いながらそう言うの満月は適当にあしらうと、ミーシャはそう思っていたが反応は違った。

 眼鏡の奥に見える満月の瞳は力に溢れ、高らかにこう言った。


「よし、てめーら発掘準備をはじめろ! 」

 

         ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そして翌日、毎朝の三題噺。

 本日は、『エクレア』『マダガスカル』『蟻』それをホームルーム前に書き出す三人。

 茜も黙ってDELLのゲームスペックマシンをカタカタとタイプしていた。

 ミーシャはmacbook、満月はmacbookproにポメラの二刀流。

 各々環境が違うが、今朝の練習は速く書く事と、タイピング練習。そして短い時間で物語を考えるという事で、フレッシュな思考をいつまでも継続できるようにするものらしいが、果たしてどの程度効果があるのかは三人には分からない。



「できたっ!」



 満月とミーシャは眼を疑った。へっへーとか言いながら茜が一番のりでプリントアウトをして教室を出ていくのだ。



「ふふふのふ、皆さんはゆっくりしていってくださいねぇ!」



 と古書店『ふしぎのくに』店主の真似をしていくのが、満月には非常に腹立たしく思えた。ペットボトルの珈琲を飲みながら満月は気を取り直して執筆に入る。

 ミーシャは、マダガスカル諸島の蟻がエクレアという物を観光客の話で聞いて食べにくストーリーを書いた。

 しかし、それはあまりにも無難そうで、古書店『ふしぎのくに』店主に面白いけど、もう少し独創性があった方がいいかもしれないと言われるだろうなと思ってプリントアウトした。



「満月先輩、お先です」

「あ、ああ」



 珍しい。

 いつも一番速い満月が今日はビリだった。満月はこの学園にあるという埋蔵金を探す事に躍起になり、先日一日部活時間を無駄にした。

 どちらかといえばパワー系の茜ですらもうないんじゃないかと諦めていたのに、辺りが暗くなっても満月はそこら中を掘り返していた。

 さすがにミーシャと茜で止めその日は終わったのだが、翌日。というか本日も発掘を行うつもりでいるらしい。


 自分のクラスの自分の席に座ったミーシャ、七季いずみが飛び降りてからもう二週間経とうとしていたが、クラスもミーシャもある程度落ち着きを取り戻していた。

 ただ、数日學校を休んだ担任の桐ヶ谷貫はショックのあまりか今尚元気が無かった。空元気で行うホームルームには生徒達が気を遣うレベル。

 一応桐ヶ谷貫は形式上ミーシャの入っている文芸部の顧問でもあり、ミーシャはホームルームを終えた貫に声をかける。



「先生」

「あぁ、大熊か、毎日七季のお見舞い行ってくれてるんだってな。ありがとう。本当なら俺が行かないといけないのに……」

「いえ、それは心の整理がついたら行ってあげてください。今日なんですが、満月先輩が学校の埋蔵金探しするんで、よければ先生も許可を出しているという名目で来ませんか? どうせ見つからないと思いますけど」



 ははっと苦笑しながら貫はその申し出を断る。そして去り際に貫は思い出したかのようにこう言った。



「先生もこの学校の埋蔵金の話は生徒達から聞いたよ。そういえば、創立時からの卒業アルバムにヒントがあるとか言ってたなぁ。まぁ他の部活の邪魔にならないようにな。後で差し入れくらい持って行ってあげるよ」



 貫は少しだけ元気を取り戻したようにも思えた。そして、文芸部なのに身体を張ってランダムに穴を掘るなんて馬鹿らしい事をするよりは、資料から割り出していく方がなんだか優秀な気がしてならない。

 放課後にはそれを満月に教えてやろうとそう思っていた。まだまだ学校では埋蔵金話でもちきりだったが、この情報が正しければ他の生徒達より一歩先に出る事が出来るかもしれないなとミーシャは少しテンションが上がっていた。


 有史以来、埋蔵金が見つかったという話は聞いた事がない。だいたいテレビのドキュメンタリー番組でも引っ張るだけ引っ張って、埋蔵金は見つからないものなのだ。

 お金は満月の知り合いの手術費用にしたいという物で手元には残らないのだが、浪漫がある。

 千年以上前の小判より数十年前の千円札の方が現実的なのだ。

 そんな事を考えながら教室につくと、ミーシャの席にアキと麗奈がやってきた。二人は妙にテンションが高い。



「おっす大熊」

「ミハイルおはよう」

「おはよう。二人共、どうしたの、楽しそうだね!」



 二人はブランド物のバックが沢山のった雑誌をミーシャの前にバンと置いた。そう、彼女達も埋蔵金狙いなのだ。



「大熊、一緒に埋蔵金探そうぜ! お前にも取り分やるからさ」

「そうそう、ウチ等と温泉旅行つきだよ。まぁ私はミハイルと二人でもいいんだけどね」

「ははっ、ごめんね。部活の先輩たちとその、埋蔵金探しするから」



 それにはそこそこの非難を受けた。茜と自分達どっちがいいのかと、茜がという比較がミーシャには理解しがたかったが、ミーシャは二人に満月の話をしてみせた。



「マジかよ。あの人、そんな良い人なの? ぱっと見二年の不良筆頭じゃん!」



 目つきの悪さに金髪、制服の着崩し方といい、満月はどちらかといえばチーマー側に見えなくもないが、その本質は真面目な優等生。

 何で校則に背くような事をしているのかはミーシャも気にはなっていたが、アイデンティティと一言言われて終わりそうなので聞く事もなかった。



「満月先輩はたまに小説で賞金もらってたり、物知りで、大人で凄い先輩だよ。とっても優しいしね」



 ミーシャの全力プッシュ。満月に関しては大人であり、本当にマイナスイメージがない。それを伝えるとアキと麗奈の様子が変わった。



「そうなの!」

「そんな風に言われるといきなり満月先輩がカッコよく思えて来たし」



 二人の中で満月の株が急上昇。それにミーシャは嬉しくなってきた。文芸部の部員が増えれば楽しいだろうし茜の事も話す。



「茜先輩もあれですごく頼りになるんだよ」



 突如二人の表情が曇る。



「あー、あいつの話はいい」

「それそれ、空気悪くなったし」



 女の子の反応が分からなさ過ぎてミーシャは苦笑、そして本日の昼食を奢る以外彼女等の機嫌を直す術が分からなかった。

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