幕間 不幸少女の顛末

回答話 七季いずみという少女

 七季いずみは奇跡的にも生存した。

 だが、意識は今だ戻らないまま、脳に強い衝撃を受けている為、このまま目覚めない可能性、そして目覚めたとしても高い確率で障害が残るだろうと言われている。



「大熊君、毎日ありがとうね」

「いえ……僕が助けられなかったので」



 いずみの両親はミーシャを責めるような事はしなかった。むしろ感謝してくれていた。家ではよくミーシャの話をして楽しそうだったと。

 何故いずみが屋上から飛び降りたのか、それに関してイジメや学業の不安等、色々憶測が飛び交った。

 だが、それら全ては見当違い。

 ミーシャはこの理由を知っている。


 それはいずみが書いていたノート『不幸貯金通帳』。あれは良い事が起こると、その分悪い事を受けなければならない。逆にいえば良い事が起きる為に悪い事に身を投じる必要があるという独自の宗教観に基づいた物だった。


『先生に大量のプリント運びをお願いされる。-1.大熊に声をかけてもらい助けてもらった。±0』


『お弁当を破棄-1、大熊君のパンをもらう+1』


『腕を捻挫させる。-2』


『怖めの女子二人に二千円をあげる-4.大熊に出会う。大熊君が雑誌を買ってくれる。ミルクティーをくれる。勘違いだけど、私をまもってくれた。+5 不幸になれば沢山大熊君に会えて優しくしてもらえる』


 この+と-の意味は、悪い事が起きたら-を増やし、良い事があれば+を増やす。彼女の行動から良い事がありすぎると大きな不幸に自ら貶める傾向にあった。

 満月は薄々この行動に気づいていたのかもしれない。

 それなのにミーシャは何も知らずいずみの+を増やし続けた。


『大熊君に部活の入部を誘われる+8』


『大熊君の部室をめちゃめちゃにして、自首。±0。大熊君に嫌われないかな?』


『保健室で大熊に心配される。+5.ランチに誘われる。+10。これ以上+が増えたら事故にでも遭わないとダメかな?』


 この『不幸貯金通帳』はそこで終わっている。満月がどうやってこれを手に入れたのかはミーシャも知らないが、この後いずみは食券機に悪戯をして、リストカットを行っている。

 それで溜まった+をどの程度減らせたのかは分からない。だが、彼女は屋上にて何かをしようとしていた。

 彼女に飛び降りを行わせたスイッチはミーシャの告白。彼女の幸福感はかつてない程の物だっただろう。それに相当する代償はもはや命をかけるくらいの行いでないといけない。



「いず、七季さんのお母さん。七季さんは、良い事があったら何か変わりに苦行を受けるような癖はありましたか? その分勉強をするとか」



 満月に聞いておいてほしいと言われた質問。満月の考えなら今までもこんな事があったんじゃないかとそう彼は言っていた。

 ミーシャの質問にいずみの母はそんな事はないと儚げな笑顔を見せて笑う。帰り際、いずみの母はミーシャにもう一度こう言ってくれた。



「大熊君、自分を責めないで頂戴ね」

「はい、大丈夫です。七季さん、またね」



 ミーシャは病院から帰る際、いずみを飛び降りさせないで済む方法がなかったのかと毎回考えていた。



「おーい、そこな悩める文学少年。芋でもくわんかねぇ!」



 高めの声でそう言ってぶんぶんと手を振る少女。茜、そしてもふもふと焼き芋を齧っている満月の姿。



「先輩たち、部活は?」



 無言で満月がスマートフォンを見せる。なんと満月が小説のショートショートの投稿で佳作をもらい一万円の賞金をもらえるという旨のメールだった。



「今日は満月様の奢りで焼き芋食い放題だぞ! 良かったなぁミーシャ」



 そう言って茜に抱き着かれ焼き芋を口元にもっていく。その際、女子だけあって茜の女子の部分がミーシャに当たるのでミーシャは赤くなって言う。



「茜先輩、離れてください」

「は? 私が汚いってか?」

「違いますよ」

「じゃあなんでだよ後輩の分際で生意気だなミーシャは」



 茜に絡まれている中、満月はゆっくりと焼き芋を食べ終えてからミーシャに言う。



「今回の件、不幸の手紙みたいなものだ。不幸の手紙ってのは、歴史は古くて大正時代から2000年頃のチェーンメール。今だとSNSのお題みたいな物だな。見た人もやるみたいな。ちょっと違うか? まぁいいや、七季いずみはミーシャと仲良くなるという結果からいつしかミーシャと会う事の目的と願掛けに不幸に身を投じていった。仲が進展すればするほど強い願掛けが必要になった。それが結果だ」



 ミーシャは今だに機嫌を直していない茜にピタリとくっつかれて睨まれながら焼き芋を一口食べる。

 甘い、家では再現不可能な焼き芋屋さんの焼き芋。味わいながらミーシャは満月に質問の答えを返す。七季は幸せの旅に不幸に身を投じるような子供ではないという事。それの導き出す意味がミーシャにはいまいちわからない。



「直近の七季いずみの流行だったのか、あるいは誰かに教わったか……考えすぎかもな」



 それを知ろうにもいずみは意識不明で推理は憶測の域を出ない。

 高校生の彼らにそれ以上の実行力もないし、今できる事は目の前の焼き芋を味わい楽しむ事。



「みんな公募にでも出さないか? 沖縄旅行三名様なんてのがあるんだが」



 それに反応したのは茜。



「沖縄とか外国じゃない!」

「お前はいつの時代だよ。沖縄にパスポートが必要だったのは戦後少しの間だ」



 あははと笑いながら、日が暮れていく。ミーシャは気分が落ちている自分を励まそうとしてくれている先輩たちに笑顔を見せる。



「あー、明日も小説書くぞぉー!」



 そう言って伸びをするミーシャを引いた目で見る満月と茜、それに物申すミーシャ。高校生らしい三人の姿と焼き芋の香りがあたりを包む。

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